82回目 商売人の勲章
「あ、あのガモン殿? い、今の話は本当ですか?」
「え? うおっ!? な、なんだよ、なんでそんなに寄って来てんだよ」
シエラにステータスとレーダーチャートの説明をしていると、部屋にいた全員が俺の傍に集まっていた。いや、近いし怖いよ!
「そ、その眼鏡をかければ、ステータスが見られるんですか!? 誰でも!?」
「そ、そうだけど。なんでそんなに興奮してんの?」
「だって! 人物鑑定のスキル無しで、ステータスが見られるんですよね? しかも誰でも!!」
「お、おう」
グイグイ寄って来る。え? ステータスが見れるってそんなに凄いの? なんか『人物鑑定』とかいう単語が出て来たけど、それが本来ステータスを見る為のスキルなのだろうか?
そう疑問に思って尋ねてみると、その通りだと肯定された。しかも『人物鑑定』と言うのは、長年に渡って客商売などで人を観察してきた者が得られるスキルであり、商売人にとっては一種の勲章であるらしい。
自分の努力が神に認められた証。とまで説明されて、ちょっと良いなと思いました。
「ガモン殿! お願いです! その眼鏡、少し貸して頂けませんか? 『人物鑑定』スキルを体験してみたいのです!」
「あぁーー…………。いや、それがですね…………」
俺の出すガチャ装備は、基本的には俺以外には装備出来ない。
そう俺が説明して、俺は試しに見破り眼鏡を貸してくれと言って来た男に渡してみた。
そして試した結果、当然見破り眼鏡は見えない壁に阻まれてかける事が出来ず、本当に装備出来ないのだと知ってその場いた全員がガックリと項垂れた。
…………俺は嘘はついていない。ガチャ装備が基本的に俺以外に装備出来ないのは本当だからな。
だが今回は、ちょっとタイミングが悪かった。ちょうどシエラが、俺から借りた『見破り眼鏡』を、かけてみたタイミングだったのだ。
当然、それを全員が目撃した訳で。『どういう事だよ、かけれてるやんけ』という声にならない主張が槍のような視線となって、目を逸らした俺に突き刺さった。
「「…………ガモン殿。説明をお願いできますか?」」
「あ、はい」
シエラが装備してるのを見られてしまった以上、説明しない訳にもいかないので、この後どういう惨状になるかも覚悟した上で、俺はガチャ装備を使うための条件を話した。
すると当然の事ながら「俺達もフレンドにして下さい!!」と、こうなる訳だ。
流石に全員をフレンドにする選択肢は無い。フレンドの上限は百人だし、コイツらの目的は『見破り眼鏡』ただ一点だろう。流石にそれに付き合ってフレンド枠を無駄にするのはごめんだ。
さて、どうやって断ろうか。などと俺が考えを巡らせていると。当然、ここにいる社員達の雇い主であるゲンゴウの声が部屋に響いた。
「やめんかお前達! ガモン殿に迷惑をかけるのはワシが許さんぞ!!」
「ゲ、ゲンゴウ様!? お、おはようございます!!」
「い、いついらっしゃったんですか?」
「少し前だ。何やら興味深い話をしていたので様子を見ていた。お前達がどういう行動を取るのか気になったのでな」
どうやら気がつかなかっただけで、ゲンゴウは俺達の様子を見ていたらしい。今はやれやれと首を振りながら、社員達に説教モードだ。
「『人物鑑定』が行える『見破り眼鏡』にお前達が惹かれるのは解る。ワシだって商売人だからな、お前達と同じように『人物鑑定』には憧れも持っている。だが、ガモン殿の重要性が解らぬ訳でもあるまい? そのフレンドとやらに百人という上限がある事はガモン殿の説明にあったではないか。ならばそれにしてくれとお前達全員で迫れば、ガモン殿にとっては不利益にしかならんだろ!」
「そ、それならば、それなりの対価を払えば…………」
「目先の欲に囚われていては信用を失うぞ? 人はけっして金銭だけでは動かぬ。商売人として駆け出しのお前達がまずやるべき事は、信用を得られる人間になる事だと、教えたであろうが。信用は、商売人土台には欠かせぬ物だ。一時の欲望に任せていては、信用の得られる商売人になど成れぬぞ?」
おおーー。流石はゲンゴウだ。社員達もゲンゴウの言葉に感じいっている。この場を簡単に治めてしまうのは、さすがの貫禄だな。
「申し訳ありませんでしたな、ガモン殿。部下達に代わり、お詫びを申し上げますわい」
自分達の代わりに頭を下げるゲンゴウの姿を見て、社員達はその場に正座し、俺に頭を下げた。その姿には、自分の浅はかさに対しての悔しさが滲んでいる様だった。
「いえ、大丈夫ですから頭を上げてください」
「ですが、これは信用を失う行いでした。我が部下のした事はワシの不始末です。心からお詫びしますわい」
「大丈夫ですよゲンゴウ殿。俺はゲンゴウ殿を信用しています。俺こそ、ゲンゴウ殿にはお世話になってますし、これからも良い付き合いをしたいと考えていますから」
「そう言って貰えるのは嬉しいですな。このゲンゴウ、既にガモン殿の信用を得ておりますか?」
「ええ、もちろんですよ!」
「ありがとうございます。…………つきましてはガモン殿。そのフレンドとやらに、商会を代表してワシだけをして貰うのは可能ですかな?」
「え?」
ゲンゴウの言葉に俺の笑顔は固まり、悔しそうに頭を下げていた社員達が驚愕の表情で頭を上げた。
あぁーー、やられたね。これは断れないな。俺も信用してると言っちゃったもん。いや、良いんだけどね。ゲンゴウだけなら。
…………そう思ってしまっている時点で、ゲンゴウの手の平の上なのかも知れないけど。これは綺麗に一本取られましたわ。
と、言う訳で。俺のフレンドがまた一人増えました。なんか釈然とはしないが、「まぁいいか」って思える所が、ゲンゴウの凄さだよね。
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