92回目 ヘテナ村
「…………おいおい。蟻塚ってアレか? 城じゃんアレ。蟻城じゃん」
ヘテナ村まで歩いていると、村の南側に幾つもの尖塔を持った岩山が見えて来た。なんか聞いていた話と違うんだけど。あれじゃあ、お湯をかけるなんて不可能だろ。
「うっわ! なんだアレ!? あれ本当にアカメアリの蟻塚か? 城じゃん!」
「…………凄いですね。あれを本当にアカメアリが造ったのですか?」
呆然と呟いたシエラはいいとして、唯一のアカメアリ退治の経験者であるトルテが違うとか言い出してるんだけど。本当に違うんじゃないか、アレ。
俺達はもはや城だと言えるアカメアリの蟻塚を横目に、ヘテナ村へと入った。
シエラの説明によると、ヘテナ村は元々は南の国から流れて来た人達が造った村で、とくに特産品などはない、農業とヤギの放牧で生計を立てている村だそうだ。
まあ確かに、家もまばらで人も少なそうな村だ。俺達はまず近くにいた村人に声をかけて村長の家がある場所を聞き、そこに向かった。
「おおっ! お待ちしておりました、冒険者の方々! ワシは村長のソムリと申しますじゃ」
村の村長に会い、依頼を受けた冒険者だと名乗ると、年老いた村長が助けが来たとばかりに走り寄って来た。それは何やら、ずいぶんと切羽詰まった様子だった。
「はじめまして。冒険者のガモンです。こっちはシエラとトルテです」
「さっそくですが知恵を貸してくだされ。あの巨大な蟻塚をどうにかしたいのですが、もうワシらの手には余るのです。この村の若者が出稼ぎに行っている間に蟻塚ができ、村の者だけでは対処が難しかったので直ぐにギルドに依頼をさせたのですが、ほんの数日であれほどに大きくなってしまい困っておったのです。どうにかなりませんか」
「数日で、ですか。…………あの、あれは本当にアカメアリの蟻塚なのですか?」
村長の言葉にシエラが疑問を返したが、村長はあれは確かにアカメアリの蟻塚だと口にした。
「確かにそう思われるのも無理はありませんが、アカメアリの姿は、ワシも含めて村の者が何度も見ております。ワシらの知る限り、あれは確かにアカメアリでした」
「村長さん。アカメアリの大きさは普通のヤツなのか? 俺が住んでた村でもアカメアリが出た事はあるけど、数日であんなにでかい蟻塚なんて造れると思えねぇんだけど」
トルテが言っているのは、様々なモンスターから稀に出現する変異種の事だ。しかし普段からモンスターの相手をしているわけでも、モンスターの研究をしているわけでもない村の村長にそんな事が解る筈がない。なのでトルテの問いに、村長はただ首を横に振るだけだった。
「確かに、あんなにでかい蟻塚を造るアカメアリは初めてですが、あれはアカメアリだとしか言い様がないのです。ワシらもあんなのは初めての事なので領主様に助けを求める声も上がったのですが、なにぶんワシらは元々この国の者ではないので、騎士様を寄越してくれますかどうか…………。なのでここは、冒険者様方に頼る他ないのです」
「さすがにこの事態を報せれば無視する事は無いと思いますが…………。ガモン様、まずは様子を見にいきましょう」
「そうだな。依頼も受けた事だし、まずは俺達が動こう」
「だな。俺達の手に負えないとしても、ギルドに報告はしないといけないしな。まずはあの蟻塚を近くで見に行こうぜ」
そうと決めて村長の家を出ると、出てすぐの所に村の子供が二人立っていた。
その内の一人は気丈そうな女の子で、その背中に隠れるように女の子よりも幼い感じの男の子が、ビクビクと顔を覗かせている。
二人は村長の家から出て来る俺達を待っていたようで、俺達の前に立ち塞がるように立っている。気になるのはその二人の様子で、何やら切羽詰まった感じが見てとれた。
「あ、あの! た、助けてくれませんか?」
突然そんな事を言う二人に面食らっていると、シエラが前に出てしゃがみ、子供達に優しく話しかけた。
「何があったのか、聞かせてもらえますか?」
「は、はい!」
「では、そうですね。…………あそこに座りましょうか」
シエラが女の子から話を聞くために、二人を村長の家の近くに置いてあった椅子へと誘導する。
木製の椅子は短いベンチのような物で、子供が二人で座る分にはちょうど良い形をしていた。
「それで、何から助けて欲しいのですか?」
「お、お兄ちゃんを、治して下さい! お願いします!」
シエラが二人の子供から聞いた話をまとめると、どうやらこの子達にはもう一人兄がいるらしく、その兄が、大ケガを負っているようだ。
どうもその大ケガをした兄は、アカメアリが畑を荒らそうとしていた所を追い払おうとしていたらしく、畑に近づくアカメアリを棒で叩いて倒していたらしいが、複数のアカメアリに火の玉を吐かれ、それがもとで酷い火傷を負って苦しんでいるようだ。
これが街であれば、ポーションを使ったり教会に行って治癒師に治癒魔法で治してもらうようだが、あいにくこの村にはポーションも教会もない。
そんな中で二人は俺達が村にやって来た事を知り、その大火傷を負った兄の為にポーションを譲って貰おうとやって来たらしい。とても健気な子供達である。
「ガモン様、私が行ってもよろしいですか?」
「ああ、もちろんだ」
俺の方を振り返ってシエラがそんな事を聞いて来たが、聞くまでもない。俺達は二人の子供に案内をしてもらって、その大火傷をした兄がいると言う二人の家へと向かったのだった。
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