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607/607

607回目 星の反対側からの援軍

 陸地の全てが空へと浮かび、既に『箱舟』の瘴気によって生物が住めない環境となった、濃い紫色の海の上を、幾つもの飛空艇が戦場目指して飛んでいる。


 そこに乗り込んでいるのは、陸地と共に星の反対側まで避難した人々だ。


 彼らは、戦いを拒んだ人々だ。もちろん、避難した人々と言うのは戦えない者がその大半を占めてはいるが、中には戦う力を持ちながらも逃げ出した者達もいた。


 彼らにも事情や言い分はあり、その理由は様々だ。


 王を護るため、国を護るため、民を護るため、財を護るため、権力を護るため、命を護るため。


 彼らは彼らの護りたい物を護る為に戦いには参加せず、我聞達もそれを良しとした。


 彼らにとって、この戦いは他人事だった。何を護りたいにしろ、負ければ世界が無くなるのだから、自分の運命を他人の手に委ねた他人事。


 あるいは別世界の出来事だ。


 だが、いくらそう他人に、あるいは自分に言い聞かせたとしても世界の命運を賭けた戦いは現実であり、身近だった。


 そもそも既に彼らは、空を飛ぶ陸地の上にいるのだ。


 彼らの中には、我聞達どころか『神』すらも言及する世界の危機を信じていない者もいた。実際に陸地が空に浮かんでも、大袈裟に語られる戦いが終わった後になれば、陸地は海に戻ると考えている者もいた。


 だがテレビから戦いの映像が流れ、その余波が星を回って彼らにも届き、広大な海が瘴気に染まって紫色に毒されたのを見た時。


 彼らは否応にも、この戦いの結果で全てが変わるのだと思い知らされた。


 …………だが。



「ええぃ五月蝿い! ワシには関係ない事だ!!」


「お主らは我らの騎士ぞ! 我らを護る事だけを考えておればよい!」



 ある王国の王族は、戦いに出向きたいと言う騎士達を叱責した。



「救援? バカを申すな! 強国がわざわざ兵力を減らしてくれているのだぞ? なぜそれを助ける必要がある!」


「そうとも、繋がりの浅い我らからしてみれば、あの勇者とやらも死んでくれた方が都合が良いわ! 見よこの陸地の有様を! 我らの領土は分割され、空に浮いておるのだぞ? こんな事をしでかすバケモノなど、居ない方が良かろう!!」



 ある王国の王族は、この戦いの後も世界は続くと考え、兵力の温存と他国の弱体化を望んだ。



「救援? …………ふむ。それを利用して、何とかあの巨大飛空艇を奪取できんか? あれを揃える事ができれば、我が国が覇を唱えるのも夢ではなかろう」


「本音を言えば、あの『天空城』が欲しいですな」


「ウム。あれこそ世界の王に相応しい城よな。確かに欲しい…………」



 ある王国の王族は、自らの野望にしか興味が無かった。


 そのとちらにも共通している事は、欲に目が眩んでいるばかりに、世界の滅びが見えていない事だった。


 権力者達にとっては自分の利益が一番大事であり、自分の立場も命も、永続的に続いて行くのだと盲信している。


 だが多くの人々はそうではなく、事ここに至っては権力などと言う物にはなんの価値も無かった。


 そんな中で、良識のある権力者がいる島からは、一斉に飛空艇が飛び立った。


 我聞達の戦いを見て奮い立った者達や、自分達にも援軍に行かせて欲しいという騎士達の願いを聞き入れた王や貴族が。



「ただでさえ戦場からもっとも遠い星の反対側にいるのだから、護る戦力など要らない」


「ここまで敵が攻めて来るのなら、いよいよ世界は終わりだ。たとえ一太刀でも良い、英雄達の手伝いをして来い」



 と、彼らを送り出したのだ。


 そしてそれを見て、欲に溺れる権力者達の元にいた人々も奮い立ち、飛空艇を奪って戦場へと飛び立った。



 星の反対側からやって来る援軍。それにより人類側の戦力は一気に増え、眷属を生み出し続ける狂った神獣を抑え込んでいく。



『…………勝てる!』



 人類が一丸となるその光景は、大魔導師ドゥルク=マインドをして、勝利を確信させるに至った。



 ◇



『グゥオオォォーーーーッ!!!!』


 神龍ウシュムガルを包んだ爆炎は、確かにウシュムガルに大きなダメージを与えた。だが、当然倒すには至らず、怒りに狂う咆哮と共に白煙を吹き飛ばし、ウシュムガルが姿を現した。


 その姿は血に塗れ、体躯は当初よりも二回り程小さくなっている。足元に炭化した抜け殻がボロボロと落ちている事から、脱皮のごとくダメになった所を脱ぎ捨てたのだろう。


 そして、大きな変化は更にある。



「…………頭が増えてるな。どこぞの怪獣みたいじゃないか、神龍ウシュムガル!」


『『『グゥルルルルッ!!』』』



 神龍ウシュムガルの第二形態って所か? その両肩の後から首の長い龍の頭が生え、両腕やむねの真ん中などに眼が開いている。


 これはあれだ、明らかに『ひのきの棒』対策だろう。



「クククッ」


「ガモン殿、笑ってる場合じゃないでしょう。あの姿、先程より強いですよ」


「ああ、悪いアレス。解ってるさ、気を引き締める!」



 俺は、ついニヤけてしまった口元に手を添えて気を引き締めた。


 ただなぁ、どうしても面白かったんだよ。神龍ウシュムガルともあろう龍が、☆3の『ひのきの棒』を怖がったって言う事実がさ。

面白い。応援したい。など思われましたら、下の☆☆☆☆☆から評価をお願い致します。


モチベーションが上がれば、続ける力になります! よろしくお願いします。

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