3話 紅葉の都
ネムが亡くなり早や三日……無事にネムの追悼式を終えたレイは一人寂しく解決屋へと戻るのだった。
今まで部屋中に響いていた話し声や物音が一切せず、ネムはもうこの世にはいないとレイは実感する。だが、一つ気がかりなことがある。
それは、ネムを襲った病が何だったのかだ。
大体の病は初級魔法である〈治癒〉で治すことができるのだが、今回は一切その効果を発揮しなかった。
追悼式の後、町医者であるミゲルにも確認したが、〝原因不明の病〟だということと、不可思議な点を伝えられたのだ。
まず、本来なら病にかかると症状が表に出てくるはずなのだが一切それが見られなかった。そこで、体内の臓器などが原因だと考えたミゲルは〈写内法〉と呼ばれる、体内の骨や臓器などに異常がないかを確認する魔法を使用し調べるも特に異常はなかったという。
原因不明な以上、手の施しようがなかったということだ。
そもそも、レイは知らなかったのだ。
ネムが毎日のように医者にかかっていたことも。体調が日に日に悪化していたことも。
レイは悔しくて、情けなくて仕方がなかった。自分がネムの一番近くにいたのに変化に気づけなかったことに……。
悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい、悔しい。
情けない、情けない、情けない、情けない、情けない、情けない。
この二つの感情だけが、今は大きく膨らみ続ける。
(……なんで、俺は……いつもこうなんだ……)
正義感で他人に手を差し伸べるが――いつも最悪なことに自分が望んでいた結果にならない。
そうこう思い悩んでいるレイのもとに一人の男性が解決屋に訪れたのだった。
その格好は全身黒ずくめで東方に伝わる忍びに似ている。
(いかにも怪しい奴がきたな。追い返すか)
レイは悩んだ。追い返すか、それとも話しかけるべきかを……。
「失礼する。解決屋とはここで合っているだろうか?」
「ああ、そうだが。すまないが……今は依頼を受ける気分じゃないんだ」
「ネム・ユナンシアの件であろう?」
「なぜ、お前がそれを……」
「その件も含めて我らの〝姫〟がお待ちになっている。ご同行願おうか」
「はあ! なんで俺が⁉」
「こちらは実力行使でも良いが……?」
レイは部屋の中を見渡し謎の男以外の気配も感じ取るのだった。
(およそ、六人……いや、七人か)
「俺を倒せるならそれでいいが、どうなんだ?」
「ほう、気配を感じられたので? それはなかなか、〝姫〟から聞いた通りの御仁のようだ」
「その〝姫〟とは誰なんだ? 何が目的だ?」
「一つ言えるなら〝姫〟は、あなたの過去に関係している人物とだけ……」
その言葉を聞いたレイは不思議に思う。
(……俺の過去といえば〝魔王時代〟のことだよな?)
「ああ、わかったよ。案内を頼む。そうだ。お前、名は?」
「我の名は〝コクエイ〟でございます。では、さっそく向かいましょう。レイ殿、手を」
忍びのような男がレイに手を差し出し、レイは手を置いた――その瞬間、部屋中に風が巻き起こりレイ達を包み込むのだった。
「お、おい‼ 部屋中めちゃくちゃじゃないか⁉」
「これは失敬。それより、レイ殿目を瞑って下され」
「ああ、もう、わかったよ。壊れた物は後で弁償してもらうからな!」
指示通り目を瞑ったレイは身体中が浮いたような感覚に見舞われ気分が悪くなっていく。
(……うっ、吐きそう)
そして、レイはあまりにも初めての経験で気を失ってしまうのだった。
「レ……殿、起き…………れ」
「ん…………なんだ? って、ここどこだよ⁉」
「目覚められたな。レイ殿」
慌てて立ち上がったレイの目線の先には、感動を覚えるほどの絶景。
(俺、今こんな高い所にいるのか?)
高所から山の麓から遠くまで広がる森一面を見ると太陽の光で宝石のように輝いている。
さらに、花の町フランの裏手に佇む巨樹〝ホリエス〟がとても小さくレイの目に映ったのだ。
「〝ホリエス〟があんなに小さく!」
そんなレイの周囲には赤く綺麗な紅葉が広がり、疑問の表情を浮かべた多くの人々に取り囲まれるだった。
(……ってか、ここ息がしずらいな。酸素が薄いのか?)
酸素が薄く息がしづらいレイのもとに、一人の少女が笑い声を上げながら近づいてくる。
「ねえ、ねえ、おにいちゃんだれ?」
「あ、ああ、俺のことか? レイだ、レイ・ユナンシアだ」
「ふーん。そうなんだぁ」
少女は質問した割には反応が薄く、すぐさまその場から去って行くのだった。
「ん! え! それだけ!」
少女が向かったその先には、人通りが多く様々な露店が道沿いに建ち並んでいる。そこは、賑やかで煌びやかな街並み。人や〝あの五年前〟に全滅したはずの種族《エルフ、ドワーフ、獣人など》様々な種族が行き交う。
「すごいな! この都は!」
「レイ殿、これはすべて〝姫〟が一から築き上げた〝紅葉の都スメラギ〟でございます」
「こんな都を山頂に築くなんて、本当にすごい人物なんだな」
レイは驚愕する。
その〝姫〟とやらが山を一から開拓し、ここまでの都を築き上げるのは普通の人間ができることではないと……。
「ええ、本当に。レイ殿、どうぞ都の中へ。〝姫〟の準備が整い次第、お声かけさせて頂きますので。それまでは、どうぞご自由に都を楽しんで頂ければ」
「わかった、楽しませてもらうよ」
「では、後ほど」
コクエイは一瞬でレイの前から霧のように姿を消すのだった。
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