87回目 祝・Fランク
「「「カンパーーイ!!」」」
今日こなした依頼で達成数が五回となり、俺はFランクになった。同時に、最後の二回は別行動だったが、トルテもまた五回の依頼をこなしてFランクへと上がったので、俺達はそれを祝してちょっとお高いレストランへと夕食を兼ねた打ち上げに来ていた。
まあちょっとお高いとは言っても、トルテが「凄くうまそうな匂いがするんだけど、ランチの値段が高いからまだ入った事は無い」と言っていた程度の店である。ぶっちゃけ、レストランと言うよりは大衆食堂のちょっといいやつだ。
「おおーーっ! うまそうだな! なぁ本当にいいのか、ガモン? 奢って貰って」
「ああ、もちろんだ! 今日はお祝いだからな、好きなだけ食ってくれ!! シエラもな!」
「はい! ではお言葉に甘えますね」
レストランのウェイトレスには、最初に金貨を渡して料理はお任せで頼んである。だから俺も何が出て来るのか解らないのだが、テーブルの上には肉も魚も並んでいるので、お任せにしたのは正解だったようだ。
もちろん酒も頼んであるぞ。俺の分だけだがな。
「この肉ウメェ! おっ! こっちの魚もいけるな!」
「このグラタンも美味しいですよ。私、パイで包み焼きにしている料理が好きなんですよね」
「お、いいな包み焼き。俺にも分けてくれ」
うまい料理を食いながらエールを飲む。異世界物のラノベやら漫画やらでよく出て来る酒だが、日本ではまずビールだったから、エールってのはこっちに来てから初めて飲んだ。
炭酸と言えるほど炭酸が強くないし、ビールとは苦味も違うが、俺はこれはこれで嫌いではない。温い事については言いたい事もあるが、まぁしょうがない。
でも、やっぱり飲み始めはあのビールの爽快感が欲しいなぁ。この場で缶ビールを出すのも気が引けるからやらないけどな。
「なあガモン、俺もエール頼んでいいか?」
「いや頼んでいいかって、トルテは十五だろ? 法律的にダメだろ普通に」
「なんだよ法律的にって、だったら良いじゃねぇか」
「…………?」
トルテが言っている意味が解らなくてシエラを見ると、シエラがジョルダン王国での飲酒は、十五才から認められていると教えてくれた。マジ? 十五から酒飲むの? 大丈夫なのそれ?
「いやまぁ、法律的に大丈夫なら止める理由は無いか。いいぞ、頼んで」
「よっしゃ! すいませーん! こっちにエール一つ! シエラは飲まなくていいのか?」
「ええ。私お酒はあまり得意ではないので」
「そうなのか? 俺は初めて飲むから分からないけど、たぶん強いぞ! 冒険者は酒に強いんだ!」
「いや冒険者は関係ないだろ。…………ってか初めて飲むのかよ!?」
「兄ちゃんが、俺にはまだ早いって飲ましてくれないからな。へへっ、楽しみだ」
マジか。ちょっと早まったな。…………まあでも、確か今の宿は兄ちゃん達と一緒だと言ってたから大丈夫だろう。俺が無理やり飲ませた訳じゃないし、トルテの兄ちゃんには諦めてもらおう。
たっぷりと食べて飲んで。俺もいい感じに酔っぱらってきた所でお開きとなった。
問題があるとすれば、トルテがぐでんぐでんになっている事だが、念のためトルテが泊まっている宿の場所は聞いていたので、俺が背負って送って行った。
「おいおいトルテ、思いっきり呑んで来やがったな」
「うへへへ…………。にぃちゃんらぁーー。たーいまーー…………。えうへへへぇ…………」
俺が入った時に、客が来たのかと顔を向けて来た宿のおじさんは、俺が背負っているトルテを見て全てを察したらしく、俺に「ちょっと待ってろ」と言って二階に上がり、ザッパを呼んで来てくれた。
宿のおじさんの後からやって来た、トルテにソックリの青年ザッパは、俺の背中でぐでんぐでんになっているトルテを見て盛大に溜め息をついた。
「あーあー。こんなになっちまって。すいませんでした。トルテは俺が引き受けますよ」
ぐでんぐでんのトルテを、シエラの手も借りてザッパの背中に移した。トルテはそれだけで安心したのか、今まで騒いでいたのが嘘のように眠りはじめた
「あーー。よろしく。えっと、ザッパだっけ?」
「え? はい。そうですけど…………。あ、もしかしてガモンさんとシエラさんですか」
「あーー、呼び捨てでいいよ。ゴメンな、Fランクに上がったお祝いやってて、つい酒を飲ませちゃったんだ」
「いえ。トルテが飲むって言い出したのは想像がつくんで。トルテからはEランクに上がるまで二人とパーティーを組むと聞いています。弟をよろしくお願いしますね」
「こちらこそ、よろしく」
「ええ。私もよろしくお願いしますわ」
お互いに頭を下げたせいか、ザッパの背中に移動して寝息を立てていたトルテが目を覚ました。
「おりゃりゃ、よってないってーー!」
「あー、わかったわかった。それじゃあコイツは連れて行きます。面倒かけました。…………えっと、ガモンにシエラ。またいつか」
「ああ。あとの二人にもよろしく」
「では、失礼しますわ」
トルテを背負ったザッパに見送られて宿を出たが、あのザッパってのは、随分と礼儀正しかった。本当にトルテの兄ちゃんなのか疑うレベルだったな。顔はソックリだったけど。
俺は酔いざましに出したミネラルウォーターを飲みながら、シエラと二人で寮へと帰った。
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