7回目 ガチャ装備
「…………ふぁぁ……」
地平線の彼方から太陽が顔を出し始めた早朝。執事により起こされた俺は用意されたタライの水で顔を洗い、パンとスープにカットされたフルーツという軽い朝食を食べて身支度を整えた。
今は出立の準備が整い、執事が呼びに来るのを待っている状態である。
しかし、元々荷物が少ない俺の準備など、本当に直ぐに終わってしまった。着ている物も荷物も、すべてカラーズカ侯爵が用意してくれた物で、荷物も纏められた状態で届いたのだ。
俺がした事と言えば、持って来てくれた使用人に従ってバッグの中身を確認し、俺の持ち込んだ物をカラーズカ侯爵が買い取った金額を確認し、餞別だとカラーズカ侯爵が贈って寄越した短剣を装備した位である。
俺が今着ている服は、この世界の冒険者なんかが着る一般的な服らしく、平和な日本の物と比べると着心地はともかく頑丈な作りになっていた。
特にジーンズのようなズボンには、両側と腰の後ろに剣や短剣を装備する為の仕掛けが施されており、俺は腰の後ろに短剣を鞘ごと括り付け、左腰にはガチャで出て来た『ひのきの棒』を装備した。
剣の代わりに、ひのきの棒を装備すると言うのは少し情けない気がするが、これだってガチャから出て来た装備だし、無いよりもマシだろう。もちろん『ランニングシューズ』もしっかり装備している。
まあそんな感じで準備を終えた俺は、執事が呼びに来るまでの暇潰しにスキルの画面を開いた。
「さすがにログインボーナスは無いか。…………お、アイコンが増えてる」
増えているのは剣と鎧を組み合わせたアイコンだ。取り敢えずタップしてみると、そこには俺の現在の装備と、その横には俺のステータスをグラフで表した所謂『レーダーチャート』が表示されていた。
攻撃力やらスピードやらが示されているが、そのすべてが真ん中にキュッと寄っており、今の俺のザコさ加減を表していた。
「……………………お、おお! 短剣はサブウェポン扱いなのか!」
ステータスの余りの惨状に目を逸らした俺は、自分の装備に目を向けた。そこにはメインウェポンとして『ひのきの棒』、サブウェポンとして『貴族の短剣』、足装備として『ランニングシューズ』という記載があった。
どうやら装備の詳細も見れるので目を通すと、以外にもひのきの棒が、結構な攻撃力を持っている事が解った。何せ貴族の短剣の攻撃力が7で、ひのきの棒の攻撃力は5である。木の棒とナイフで2しか違わないのだ。
それと後二つ、ガチャ装備と通常装備の間には違いがあった。この世界で作られた貴族の短剣には攻撃力の他には『貴族がその血縁者等に与える為に作らせた、それなりに質の良い短剣』というテキストしか無いのだが、ガチャ装備にはその他に『付与スキル』と『熟練度』という記載があったのだ。
ただし、ひのきの棒にしてもランニングシューズにしてもスキルには鍵が掛かっており、熟練度は0/20となっていた。上限が20で、今だ熟練度0という事だろう。
「…………これ、普通に考えるなら熟練度を上げるとスキルが使えるって事だよな? ひのきの棒って、ゲームだと最底辺の装備だと思うんだけど、それにすらスキルがあるの?」
熟練度と言うからには、使わないと上がらないのだろう。…………これ、しばらくはひのきの棒をメインに使わないとダメって事だな。だって短剣には『付与スキル』も『熟練度』も無い訳だし。
ちなみに☆4の装備だからか、ランニングシューズの付与スキル欄は二つあり、その内のひとつは既に解放されていた。スキル名は『疲労軽減(小)』であり、そのスキルの説明には『歩いても疲れにくい』とだけ書いてあった。
解放されていない、もうひとつのスキルに関しては自分で解放させないといけない訳だ。その鍵はやはり熟練度にあるのだろう。
って言うか、ランニングシューズの熟練度ってどうすりゃ良いんだ? やっぱ走るのだろうか?
俺がそう悩み始めた所で、執事が俺を呼びに来た。どうやら出立の準備が整ったらしく、俺は荷物を全て持つと、執事に従って屋敷の外へと歩いた。
するとそこには、俺が乗るのであろう二頭立ての豪華な箱馬車と、なんとカラーズカ侯爵が待っていた。
「来たか。おはようガモン。昨夜はよく眠れたかね?」
「おはようございます侯爵様。お待たせしたみたいで申し訳ありません。良いベッドを貸して貰えたので、昨夜はグッスリでしたよ」
「ウム、それは何よりだ。では出立の前に、君に同行する者を紹介しよう。我が息子の『ティム』と、御者の『バルタ』だ。隣国のジョルダン王国のタミナルの街まで、この二人が同行する」
「息子!?」
箱馬車の近くにいた二人が前に出て来て俺と顔を合わせる。銀髪に碧眼のメチャクチャ美形な少年と、身長が低く少々粗野な感じがするオッサンだ。
いやいやいや、なんで侯爵の息子が同行するんだよ? てっきり俺の世話をしてくれた執事あたりが同行するんだと思ってたよ。
「驚いたようだが、君を逃がすってのはな、中々に大変なのだよ。対外的には、私の息子の従者として隣国に向かい、君はその隣国の地で暴漢に襲われた息子を庇って命を落とす事になるな。国が大金を使って召喚した『勇者』を人知れず逃がすのだ、それくらいの偽装工作がいるのだよ」
「…………ご迷惑をおかけします」
「迷惑ならば、我々が君にかけた物の方が遥かにでかい。だいたい、この程度の事しかせずに放り出すのだ、むしろ申し訳なく思うよ」
カラーズカ侯爵に何らかの思惑があるのは確かだとは思うが、それでもこの人は、本当に俺の事を心配してくれる良い人ではあるのだ。
俺はカラーズカ侯爵に、心から恩を感じた。
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