97回目 地震と亀裂
「お願いします! 命をかけて! 死に物狂いで働きます! だからどうか俺ひとりで!! 家族には! 家族には手を出さないで下さい!!」
「あ、いや…………。別に…………」
「どうか! どうかお願いします!! 俺は! 俺はどうなってもいいですから! どうか家族だけは!!」
大火傷を負ってずっと看病されていたからか、アレスは全裸である。全裸のイケメン細マッチョが、俺達に土下座を敢行している。
何これ。どうすんのこれ?
「お、お兄ちゃん!? え!? 治った…………!? 何してるの!?」
「兄ちゃん!!」
「アレス!! 良かった! アレス!!」
「……………………なぁガモン。何がどうなってこうなってんだ?」
アレスが大声で喚いていたからか、アレスの家族やトルテもこちらへやって来た。
妹のアリアは目覚めたアレスの醜態に絶句しているが、弟のアラムと母親のアレマーは関係なく抱きついて泣いている。そしてトルテは、俺に答え難い質問をぶつけて来た。…………俺にだって分からねぇよ。
「母さん! アリア! アラム! 心配かけてゴメン! 皆がどんな契約をしてこの人達を連れて来てくれたのか解らないけど、借金は俺が命をかけて…………」
「とりあえず服を着て!!」
カオスだったその場は、アリアのもっともな一言で収まった。
◇
復活したアレスだったが、ずっと寝ていたからか当然の如く腹ペコだったので、まず弱った消化のためにあまり大きな具が入っていないシチューを食わせてから、説明に入った。
「じ、じゃあ、本当にアリアとアラムに頼まれただけで助けてくれたんですか? なんの見返りもなく?」
「いやまぁ、後付けだけどこっちにはこっちの事情もあったからな。それに実際、俺達はアカメアリを蟻塚ごと駆除する依頼も受けているし、ここに話は聞きに来たとは思うけどな」
取り敢えず、俺達にアレスの家族をどうこうする気はない。それだけはしっかり説明しておいた。
「い、いや! ですが! 俺は自分でも死を覚悟するくらい酷い状況でした。たとえ生き残ったとしても働ける様になるとはとても思えなかった。それをここまで完璧に治したのですから、あれは普通の薬ではないですよね!?」
まあ『ハイポーション』です。しかもあの後にシエラが教えてくれたのだが、ハイポーションの中でも上位に位置するかなり良いハイポーションだったらしい。
でも、『ガチャ・マイスター』の『ポイント・ショップ』にはハイポーションは一種類しか無かったのだから、俺には関係のない話だ。
「とにかくだ。俺達に対価を求める考えはない。どうしても気になるなら、アカメアリ討伐に協力してくれ。特にアレスは、アカメアリに囲まれるくらい近くに行ったんだろ? なにか知っている事があれば教えてほしい」
「はい! 俺の知っている程度の事でよければ、なんでも聞いて下さい!!」
真っ直ぐに俺を見て頷くアレス。なんだか凄く好感の持てる若者だな。体育会系で礼儀正しい、シュッとしたイケメンだ。
「じゃあまず、そもそもなんで囲まれる程、蟻塚に近づいたんだ? あの蟻塚は急激にでかくなったと聞いたぞ? 危ないのは解っていただろ?」
「それは…………、あの蟻塚のあった場所の地下にあった物が、急激に巨大な蟻塚が出来た原因かも知れないと思ったからです」
「…………どういう事だ? 詳しく説明してくれ」
「はい。あれは蟻塚が造られる数日前の事です。俺が畑で仕事をしていると、急に地面が揺れたんです」
それは紛れもなく地震だった。それがどの程度の大きさの地震だったのかは解らないが、少なくともアレスは、驚いて尻餅をつく程の大きさだったと言う。
「地面の揺れが収まってしばらくしてから、俺は畑に異常がないか見回りに行きました。そこで畑の南側の地面に、細いけど深い亀裂を発見したのです」
地面に走る細い亀裂を見ても、アレスは気にしなかった。地震自体は珍しいが、無い訳ではない。こういった地面の亀裂もたまに見るし、それはいずれは消えてしまう程度のものだ。
しかしその日だけは違った。亀裂の一部からわずかに漏れる光を見て、何故か近づきたい衝動に駆られたアレスは、地面に寝そべって亀裂の中を覗き込んだ。
覗き込んだ亀裂の先には、虹色の光の玉が見えた。アレスはその時、猛烈にそれに触れたいと思ったそうだ。だが亀裂は細く、深さはそれなりに深かった。とてもアレスの腕が入るとは思えなかったし、そこまで掘り進めるのも無理があった。
諦めきれないアレスは、どうにかして光の玉を手にしようともがいていたが。そこに先客が現れた。
眼が赤く、その尻の部分だけは白くて大きい。そう、それこそが今回の現況たるアカメアリの女王だった。
「……………………や、やめろ! それに近づくな!!」
亀裂の奥に向かって叫ぶアレス。しかしアレスの声はアカメアリの女王には届かず、アカメアリの女王は虹色の光の玉に牙を立てて、それを吸収してしまったのだった。
「…………正直、アレが何だったのか、どうしてアレがあんなに欲しかったのかはわかりません。ですが俺はあの光にアカメアリの女王が喰らいつくのを見てましたから、今回の事にアレが無関係だとは思えなかったんです」
「虹色の光か…………、確かになんかありそうだな」
俺がそう言って仲間を見るとトルテは頷いてくれたが、シエラは口元に手を置いて考え込んでいた。
「どうしたシエラ? 何か心当たりがあるのか?」
「…………はい。もし、話にあった地震もその光と関係があるのだと仮定するのなら、ですが。…………その光の玉は、『ダンジョンコア』かも知れません」
「ダンジョンコア!? …………あっ! モンスターがダンジョンコアを破壊して進化が起こるってアレか!?」
「ガモン様はそれを知っているのですか? それほど一般的な話ではないはずですが…………」
「…………ああ、前にちょっとな…………」
普通よりもデカイ『アカメアリ』に、普通ではない城のような蟻塚か。
…………なるほど。つまりそれは、アカメアリの女王がダンジョンコアで進化して起きている現象な訳だ。
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