75回目 検証班
お昼まで外をブラブラと歩いた俺達は、街の適当な店で昼食を済ませて寮へと帰って来た。
まだ午後になったばかりだけど、今日はホントにやる事がない。日本でも経験があるが、普段はあんなに休みが欲しいのに仕事が急に無くなると暇をもて余すのは何なんだろう。今日はそんな感じだ。
寮のリビングでシエラと別れ、部屋にでも戻ろうかと歩いていると、洗濯をする部屋がやたらと騒がしいのに気がついた。
同じ寮に住んでいるゲンゴウの部下達が集まって何かをしている様なので少し覗いてみると、数人の男女に囲まれた中心にあったのは、俺のガチャから出て来た☆4『ドラム式洗濯機』だった。どうやら検証している所らしい。
「おや。ガモン殿、お帰りなさい。随分と早い帰宅ですが、何かありましたか?」
「ただいま。いや、単に依頼が早く終わっただけですよ。ところで、どうですか『ドラム式洗濯機』の使い勝手は。売れそうですか?」
俺は当然のように『もちろんです! これは高く売れますよ!』みたいな反応が来るものだと思っていたが、実際にはその場にいた社員達は、顔を見合わせて苦笑していた。え? なんで?
「あれ? なんか性能面で問題でもありましたか?」
「いえ、そこは素晴らしいのですが。…………と言うか、その性能が素晴らし過ぎる事が問題と言いますか…………」
「どういう事ですか?」
「…………そうですね。…………見て貰った方が早いですね。ちょうど乾燥も終わったようですし」
俺に説明をしていた男の視線に頷き、ドラム式洗濯機の側にいた者達が蓋を開けて中から物を取り出し始めたのだが、俺はそれを見て絶句した。
彼らは洗濯機の中から、鎧やら兜やらを取り出して並べていったからだ。しかも、そんなデカイ物がどこに入っていたんだ? と思うような全身鎧までがズルリと出て来た。
あーー、そう言えばドラム式洗濯機を売る時に読んだ説明文に、『鎧や盾も丸洗い出来る大容量の優れ物! 洗剤もいらないので家計に優しい!』とか書いてあったのを読んだ気がする。
いやいや、だとして試すか? 俺の常識では考えられない実験をコイツらはしていたようだ。
「鎧の丸洗いが出来て汚れや匂いまで取れるのは良いのですが、売れる場所が限定される感じですね。お値段もかなりの高額になりますし。ゲンゴウ様は、困ったと口では言いながら喜ぶでしょうけど」
「ああ、目に浮かびますね。…………ん?」
と、その時。俺は洗濯室の端っこに転がっている残骸に気づいてしまった。そして、それを見て思わず顔をしかめてしまった俺に、社員達が苦笑を浮かべた。
「…………うっわ! あれってまさか…………」
「気づかれましたか。何と言うか、申し訳ありません。ダメと解っていても、一応試さない訳にはいきませんので…………」
洗濯室の端っこに転がっていたのは、☆3『洗濯機』の残骸だ。その姿は無惨なもので、何ヵ所も割れているし蓋も破壊されて残骸が散らばっている。
そして、そうなった原因と思われる兜と盾が、洗濯槽の中からはみ出していた。
マジかよ。兜や盾を普通の洗濯機にぶち込んで洗ってみたのか? 正気かコイツら。
「いや、あの☆3の洗濯機はごく普通のタイプで、☆4のドラム式洗濯機とは全く性能が違うって言っておきましたよね?」
☆4のドラム式洗濯機は、鎧だろうが盾だろうが洗えるファンタジー仕様で、洗濯槽の投入口も、どう見てもサイズ的に入りそうにない全身鎧を苦もなく呑み込む、マジックバッグみたいな性能を持っている。
一方で☆3の洗濯機は、まさにごく普通の洗濯機だ。
鎧なんか当然洗えないし、服を洗うにも洗濯用洗剤やら柔軟剤やらがいる。物によっては洗濯用ネットに入れる必要もある。決して雑に扱っていい家電ではない。
というのを、俺は売る時に説明したはずだ。
「ええ、聞いておりましたし理解もしております」
「だったら…………」
「しかし一方で出来る事が本当に出来ないのか、言葉で聞くだけではなく、実際に試してみるのも必要なのです。もしかしたらその仮定で、予期せぬ発見や失敗があるかも知れない。それを考えると、試さずにはいられないのです」
「うーーん…………」
いやまぁ、☆3とはいえガチャから出て来たアイテムだからな。何もない、と自信を持って言えない所がツラい所だな。
あぁちなみに、☆4『ドラム式洗濯機』については、一応は販売先を決めているようだ。その販売先とは、何を隠そう冒険者ギルドである。
武器防具やら解体道具やらを洗浄する機会も頻度も多いので、 それらをまとめて丸洗い出来るドラム式洗濯機は、まさに理想の家電だと言う訳だ。
…………まあそれはともかくとして、あまり俺がウロチョロしていると彼ら検証班の邪魔になってしまう。
…………違うよ? 付き合うのが面倒臭くなった訳じゃないよ? 彼らの背後に山積みになっている汚れた武器やら鎧やらの装備を見て、ウンザリした訳では無いのである。
と、洗濯室を背に歩き出した時。視界の左下に人を模したマークが浮かんでいるのに気がついた。
「フレンド・チャット? ティムか?」
歩きながらフレンド・チャットの画面を開くと、チャットの送り主はティムだった。ティムも暇をもて余していたのかチャットの内容は単に雑談だったが、その中の一言で俺は少し足を止めた。
◇ティム
《ところで、シエラはフレンドにしないの?》
…………シエラをフレンドにか。…………そうだな。しておいた方が良いよな、きっと。
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