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12話 弟子入り

 そして、歩くこと数十分。


 森の奥地まで辿り着いた二人の前に巨大な屋敷が姿を現した。


 庭の花壇には色とりどり花が太陽のもとで咲き誇り、その隣には畑や田んぼ、さらに農場までもがある。


 これだけの規模となるとエリカは驚きを隠せない。


 両サイドに花壇が設置された長い道を歩き続けると屋敷の玄関が見えてきた。


 遠目で見える玄関でこちらに向かって手を振る自分と変わらないぐらいの少年少女。


――不思議だ。自然に心が温かくなってくる。


 思はずエリカは嬉しくて手を振り返してしまった。


 エリカは恥ずかしさで頬を赤く染める。


 それを見ていたシゲルはニコッと笑みを浮かべるのだった。


 玄関に到着したエリカとシゲル。エリカは玄関にいた四人の少年少女と挨拶を交わす。


「初めまして、エリカと言います。これから少しの間お世話になります。よろしくお願いします」


 四人の少年少女は思はず目を見開いた――エリカの礼儀正しさと貴族のような仕草に。


「僕の名前はシュウ。よろしく」


「わたしの名前はリン。よろしくお願いします」


「オレの名はルゲル。よろしくな」


「わたくしの名前はレイチェル。よろしくお願いしますわ」


「よし、これで挨拶は済んだかの。シュウ、リン、ルゲル、レイチェル。お前達は部屋に戻って魔法の勉強をしてこい、良いかの?」


『はーい!』

 

 四人は各自それぞれの部屋に戻って行く。


 そして、エリカはというとシゲルにこの屋敷の隅々まで案内をしてもらっていた。


 まず屋敷二階の今後エリカの部屋になる場所、一階の食堂、風呂場、手洗い場、そして訓練場。


 屋敷が広すぎることもあり、エリカは迷わないか不安になっていた。


 案内や今後行う訓練について説明であっという間に一日が終わった。


 今日はいろいろあった。


 男達に襲われ、気づいたらシゲルに助けられ、おまけに住む場所まで与えてもらった。


 明日からは戦闘訓練。


 レイより強くなるためにも明日から毎日頑張ろうとエリカは胸の前で強く拳を握りしめるのだった。


 

 そして、次の日。


 早朝からシゲルに庭にくるよう一階玄関から呼ばれるのだった。


 エリカは慌てて飛び起き、二階にある自室から庭に走って向かう。


 すれ違いざまにシュウやリンやレイチェルに笑顔で挨拶を交わす。ルゲルの姿が見えないが、まだ自室で寝ているのだろう。


 エリカは玄関の扉を開け、庭をじっと見つめるのだった。


 辺りを見渡していると、そこには腕を組んで仁王立ちしたシゲルの姿があった。


 シゲルもエリカの姿に気づき大きな声で語りかけてくる。


「こっちだ! 早くこーい!」


 エリカはシゲルに向かって走り出す――その姿はまるで親子のようだ。


「よし、エリカよ。今日から本格的に訓練をすることになる。準備は良いかの?」


「問題ありません。シゲルさん、いや〝師〟よ」


「まずエリカには世界の流派について学んでもらう?」


「はい!」


 そしてシゲルから流派の説明を受けることになったエリカ。


 この世界には大きく分けて四つの流派が存在している。

 一つ目は〝(せん)月流(げつりゅう)〟という主に剣で戦闘する流派だ。誰でも使いこなし易い武器――剣を使用することだけあって習う者は多いという。『初心者でも簡単』を売り文句にしている流派でもあるらしい。


 二つ目は〝乱絶流(らんぜつりゅう)〟という流派だ。己の肉体だけで戦闘する流派。武器などは一切使用せず、自分の拳と脚だけで戦う接近戦を得意としている。


 三つ目は〝魔法団(まほうだん)〟という流派だ。遠距離の戦闘を得意とし魔法で相手を蹂躙する流派だ。


 最後の四つ目は〝影流(えいりゅう)〟という流派だ。東方の武器〈太刀や小太刀〉を使用し、素早い攻撃で相手に隙を与えない戦闘を得意とする流派だ。


 しかし、この流派の名は有名ではあるが、弟子は数人しか存在しないという。


 それは、なぜか――理由の一つはこの流派の技をすべて習得しているのは世界でたったの三人だからだ。


 彼らは〝剣神(けんしん)〟と呼ばれ、世界でも警戒されている人物――その者こそ、エリカの前で流派について説明しているシゲルもその一人だ。


 この中から一つの流派に加入すれば、今後は他の流派への移籍、および技を習得することはできないみたいだ。


 もし、その掟を破った場合は、所属していた流派から追放され、さらには戦闘関係の仕事を受注することができないらしい。


 なので、代表的な冒険者や王宮騎士団、そして自警団など目指す者はかなり悩んでから、自分に合った流派に加入するみたいだ。


 この説明をしたうえでシゲルはエリカに問いかけた。


「エリカはどの流派を学ぶ?」


 だが、エリカの中ではとうに決まっていた。

 

「わたしが学びたい流派は……影流(えいりゅう)です」


「ふははは! そうか。だけど大切なことを忘れておる。誰からその〝影流〟の技を学ぶんだ?」


「それは〝師〟に」


「そうか、選んでくれて嬉しいのう。違う流派を選べばすぐにでも追い出したんだが、なぜ儂が〝剣神〟の一人だと気づいたんだ?」


「まず一つ目はわたしの太刀を見た時の顔の表情です。あの時〝師〟は、この太刀を以前見たことがあるような感じでした。二つ目はかなりの強者と思えました。普段から隙がなく歩き方から戦闘の身のこなしまで、口が塞がらないほどでした。それが理由です。あと、どことなく戦い方がレイ兄と似ている気がしたんです」


「嬉しいのう。そうか、似てるか……」


 シゲルは嬉しそうにエリカに微笑む。


 エリカもそれに静かに笑みを返すのだった。

 

「よし、早速修行を始めるかの。辛い日々になるかもしれんが覚悟はできておるかの?」


「はい! 師よ」


 そして厳しい修行が始まったのだった。


 初日の修行からかなりハードで日常生活ではあまり使わない動きを繰り返したことにより、身体への負荷はかなりのものだった。


 屋敷の周りを数えきれないほど走り、影流ならではの型を一から教わった。


 相手の力を利用した受け流しの型や太刀の特性を生かした反撃の隙を与えない攻撃の仕方など高度ともいわれる影流の技を伝授してもらったのだ。


 シゲルは必死に頑張るエリカの姿を見て驚いた。


 エリカには素質があるのか覚えも速く、型を覚えるのも苦労している様子を見せない。


 伝授したことはすべてその一日でやり遂げエリカは舞い上がる。


「師よ。わたしはどうでしたか?」


「まあ、順調だな。覚えも速くいい加減でもない。今日はこの辺で良い」


「ありがとうございます。師よ」


「ああ、今日はもう休みなさい」


 エリカはふらふらになりながら屋敷へ戻っていく。


 それを見たシゲルはエリカの評価を改め直したのだ。


 エリカは正直世界でも数少ない天才と呼ばれる者かも知れない。一日であそこまで技を習得し、さらにはそれが完璧ときている。本来の人間ならあり得ないレベルなのだ。


 それは、なぜか――普通の人間なら型を覚えるのに一ヶ月、それを完璧にするのに一ヶ月、最終的にそれを実践に活かせるまでが個人差で大きく変わる。


 シゲル自身もすべて習得までかなりの時間がかかった。


 エリカは紛れもない天才――いや、化物だ。


 シゲルはわくわくしていた。どこまで強くなるのかを……。


 もしかしたら自分の〝師匠〟に一太刀浴びせることもできるかもしれない。


 時間があるかぎりエリカを最強へと育て上げよう――〝師匠〟から頂いたシゲルという名に懸けて。


 シゲルはそう決意したのだ。

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