5話 強者の殺気
そしてコクエイはゆっくりと頭を上げ、レイを顔の表情を伺いながら、
「いやいや、今後も敵対することはございません。おい! お前達その男達を捕らえろ! 財産もすべて没収し、このスメラギから追放せよ!」
『了!』
コクエイが声を上げると、各建物の影から次々と忍び服に身を包んだ者達が姿を現す。
洗練された動きで、逃走を図ろうとする男達を瞬く間に捕らえる。歓楽街の住民達も声を上げる。
「すっげー! 忍軍〝鵺代〟だ!」
「いいぞ! やっちまえ!」
「本当に毎日安心だわ! いつもありがとう!」
「っていうか、あのコクエイさんと睨んでるお兄さんカッコよくない!」
レイは心に思った。
(――ええ⁉ 最後の人だけ注目するとこ違うんだけどな)
だが、そんなことレイにとってはどうでもいい。
それより気になることは、ここまで住民達にも信頼され、この者達を鍛えた〝姫〟と呼ばれている人物は只者ではないということに。
(これは……ちょっと気をつけた方がいいかもな。負けることはないと思うが警戒はしておこう)
「では、レイ殿。〝姫〟の準備が整いましたので居城に向かいましょう」
「ああ、よろしく頼む」
レイはコクエイに案内され後を追うと遠目には我の国と言わんばかりの存在感を放つ巨大な城が佇んでいる。
「でっかいなー!」
「ははは! そうでしょう。あの城の天守に〝姫〟が居られます」
「だけど……あそこまで歩いて行かないといけないのか?」
「いいえ、転送装置にて天守まで転移できますのでご安心を」
城が佇む真下まで歩き続け、そこには緑に輝く転移装置が設置され、二人はそれに手を触れた瞬間、眩い光が放たれその場から姿を消した。
レイが目を開けると、そこは東方の独特な造りをした城の内部に転移していたのだ。
そして辺りを確認すると襖が部屋の仕切りという役割を果たしている。
木を格子状に組み上げ骨格を作り、そこにあまり流通していない特殊な紙を貼りつける。その紙には紅葉が本当にその場にあるかのような繊細で鮮明に描かれている。
「へえー、これが襖というものか。初めて見たな。興味深い造りをしている」
レイはそう一人でぼやきながら襖をまじまじと見るのだった。
「この襖に描かれた風景画もさすがだな!」
風景を描く職人という者は、本当に素晴らしい。描いたもので人々の心を動かし感動させるのだから。
「レイ殿、この襖の先に〝姫〟がお待ちです。どうぞ」
思はず息を呑むレイ。
なぜなら、この襖の先からとんでもない殺気が伝わってくるからだ。
(……かなりの実力者だな)
そして、レイが勢いよく襖を開けた瞬間――奥から刃が迸る。
〝姫〟は遠慮なく再び鞘から太刀を抜き、瞬時に間合いを詰めレイに斬りかかる。
それに反応したレイは笑みを浮かべると、
「へぇー、今の一撃を避けるとわね! 面白いよ! これは楽しくなりそうだね! レイ・ユナンシア君。いや、〝レイ・アザトース〟君!」
「いきなり斬りかかってきてなんなんだよ⁉ いい迷惑だ! それに何で俺の本名を……?」
「そんなつれないこと言わないでよ! わたしを楽しましてよ! もっと、ねえ!」
レイは〝姫〟と呼ばれる人物に問うが、まったく聞く耳すら持たない。
〝姫〟の凄まじき剣戟はレイに攻撃の隙を一切与えず、その剣戟は躊躇なく高速で首を狙って襲いかかり、剣筋がまったく見えないのだ。
剣戟を避け続けるレイは魔力障壁で攻撃を弾き返し〝姫〟の腹部に強く握った拳を減り込ませたはずだが――。
――だが、それは一瞬の出来事。
「ふふ! 面白いね! 〈燕返し〉」
拳を弾き返し、レイの周囲に光線が走ったかのように素早く身体の多くの箇所を一瞬で斬りつける。
首、腕、足、さまざまな箇所を確実に肉を断ち斬るかのように深く、深く斬り刻んでいく。
そして〝姫〟が妖しい冷気をまとった煌めく太刀を鞘に納めた途端、レイの身体の切り口から血が噴水のように勢いよく噴き出した。
「なーんだ。こんなもんか。魔王なんて恐れられていたけどたいしたことないね。ねえ、コクエイ死体を片付けておいてよ!」
「了。……ですが〝姫〟死体が……見当たらないのですが……」
「そんな……馬鹿なこと…………嘘でしょ!」
疑う様子で振り向く〝姫〟。
そこには斬る刻んだはずの身体も血の跡すら残っていなかった。
「おいおい、そんな簡単に死ぬわけないだろ!」
〝姫〟とコクエイが声の聞こえた方向を見ると、そこには確かに斬り刻んだはずのレイが立っていた。
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