66回目 素材の選別・薬草
カラーズカ侯爵家での用事が終わってもまだ昼前だったので、俺とシエラはカラーズカ侯爵家の馬車に送ってもらい、冒険者ギルドへとやって来た。
目的はもちろん、Gランクの依頼を受ける事だ。ギルドの受付を見ると、ちょうどよく俺の登録をしてくれた受付嬢のミミナが空いていたので、そこに向かった。
「こんにちわ。依頼を受けに来ました」
「依頼の受注ですね。ではギルドカードをお願いします。ガモンさん」
「あ、はい。…………俺のこと覚えててくれたんですね、ミミナさん」
「はい。私は昔から人の名前を覚えるのは得意なんです。加えてガモンさんは、ティム様が連れて来られた方ですから。それで、どの依頼を受けるんですか?」
「あ、はい。薬草の選別ってヤツをお願いします。あ、こっちのシエラも一緒に受けます」
「はい。よろしくお願いしますわ」
俺の言葉に合わせてシエラがギルドカードを差し出すと、ミミナはギルドカードとシエラを見比べて何度か瞬きをした。
「え? …………あの、シエラさんは確かEランクでしたよね?」
「はい、そうなんですけど。もしかしてダメですか?」
「いえいえ、私達としては問題ありませんし、シエラさんは仕事が丁寧で評判も良かったので助かりますが、…………その、シエラさんならもっと実入りの良い依頼がいっぱいあるので」
「いえ、ガモン様と同じ依頼をお願いしますわ」
「ガモン…………様?」
何やら悪者でも見るような眼で俺を見てくるミミナに、俺は様付けはやっぱりマズイかなと少し思った。何やらミミナに良くない誤解を受けた気がする。
しかし依頼は問題なく受けれた上に、仕事の時間も差し迫ってるとの事で、俺達は早々にギルドの隣の建物へと移動した。
隣の建物は、主に素材の買取りと酒場での情報のやり取りを目的とした施設であり、平和なギルドの中と違って、どことなく血生臭い空気が漂っている場所だった。
…………いや気のせいじゃないな。血塗れの鎧で歩いてくヤツがいるもの。
ちなみに後で知ったのだが、この施設にはシャワールームや鎧などの洗浄室まであるので、彼らのような血塗れの冒険者達は素材を職員に預けたら、査定が終わるまでに鎧の洗浄とシャワーを終えて来るらしい。
あ、どっちもタダじゃなく査定額からの天引きになるので、悪しからず。
そして俺達の職場になるのは、ここの三階です。三階は何と言うか植物系統に特化した階のようで、まず匂いが凄い。なんというか日本で一度、大学の先輩に連れられて漢方薬を売ってる店に行った事があるんだけど、そこの匂いを濃縮したような、そんな場所です。
三階に壁なんていう仕切りは無い。ただし幾つかある太い柱から連なるように棚が並べられており、それが壁の役目をはたしているようだ。
そこにあるのは草やら花やら木の根やらと、パッと見ではよく分からない物が詰め込まれていて、さらに部屋にはうっすらと煙も漂い、それが匂いと相まって不気味な雰囲気を醸し出している。
まあ、逃げ出したくなる程ではないけど、あまり長くは居たくはない場所だなぁ。
そして俺達Gランク冒険者の雑用組は、その部屋の中央に並べられた長机の前に集められ、仕事の説明を受けた。
俺達と一緒にこの雑用仕事を受ける者は以外と多く、年齢もマチマチだった。特に奥にいる顔に青アザを作っているオッサン達は何なのだろうか? まさかあの年齢でGランク冒険者な訳もないだろうしな?
「よし、時間なので始めるぞ。諸君にやって貰うのは依頼にあった通り薬草の選別だ。背負い籠の中に大量に入った薬草をしっかり選別し、規定の重さにまとめて提出するように」
作業の説明をしてくれているギルド職員の言葉に長机の横を見ると、確かに多くの草でこんもりと山を作った背負い籠が並んでいた。
うぇ、あれを全部やるのか? マジで? あの背負い籠ひとつでかなりの量があるけど、終わるのかよこれ?
「それぞれの薬草の特徴については説明書をまとめてある。規定の重さについてはそれぞれのテーブルに天秤が置いてあるのでそれを使うように。あまりにも適当な、規定とはまったく違った物を作ると評価は下がるし、依頼をこなしたとは認められない場合もあるからな! では、ひとつのテーブルに三人から四人で振り分ける。名前を呼ばれたものは決められたテーブルで作業をするように」
そうしてギルド職員に振り分けられた結果、俺とシエラは同じテーブルになり、俺達の他には浅黒い肌で背が小さい『トルテ』という名の少年が一緒に作業する事になった。
「最後に! これは薬の材料だ! ギルドの薬草や薬は比較的安価で市場に回る。つまり君達はもちろん、同じ冒険者仲間や街の人々も使う代物だ! それを忘れず、肝に命じてしっかりと作業して貰いたい!」
監督役であるギルド職員のその言葉と共に、俺の冒険者として初の依頼はスタートした。…………まあ、かなり地味な依頼ではあるが、さっきのギルド職員の言葉通り手の抜けない大事な仕事だ。しっかり頑張ろう。
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