64回目 フレンドクエスト『バルタ』
食品ガチャでの食材を使った食事二回分にて、バフの重ねがけを受けた状態の寮の皆に『マイスター・バー』のマスターから聞いたバフについての話を説明した。
寮に住んでいる皆は大部分が今日も仕事なので、上がりまくった身体能力で何かやらかさないかと心配していたようだが、その効果が長くてもあと三・四時間で半分は消えると聞いて胸を撫で下ろしていた。
理由と時間の制限さえ解ってしまえば、上がった身体能力はむしろプラスになる。しかし、強くなったとは言っても無理をすれば体を壊すので気をつけて貰いたいものだ。
「じゃあ取り敢えず、軽く走って来るか。始業時間までまだ時間があるし、どの程度の事が出来るのか知っておこう」
「「「はい!!」」」
そう言ったのはゲンゴウのデパートで、ひとつの階層を任せられているフロアマネージャーの一人で、この寮のまとめ役の人物だ。
そしてその彼の言葉に従い、社員達は走りに出て行ってしまった。ゲンゴウの所の社員達は、すごく真面目な働き者達だ。
そしてこの場に残された俺は、シエラにもう一度スキルを開くと断りを入れてから、『フレンドクエスト』の確認に向かった。
すると、昨日見た時には無かったクエストが、確かに増えていた。そこに表示されていたのは《フレンドクエスト・バルタ》。つまりこれは、バルタから俺に依頼されたクエストと言う事なのだろう。
《フレンドクエスト・バルタ》
『『解呪の秘宝』の入手 (無期限)』
・最難関ダンジョンの一つである『邪眼族の螺旋迷宮』、その最深部に眠る『解呪の秘宝』を入手せよ! 『邪眼族に見つかってはいけない、石に変えられてしまうから。邪眼族を殺してはいけない、邪鼠が集まって来るから。その場に長く留まってはいけない、迷宮の悪意に呑まれてしまうから』
依頼主:バルタ
「…………最難関ダンジョン? え? アイツ何を依頼してくれてんの?」
バルタが依頼したであろうクエストに書かれていた文章に、俺は自分の顔がひきつるのを感じた。
何だよ最難関ダンジョンって? 説明文も色々と怖ぇよ! しかもこれ、その最難関ダンジョンをクリアしないといけないんじゃないの? いや無理だよ無理! そもそもこれ、あのバルタが踏破出来てないダンジョンだろ!? 駆け出し冒険者に何やらせようとしてんだよ!?
「……………………うぅん…………」
しかし、しかしだ。なら受けないのかと問われればそれは別の話だ。これは言わば、バルタが俺を頼って来たクエストだし、期限にしても無期限になっている。
仲間に頼られて、受けないって選択肢は無い。例えそのダンジョンがどんなにヤバイ場所だとしても、俺には出来る事もある。
そう、例えば食品ガチャのバフとかで。
結論として、俺はこのクエストを受ける事にした。まず受けて、バルタから詳しい話を聞こうと思う。
そしてフレンドクエストを受けた直後に、ふと思い出した。…………そう言えば、クリア報酬の欄が無かったなと。フレンドなんだから、報酬は相手から貰えって事なのだろうか? まあ、バルタは仲間だから、報酬なんて無くてもいいんだけど。
◇
俺がフレンドクエストを受けてしばらくした頃、カラーズカ侯爵家からの迎えとしてバルタがやって来た。
「おはようごぜぇやす。それとガモンの旦那、依頼を受けてくれた事、感謝しやすぜ。昨夜に依頼を出したのについさっきまで音沙汰無かったんで、ちょいと焦りやしたぜ」
「ああ、ゴメン。昨日はほとんど宴会だったし、朝も色々あってな。さっき確認したところだったんだ」
「そうだったんですかい。重ねて、依頼を受けてくれた事に礼を言いやすぜ。…………そんで、昨日も伝えておいたと思いやすが、ちょいと屋敷まで足を運んでもらいてぇんですが、かまいやせんか? お嬢がお待ちですんで」
「そう言えばそんな事を言ってたな。そりゃもちろんいいけど。…………お嬢?」
「ええ、ティアナ様がお待ちでさぁ」
「…………なるほど、わかった」
そうか、この街ならティムはティアナとして、普通に女の子として生活できるんだったな。
俺はバルタの誘いを受けると、寮の管理をしている人に出掛ける事を伝えてシエラと共に馬車へと乗り込んだ。
そして馬車が動き出すと、その車内から御者台に座るバルタに話しかけた。
「なあバルタ。俺はもうフレンドクエストを受けた訳だけど、その事について聞きたい事が色々とあるんだけど」
「それなんですがね、いま話しても仕方ありやせんぜ。取り敢えず旦那には、冒険者ギルドのランクをEランクまで上げてもらいてぇんですよ。じゃねぇとそもそも、ダンジョンに入れやせんので」
「…………うん。まぁ、そのルールは確かに聞いてたけど」
「それにあっしも、しばらくしたらお嬢を侯爵様の待つ屋敷まで送り届けねぇといけやせんのでね。まずはそれらが終わってからにしやしょうや、けっこう長ぇ話になるんでね」
「…………わかった。取り敢えず俺は、Eランクまでランクを上げておく事にするよ」
「それで頼みまさぁ」
まずは準備。って事で、フレンドクエストの話はいきなり止まった。まあEランクまで上げるってのは、ストーリークエストにもあったし、冒険者として活動する為にも必要な事だ。
今やるべき目標がしっかり定まったって事で、良しとしておこう。
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