19話 お仕置き
「魔王様、お遊びはここまで? 後、そこのバカ娘! お前もだ、あたしにまたお仕置きされたいのかな?」
先ほどまで喧嘩していた二人はこのセシルの言葉で沈黙した。
レイの身体から冷や汗が止まらない。
(やばい、やばいぞ、こいつを怒らせると……)
エリカもまた額から汗を流し、身体が痙攣しているようにビクビクさせる。
セシルがエリカに言ったお仕置きとは……お尻を手で叩かれることだ。
ある意味、今のエリカには公開処刑にもなるこのお仕置き。
昔はレイとの二人暮らしで、お仕置きされても恥ずかしさなど微塵も感じなかったが――今は違う。
エリカは大人に成るにつれ、そのお仕置きがいかに恥ずかしいものだったかを自覚するようになったのだ。
おまけに今回は弟子達の前でときた――こんな恥ずかしいことはない。
弟子達がエリカのお仕置きをされている様子を見て何て発言するだろう。
例えば『姫がお尻叩かれてるよ! ぷぷぷ』とバカにされたり、『情けないですね、師匠は……』なんて言われて憐みの目で見られたり、『わたし、師を変えたいです』とエリカの側から離れる者も出てくるだろう。
何としても、それだけは避けたい。
そう思ったエリカは自ら正座し、セシルに誠心誠意謝罪するのだった。
「セシルさん、どうか許してください! お願いします!」
エリカの謝罪を聞き入れたセシルは次にレイの方をじっと見つめる。
この場にいる皆は思った。
ここまでエリカも謝罪をしている――きっとレイも……。
だがそんな皆の期待は一瞬で打ち砕かれるのだった。
「な、何で俺が側近なんかのお前に謝罪をしないといけないんだ」
この言葉にセシルは呆れながら返答する。
「はぁー、魔王様、往生際が悪いよ。ほら、見てよ。この場にいるみんな呆れた顔。そんな強情な魔王様もあたしは好きだけど、きちんと謝るのがいいと思うんだよね。今後のためにも」
「そ、そうか、なら謝るよ。すまない」
「偉いね、魔王様。ちょっと成長したんじゃない?」
「えへへ、そうかな? ――って何だよ、俺を子供扱いするな!」
そんなこんなで今日二回目の騒動は収まり、再びヘルヘイムとの交渉に戻るのだった。
「――っでだ、ヘルへイム君、彼女の名はセシルだ。俺の一番の側近であり信用もできる。何かあれば彼女が守ってくれるだろう、そう我の側近なのでな。はっはっは!」
「何かレイ兄おかしいよ、喋り方とその態度、我は魔王だ、みたいな態度だけどやっぱり気にしてるよね?」
「お、俺が何を気にするって?」
「その姿」
「この姿で悪いのか⁉ 本当にどいつもこいつもバカにしやがって!」
「バカにはしてないよ、可愛いって言ってるだけで」
「それが、失礼なんだ!」
「あのお二人よろしいですか?」
またレイとエリカの話が長引きそうなのでヘルヘイムが間に入り止めに入るのだった。
「セシルさんを同行させて頂けるのはありがたいことなのですが、こっちとしては国王と揉めるのはなるべく避けたいのですが大丈夫でしょうか?」
「まあ、大丈夫だろう。俺よりは常識人だし問題ないだろう。なあ、セシル?」
「うん、問題ないよ」
「……そうですか。なら、いいのですが」
そして、ヘルヘイムとセシルは諸々の準備を整え、リゼル王国に向かうためスメラギを発つのだった。




