67回目 トルテ少年
背負い籠から出した薬草を、説明書に書かれた特徴に従って選り分け、五本から六本にして重さを量り、茎の付け根を紐で縛ってまとめる。
これはかなり根気のいる作業だ。慣れていない事や、薬草の知識がまるで無いっていうのもあるが、それより何より責任感がヤバイ。
これらは薬の材料だ。直接飲んだり、傷口に塗ったりする物の材料。そう考えると万が一にも毒草が混じってはいけない。俺の適当な選別が原因で死人か出るとか、流石にシャレにならん。
当然の結果として、どうしても俺の手は遅くなる。そしてそれは、向かいあって座るトルテ少年も同じであるようで、俺とトルテの作業スピードはほぼ変わらない。
だがそんな中で…………。
「ふん、ふん、ふふん、ふふふふふん」
鼻歌まじりに、恐ろしい程のスピードで薬草の選別を終えていく人物がいる。そう、シエラである。
シエラの頭には、薬草の特徴がシッカリと刻み込まれているようで、その動きには淀みがない。素早く薬草の特徴がある箇所を確認し、数本をまとめ上げて天秤に乗せ、天秤が釣り合うまでに次の薬草の選別をしたり紐の準備をしたりしている。
もうこれ、職人の域なんですけど? あれ? シエラって、この仕事を一回やっただけじゃないの?
「す、すげぇな、お前…………」
その仕事っぷりには、悪戦苦闘しているトルテ少年も思わずそんな事をつぶやく程だ。
「いやホント凄いな。シエラは何? 経験者なの?」
「はい、ガモン様。私は子供の頃に教会に引き取られたのですが、教会では独自に薬も作っているので、薬草の選別は見習い以下の子供の仕事なのです。私も幼い頃から散々やっていますので、いまさらこの程度の数では物足りないくらいですわ」
うおおお…………。俺と話ながらでも手が止まらないとか。プロや、ホンマもんのプロがおるで。
実際シエラが薬草を選別するスピードは、たった一人でこの場にいる半数がこなす作業スピードに匹敵する程だった。
監督役のギルド職員も、シレッと俺達のテーブルにきてノルマの背負い籠を増やしていった。いや、何してくれてんの?
「えっと、シエラさん。ちょっと俺にもコツを教えてくれますかね?」
「え? コツですか? んーー、そうですね。ではガモン様、この薬草は主に打ち身を治療する時に貼る、湿布の軟膏に使われる物なのですが…………」
俺がシエラにコツを聞くと、シエラは幾つかの薬草を見繕って俺に説明を始めた。
そして、それに反応した者が一人いた。俺達と同じテーブルになったトルテである。
見た目が元気少年! と言った感じのトルテは、テーブルの上に身を乗り出して、シエラに迫った。
「な、なあ! 俺も一緒に聞いていいか!?」
「え? はい、いいですよ? じゃあ一緒に説明しちゃいましょうか」
それから少しの間、俺とトルテはシエラから薬草を選別するコツを教えて貰った。
うーんなるほど、葉の筋の色と茎の手触りは説明書に書いて無かったな。確かにこの二つは薬草の種類で大分違う。そして重さは幾つに枝分かれしているのかで大体解ると。言われてみれば、そりゃそうだって感じだけど、思いつかなかったな。なるほどなぁ。
最後に紐の結び方。これがシッカリ解っているだけでずいぶん変わって来るな。
シエラにコツを教えて貰ったお陰で、俺とトルテの作業スピードも僅かにだが上がって来た。ただし、いくらスピードを上げても間違っていては意味がない。そこで天秤に乗せる前に一度、天秤から下ろす時に一度とダブルチェックをする事でミスを防いだ。
結果として俺達のテーブルは、今回一番仕事をしたテーブルとなった。まぁ言わずもがな、作業効率トップはシエラでした。いや勝てないよね、職人には。
ちなみに今回の依頼で一番よかったのは、一緒のテーブルで作業をした少年、トルテと仲良くなった事である。
「ガモンって二十二なのかよ! オッサンじゃん!」
「いやオッサンじゃないだろ! 二十二だよ? 完全に若者だろ!」
「だって俺やシエラより七つも年上だぜ? 十分オッサンだろ。なんでまだGランクなんだよ?」
「いやGランクなのは、まだ冒険者になったばかりだからだよ」
「なんだそうなのか。シエラも?」
「私は一応Eランクですわ。今回は、ガモン様がこの依頼を受けられると言うので、お付き合いです」
「って言うか、なんでガモンは様付けなの?」
「…………色々あるんだよ、大人には」
「それ、大人が何か誤魔化す時に言うやつだろ」
…………よく解ってらっしゃる。
トルテはこの街とは別の村で育った少年で、冒険者には本人も言っていた通りの成りたてだ。
何でもトルテの兄が、同じ村で育った二人とパーティーを組んで冒険者をしており、十五才になって大人として認められる年齢になったトルテも、その仲間になるためにこの街に来て冒険者になったらしい。
ただ、二年も先に冒険者になった兄達はすでにEランク冒険者としてダンジョンなどで活動しており、トルテもまずはEランク冒険者になるまでは一人で頑張る事になって、薬草の選別依頼を受けていたのだ。ちなみに依頼は今回が一回目、それも俺と一緒である。
「ガモンとシエラって明日もGランクの依頼を受けるんだろ? 俺も一緒に受けていいか?」
「ああ、いいよ。仲間は多い方がいいし」
「そうですね。よろしくお願いしますわ、トルテくん」
「お、おう。こちらこそよろしくな!」
と言う訳で、明日以降もトルテと一緒に依頼を受ける事になりました。いやぁ、しかし疲れた。こんな風に働いた充足感を得るのは、久し振りな気がする。
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