88回目 グダグダな休日
Fランクに上がった翌日。今日は冒険者はお休みである。
だって俺、飲む気満々だったし、絶対に二日酔いになるのも解っていたからな。予防線をバッチリ張っていたのだ。俺に抜かりはないのである。
「…………抜かりがない人は、二日酔いになるまで飲んだりしませんよ。もう少し苦しんで反省して下さい」
「そ、そんなこと言わないで治癒を、…………治癒をお願いしますぅぅ…………!」
「いいえダメですわ。ここで治癒をしたら癖になります。少し待っていて下さい、二日酔いに効く、とっても苦い薬を作って差し上げますわ」
「治癒ぅぅ…………!」
「ダメです!」
とても辛い二日酔いが一瞬で治る治癒をシエラに拒否され、俺はもうしばらくソファーの上で苦しむ事になった。
誰かに助けを求めようにも、この寮の住人達はすでに仕事に行っており、共有スペースのソファーでグダッているのは俺だけである。…………シエラが怒っているのは、このせいもあるかも知れない。
そしてしばらくすると、シエラがお盆に乗せて運んで来た湯飲みを、俺が苦しむソファーの隣にある丸テーブルに乗せた。
「……………………ぅえ?」
「二日酔いの薬です。全部飲んで下さい」
ソファーから頭だけ動かしてシエラが言う薬を見ると、何やら『ボゴンッボゴッ…………』と言う音と共に、怪しげな紫色の湯気が出ている湯飲みがあった。
…………いやぁーー、無い。無いわぁーー。
俺はその湯飲みを見なかった事にして、頭を戻そうとした。だが俺が頭を戻そうとした瞬間、シエラの手が俺の頭を鷲掴みしてそれを許さなかった。
「痛い痛いたいたいたいっ!? 痛いって!? 物理的に痛い!!」
「二日酔いに効く薬をせっかく作ったんですよ? 飲んで下さい!」
ギリギリと締め付けられる頭に悲鳴を上げながら、俺は俺を護るハズの護衛の脅しに…………屈した。
◇
「……………………ハッ!?」
気がつくと、俺は寮の共有スペースの端っこで寝ていた。この場所には俺の生活ガチャから出て来たフカフカのカーペットが敷かれ、同じく生活ガチャから出て来たぬいぐるみが山と積まれており、俺は何故かそのぬいぐるの中に埋もれるように眠っていた。
…………なんだ? 何が起きたんだ?
共有スペースを見渡してみれば、相変わらずガランとしていたが、そこに一人だけ普段はいない人物がいた。
「よおガモン。やっと起きたんだな」
「トルテ? なんでお前がここに居るんだ」
「シエラが連れて来てくれたんだよ。いやー、二日酔いって辛いんだな。兄ちゃん達が苦しんでいるのは何回か見てたんだけど、シエラが来て治してくれなかったらヤバかったよ」
トルテの話を聞くと。朝、ザッパ達が仕事に出掛けても二日酔いで苦しんでいたトルテは、宿のおじさんに掃除の邪魔だと追い出されそうになっていた。
そこにトルテの様子を見に来たシエラが現れて治癒魔法で二日酔いを治し、行く所のなかったトルテをこの寮に連れて来たらしい。
「マジで? お前、治癒魔法かけて貰えたの? 俺なんか死ぬほど苦い薬を無理やり飲まされたんだけど」
「…………ああ、だから白眼むいて気絶してたのか。俺もシエラに、「毎回治癒をしたりはしませんからね」って言われたから、次はそれを飲まされるのかも知れねぇな。…………俺が来た時、ガモンはうつ伏せに倒れていてさ、ひっくり返してみたら白眼むいて口から紫色の煙吐いてたから、思わず投げ飛ばしちまったぜ」
「俺がぬいぐるみに埋ってたのはお前のせいかよ」
と、その時。俺の腹から空腹を訴える鳴き声が響いた。朝から何も食ってないからな。ってか今は何時だ?
「おっ、飯にするか? ガモンも復活したし、シエラが戻ったら昼飯食いに行こうぜ」
「もう昼時なのかよ。そういやシエラはどこ行ったんだ?」
「なんか教会に行って来るって言ってたぞ。すぐ戻るって言ってたし、もう戻って来てもいい頃だな」
「そうか。…………うーーん、飯かぁ。…………焼きうどん食いてぇ」
「ん? 何だよそれ。どこで食えんの?」
「トルテは焼きうどん知らないか。まぁそりゃそうか。…………うーん、外で食えるとも思えねぇし、しょうがねぇ作るか。確かうどんあったハズだし」
寮の共有スペースの隣には、食堂とけっこう広めのキッチンがあり、そのキッチンにはドでかい『業務用冷蔵庫』が鎮座していた。
言わずもがな、これは生活ガチャから出て来た物で、☆4のアイテムである。
扉はデカイのが右側に一つと、左側には上下二つに別れているのが付いている。右側を開くと、かなり広々とした棚付きの亜空間が広がっており、そこにはかなりの量の食料が入れられている。これのお陰で、前に大量に出したガチャ食材は、全てここに収納出来ている。
そして左側は上が冷蔵で下が冷凍に別れており、こっちはこっちで、かなりの量が入るのだ。
ともかく、俺は冷蔵庫から生麺タイプのうどんを4玉分とタマネギにキャベツにニンジンとソース。あとは調味料を入れている棚から、胡椒や鰹節なんかを取り出した。もちろん全部ガチャ食材である。
おっと、豚肉を忘れていた。俺は野菜だけでもいいんだけど、トルテもいるから肉は入れてやろう。若い奴はとにかく肉だ。
IHコンロもあるし、フライパンやらもガチャから出て来た物を使うから、日本にいるのと変わらないな。なんて事を思いながら俺は焼きうどんを作り、作っている最中に帰って来たシエラも交えて、三人で焼きうどんを食べた。
初めての焼きうどんはシエラやトルテに好評で、トルテにせがまれてお代わりを作る事になったが、悪い気はしなかった。炒める系の飯は、けっこう得意なんだよ俺。
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