4話 鵺代
都に足を踏み入れたレイは、入り口近くで見た時よりも想像以上の光景に足が竦む。
「こんな……場所が、まだ存在してたのか!」
武器屋に薬草など販売する商店、そして何よりも驚いたのが歓楽街だ。
ここは他の場所と違い、さらに人通りが多い。だが、レイにとって賭けなどは興味がない。どちらかといえば、建物に興味が湧いたのだ。人々が汗を流し、苦労して建てた建造物。これは後世への贈り物といえる。時代が進むにつれ脆くなるが人々が生きてきた証にもなるとレイは感じているのだ。
「これを……一から全部この都を造ったのか! すごいな!」
この都に足を踏み入れてからというもの、驚かされてばかりのレイ。フランに住んでいると、こんな光景を目にすることはない。
旅をしたいという気持ちもあるが、解決屋を空ける訳にもいかない。
(俺も……色々な国に行ってみたいな。……でも、な……そうだ!)
レイは拳を強く握りしめ将来的に色々な国に解決屋を開業しようと考えた。
色々な国に解決屋を構えれば、これで一つ旅に出る口実もできる。それで各地の解決屋には従業員でも配置をしておけば何とでもなるだろう。さらにはその名を世界に届かせることもできる。
この案は簡単なことではないが、成し遂げれば一石二鳥だ。
そう心を躍らせながら歓楽街を歩いていたレイの肩を男が強く掴んだ。その男は機嫌が悪いのか、酒癖が悪いのかはよくわからないが鬼の形相で喧嘩を吹っかけてきたのだ。
レイは一度何もなかったかのように振る舞い無視を続けるが男たちは諦めようとしない。
「おい! 兄ちゃん! 聞いてんだろ!」
「…………」
「無視してんじゃねぇぞ! このクズが!」
(はぁ、ややこしい奴に絡まれたな。どうしたもんか……)
「ははは! ここはよそもんがくるとこじゃないんだよ。そういえば、前もネムとかいう女が来たな。あの女いい身体してっからよ、襲っちまおうと思ったが、〝鵺代〟の連中が張りついていたから、それは叶わなかったがな」
「な、んだと」
レイの心の中で次第に怒りが込み上げてくる。
――気に食わない。
赤の他人が、ネムの話をすることが。アイツのことを何も知らない奴が……。
「それよりも兄ちゃん、金出せよ! 痛い目に遭いたくなかったら――」
「遭いたくなかったら、なんだって?」
レイは瞬時に男達の頭を掴み地面に叩きつける。だが、男は服の中からナイフを取り出した後、腹部を狙い勢いよく走り出す。
しかし、レイは一回、一回華麗にナイフをかわし続けるのだった。
「はぁはぁ、お前、何者なんだ! あり得ないだろ!」
男は息が上がって座り込んでいる。そこにレイが男のそばまで歩きながら言い放つ。
「そうか? 次は俺の番だな。――殺すか」
レイが笑みを浮かべながらそう言い放ち、禍々しい漆黒のオーラを身に纏う。
人間の精神力では耐えることすらできない負の感情――怒り、憎しみ、恨み、悲しみ、苦しみ。
男の頭の中にすべての感情が入り込んでくる。
自分達が何を相手にしているのか。
この世界にいてはならない存在。そして世界の均衡すらも崩しかねない力を有する存在。
「…………ま、マジかよ」
男は絶望に叩き落された。そして後悔し、殺されることしか考えられなくなってしまったのだ。
殺される。
殺される、殺される。
殺される、殺される、殺される。
人間達は昔、その者に跪くことしか許されなかったのだ。
レイはそんな放心状態になっている男を見て笑いながら言い放った。
「ふははは! 脆弱すぎる。話にならないな。まあ、目障りだ。俺の前から消えてくれ、〈暗黒弾〉」
手に込めた漆黒の魔力が黙々と膨れ上がっていく。本来なら初級魔法〈暗黒弾〉はすぐにでも放つことはできるが、ここに住む奴らへの見せしめでもある。自分に喧嘩を売ったらどうなるのかを。
そもそも、魔力を有している者は世界にごまんといるが、魔法を使用できる者は魔法適性を有する者だけだ。
魔法には〝初級魔法〟、〝中級魔法〟、〝上級魔法〟さらに、人智を超えた〝超級魔法〟が存在する。〝超級魔法〟に関しては使用できる者は世界でも数人。レイもその一人だ。
だけど、レイは普段〝超級魔法〟を使用することはない。魔力の消費量が非常に多く、完全回復までの時間がながいためだ。
そういう意味でも魔法というものを見せつけるだけでも人々は大人しくなる。
(久しぶりだな、魔力を使うのは……)
その時、レイの耳にコクエイらしき声が辺りに響き渡る。
「レイ殿‼ スメラギでの殺生はお控えください。〝姫〟のご意向ですので」
「俺は今、非常に機嫌が悪い。そんな俺を〝お前達〟は止めることができるのか?」
このレイの発言にコクエイの背中に悪寒が走る。
「はっはっは! コクエイそうビビるな、殺しはしないさ。俺はネムの意志を継いで解決屋をやってる。まあ、敵対するなら別だけどな」
じっと睨むレイにコクエイはゆっくりと頭を下げるのだった。
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