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11話 シゲルという名の男

 だが、一向に斬りつけられることもなく身体になんの痛みもない。


 恐る恐る目を開けると、そこには勇ましい姿でガッチリした体型の老人が男達をなぎ倒している。


「はぁ、子供に手を出そうとするとは……」


 老人はそう言い男達を縄で縛りあげ木に吊るした。


「お前ら、そこで大人しく反省してろ」


 エリカはその老人にお礼を言うのに立ち上がった。


 そして、大きく頭を下げたのだ。


「おじさん。助けてくれてありがとう」


「いいんだよ。嬢ちゃん。だけど、こんな森の中でなにをしていた? 最近は魔族との戦争で危ない奴らがうろついてるから気をつけなさい」


「……うん。でも、『魔国サジル』に家族がいるの」


「ああ、……そう……か」

 

 シゲルは口ごもった。

 

「あ、そうだ。儂の名はシゲル・スメラギだ。嬢ちゃんは?」


「わたしは……エリカ」


「そうか……君が……」


 シゲルはその名の女の子、さらには名をつけた人物のことを知っていた。


 単なる偶然か。それとも運命なのか。


 シゲルはしゃがみ込みエリカと目線を合わせ問いかけた。


「エリカちゃん。どういう事情があるかはわからないが、家にくるかの? 同年代くらいの子が何人かいるんだが……どうするかの?」


「でも、知らない人について行ったらダメだって言われてるから……」


「儂は君に名をつけた人物のことをよく知っておる。ほれ、これを見てみ」


 ズボンのポケットから出した一枚の写真には若かれし頃のシゲルとレイの姿が写っていた。


 この写真を見る限りレイの容姿は昔から変わっておらず、そのままの姿だったのだ。

 

「わかるかの? 左が儂で右がレイだ、彼は命の恩人なんだ。ある山で鉱石の採掘をしていた時に崖崩れがあってのその時、儂は不運ながら下敷きになってしまった。意識がだんだんと遠のくなか、たまたま、通りかかったレイに救われたんだ」


「そう……なんだ、でも……」


「怖い……かの? まあ、エリカちゃんの好きにするといい。ついてくるのも良し、ここに残るも良し。決めるのはエリカちゃん、君だ」

 

 シゲルはゆっくりと歩き出した。


 エリカにはこの先どうしたらいいかすらもわからない。


 だけど、一つだけ決意したことがあった。


 レイにもう『お前は、いらない』とは言わせない――絶対レイより強くなる。


 さっきの男達との出来事で今まであやふやだった感情が決意に変わったのだ。


 だから今、自分が進むべき道は……。


「シゲルさん! わたしを連れて行って下さい! それと、わたしをシゲルさんのように強くして下さい! お願いします!」

 

 エリカの決意の声がこの深い森に響き渡る。


「じゃあ、ついてこい」


「は、はい!」


 シゲルの後を追いかけるエリカ。


 前を歩くシゲルの背中は逞しく、堂々と強者の風格を漂わせていた。

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