83回目 大商人の教え
「ほほぅ! これは凄いですな! 確かにステータスが見えますし、このレーダーチャートですか? これは解りやすくて良いですな!!」
首尾よく俺のフレンドとなり、見破り眼鏡を装備して遊んでいるゲンゴウは大興奮だ。
しかし、そのゲンゴウを見ている社員達の視線は鋭い。大丈夫なのかゲンゴウ。自分とこの社員に刺されたりしない?
「ん? なんだ、どうかしたのかお前達。そんな冴えない表情をして。まるで誰かに儲け話を横取りされたみたいな顔をしているぞ?」
「…………おいおい」
ゲンゴウが社員達を煽っていき、社員達がゲンゴウに向ける目がさらにつり上がった。本当に大丈夫かこれ? 謝った方がよくない?
「ズルいですよ会頭! ガモン殿のフレンドには俺達がなろうとしていたのに! それを窘めておいて自分だけフレンドになるなんて!!」
「そうですよ! なら俺達だっていいじゃないですか!」
「「そうだそうだ!!」」
俺達を囲む社員達から文句が出てヒートアップしていく。
ほらぁ、言わんこっちゃない。どうすんだよこれ。全員をフレンドにするのは流石に嫌だぞ?
「だまらっしゃい!! お前達は方法を間違えたのだ! ワシは見ていたのだぞ? いきなり全員をフレンドにしろなど、そんな事がアッサリ受け入れられると本気で考えていたのか? あれでは交渉にすらなっておらんのだ!!」
「で、でも会頭は俺達を利用して…………!」
「確かにあの場は利用した。だがワシならばそれが無くともフレンドにはして頂けたぞ?」
え? そうなの? それは、俺が決める事じゃないの?
俺と同じ事を社員達も思ったようで、全員が顔をしかめる中、ゲンゴウはやれやれと溜め息をついて、説明を始めた。
「よいか、ワシはタカーゲ商会の会頭だ。このジョルダン王国では五本の指に入る大商人でありターミナルス辺境伯家には娘を嫁がせておる。テルゲン王国にもカラーズカ侯爵家と強い繋がりを持っており、ガモン殿は侯爵家からの要望でワシの元を訪ねて来られたのだ」
「……………………はい」
「ワシと繋がりを持てば、ガモン殿はその素性を隠したままで、そのスキルから出て来る物を売る事が出来る。それに旅に出たとしても、各地のタカーゲ商会の支店が力になれるし、ワシが持つ人脈から得られる情報は大いに役に立つ筈だ。これだけ利益を証明すれば、お前達を利用などしなくても、ワシならばフレンドにして頂ける」
…………うん。確かにそうだ。その話をされたならフレンドにしたね。だって絶対助けになるもの。ゲンゴウをフレンドにするメリットがメッチャあるもの。
「お前達はあの時、我先にフレンドにして貰おうとするのではなく、話し合いをするべきだったのだ。ガモン殿とではないぞ? お前達の中で、代表してフレンドになる者を一人選ぶ話し合いをするべきだった。そしてその様子をガモン殿に見せるべきだったのだ」
「話し合いを…………見せる、ですか?」
「ウム。お前達が話し合いを持ち、揉めた上で一人の代表者を選出する。その過程を見せられて、たった一人のフレンドを断る事はガモン殿には出来ないであろうからな。…………どうですか? ガモン殿」
「…………いやぁ、確かにそれをいきなりされたら、…………断れなかったかなぁ。まあ、それを聞かされた今なら断るけど」
「ええ、そのつもりで話しております。ガモン殿は少々、脇が甘いですからな」
「ち、ちょっと待って下さい! でもそれじゃあ、結局フレンドになれるのは一人って事じゃないですか!」
「一人なれるならば十分であろうが。いきなり全員など受け入れられるはずも無いのだから、まずは繋がりを作らんでどうする。そこから信用を重ねれば、二人目三人目と、フレンドにして貰える芽が出るであろう。お前達は間違えたのだ。その結果を受け入れ、今後の糧としなさい。苦い経験というものは薬だ。この経験もまた、将来のお前達に必ず利益をもたらすものだ。しっかり噛み締めて飲み込むのだ」
「「……………………わかりました。ありがとうございました!!」」
おおーー。流石は豪商と言われるだけの事はあるな。社員達を諌めて成長を促し、自分に対する不満も受け流して株を上げて、さらに利益はしっかりと手に入れる。
…………勉強になるなぁ。俺の元の上司じゃこうはいかないな。あの上司、すぐに頭に血が上って人の話を聞かなくなるし。話が通じないおじさんってのは本当に面倒くさいよね。
ゲンゴウは部下の不満を聞いて問題点を指摘し、解決策を示した上で反省を促したもんな。うん、上司とはこうあるべきだね。ゲンゴウの部下達も、もう不満を忘れたように仕事に行く準備に取り掛かっているしな。
「さてと、ではワシも仕事に行きますわい。ガモン殿、朝からお騒がせ致しましたな」
「いやいや、助かりました。…………俺も勉強になりましたので、これからも色々教えて下さい」
「ホッホッホッ。ワシでお役に立てる事ならば喜んでお役に立ちましょう」
そう言ってゲンゴウは見破り眼鏡をクイッと持ち上げてから、去って行った。
俺は去っていくゲンゴウの背中を見送り、しばらくしてから気がついた。
……………………『見破り眼鏡』、持ってかれたな。…………まぁ良いけど。
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