80回目 その全ては『スキル』
気付くべき事に気付かなかった自分のアホさ加減に、俺はスキルを開いたままで床を転げ回った。
そして、一度冷静になってスキルの画面を操作して倉庫へと向かい、読んだ事がある漫画の説明文を読んで見た。
『体は子供、頭脳は大人な少年探偵の事件ファイル。様々な事件を観察し、推理せよ! 《読破ボーナス》知力+1』
…………ホントだ。確かに知力+1の表示がある。読破ボーナス? 完全に読めばって事か。
さらに俺は自分のステータスを見てみる。しかし、レーダーチャートは相変わらず真ん中にキュッと寄っていた。…………さすがに1や2じゃな、動かないよね。
そして次に開いた所持スキル欄には、『永続スキル』という表示が増えており、覗いてみると。
・知力+2
・抵抗力+1
・攻撃力+1
と言うスキルが並んでいた。おそらく上から、少年探偵物、美少女アイドル物、バトル物という並びだろう。数も二冊・一冊・一冊で合ってるしな。って言うかあと一冊で解放やんけ。読めよ俺。
だが、流石に今はそれよりも優先すべき事がある。と、俺は『マイスター・バー』へと画面を戻した。
『戻って来たねお客さん。確認は済んだのかな?』
「ああ、確かに情報通りだった。…………気付かない自分が嫌になったけどな」
『そうかい。それで、戻って来たって事はそういう事かな?』
マスターが聞いて来たのは『白金貨の情報を買う気になったのか』って事だ。もちろん、そのつもりでは来たのだが…………。一千万円は、法外ではないですか? スキルに法律なんか無いだろうけど。
「…………ちなみに、ちなみになんだけど。俺のスキルについて、いま買えるだけの情報を買うとしたら幾らになるか聞いてもいいか?」
『難しい事を聞くね。情報と言うのは、時と場合によって価値が全然違うんだよ? 例えば先程、銅貨一枚で売った君のステータスに関する話を例にあげると、もし君が本は持っているが読んでいなかった場合、私は銀貨一枚を請求した。もし君がまだ本すら持っていなかった場合は金貨一枚を請求し、君がステータスのレーダーチャートすら見ていなければ、大金貨一枚を請求していた。ちなみに君が本でステータスが上がる事に薄々でも気付いていたならば、情報料は貰わなかった』
「…………なるほど、俺が何を知っているかで変わって来るのか」
『当然だね。情報料というのは、君が手にする情報の価値だ。当然、何を知っているかで変わって来る。だから先程の質問には答えられない。その情報で価値が変わってしまうからだ』
マスターの答えに納得した俺は、改めて白金貨一枚の情報を買う事にした。ひとつの情報に一千万円は高いと思うが、逆を言えば、今の俺にとってそれほどの価値を持つ情報だ。
白金貨一枚は惜しいが…………、いや惜しくない! えぇい! 男は度胸だ! 行ったれ!!
俺は震える指で白金貨をスキルに投入し、出来るだけ平静を装ってマスターに声をかけた。
「…………わかった。じゃあ、白金貨一枚の情報を買わせてくれ。俺と、この世界の人間との違いについて」
『そうだね。一番大きな違いは、この世界の住人が持つ『固有スキル』にある』
「固有スキル?」
初めて聞く単語に俺が首を傾げると、マスターはその固有スキルについての説明を始めた。
『簡単に言えば固有スキルとは、ひとりの人物やひとつの種族特有のスキルの事だね。例えるなら、君の持つ『七星の盾』のスキルだ。確か「宝玉封印」だったね。あれは七星の盾を装備していないと使えない固有スキルの一種だ』
え!? あのスキルって七星の盾が無いと使えないの? …………あぁいや、それもそうか。例え熟練度をMAXにしたとして、封印するための宝玉をどこから持って来るのかと考えれば、当然の話だった。
『…………やっぱり知らなかったか』
「…………そ、そんな表示なかったし…………」
『…………ふぅ。まぁ話を続けよう。今言った固有スキルだが、この世界にはこの世界独自の固有スキルがある。…………と言うよりも、この世界はスキルで成り立っている、と言った方がいいかな』
「どういう意味だ?」
『そのままだよ。この世界の全ての生物が生まれながらに持ち、異世界より訪れた君だけが持ち得ない固有スキル。その名称は『レベル』と言う。お客さんなら、これだけで解るんじゃないか?』
「レベルがある世界だったのかよ!? ティムもバルタも、そんな事は一言も言わなかったぞ!?」
『知らないだろうからねぇ。モンスターと戦えば強くなる、とは思っていても、まさかそれが固有スキルのおかげだとは思ってないんだよ』
「…………知らないの?」
・固有スキル《レベル》
生物としての格を数値化し、世界の様々な事象を経験する事で経験値を得て格を上げ、それによって得たポイントを能力値として割り振る。他生物との直接的な交わり(主に戦闘)で一定の経験値を奪う事も可能であり、それによって格を上げる事もできる。
『全ての生物が生まれながらに持つスキルだから、当たり前すぎて気付かない。この世界において、薄々でも『レベル』の存在に気がついているのは極々少数だ。レベルがあるから、この世界の住人はモンスターと戦う事でレベルが上がり強くなる。だが異世界から来てその固有スキルを持っていないお客さんは…………ね?』
「…………レベルが無いからモンスターと戦っても強くは成らない…………のか。マジかよぉ…………」
『ああ、ちなみに『魔法』も固有スキルだからね。この世界の人のように、ギルドで本を読んだだけで『生活魔法』のスキルが手に入るなんて事は無いからね。まあ、その変わりにお客さんには『ガチャ・マイスター』と言う名の固有スキルがあるんだから、仕方ないね』
「うえぇぇ…………」
厳しくない? 俺だけモンスターと戦っても強く成らないとか、それでモンスターの蔓延る世界に放り出すなよ!? 死んじゃうだろうが!!
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