605回目 本番はこれから
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俺を睨みつけるウシュムガルの眼に、知性の光が宿った。
変わったのは流暢に喋り出した事だけではなく、ウシュムガルの全身から迸る魔力の波動と色も変化し始めていた。
無駄に迸っていた魔力は抑えられ、全身から漲る威圧は重くなり、瘴気を含んだ漆黒の魔力にはラメを散らしたかの様なキラキラとした光が混じり始めている。
これは、ヤバイ気がする。言うなれば、ウシュムガルが『神龍に近い幻獣』から、本物の『神龍』に成ろうとしているかのようだ。
今でさえ厄介な敵が、ここから更に成長するとか。普通に悪夢でしかないだろう。
そしてそんな危惧は、俺だけでなく仲間達も抱いていた。
「『ライトオブスラッシュ』!!」
「『極炎火球』!!」
「『氷貫弾』!!」
ウシュムガルから放たれる威圧を遠ざけようとするかの様に、アレスとカーネリア、そしてティアナが放った攻撃がウシュムガルに直撃した。
『グムゥゥ…………。その程度で我が前に立つと言うのか、貴様らぁ!! グオォーーーーム!!』
「「…………!!??」」
雄叫びと共に放たれた威圧で、俺は一瞬だが世界から色が失われたかの様に錯覚した。それはおそらく、強烈過ぎるプレッシャーを受けた起きた錯覚に過ぎないが、ウシュムガルが大きく息を吸い込んだのを見て、俺は仲間達に向けて叫んだ!!
「「ブレスが来るぞ!! 防御しろ!!」」
同じ事を察知し叫んだアレスと俺の声が被る中で、俺達は自分達の前に盾を構えた。
シエラが持っているのは☆5『七星の盾』だが、その他のメンバーが持つのは☆4装備の盾だ。
シエラを除く俺達が構えたのは☆4『亜竜鱗の盾+4』。鉱石の様な鱗を持つ、ロックドラゴンの亜種の素材を元に作られたと言う盾で、対ドラゴンの耐性を持っている盾…………だった。
『喰らうがいい!!』
ウシュムガルから放たれるブレスは、瘴気混じりの黒い光の奔流となって俺達に襲い掛かる!!
「くぅ、押される!! …………なに!? 盾の鱗が溶けて…………!?」
最初こそは、ウシュムガルのブレスを完璧に防いでいた『亜竜鱗の盾』だが、長くブレスを浴びる中でその鱗はウシュムガルのブレスに負けて溶け始め、盾の横から溶けた鉱石の雫が流れ飛んだのが見えた。
「ヤバイ! 魔力だ! 魔力を込めろ!!」
俺達は『亜竜鱗の盾』に魔力を流し、この盾が持つ『自己修復』スキルを発動させて何とか持ち堪える。
だが、たった一度のブレスで形状が変わってしまった『亜竜鱗の盾』は、ブレスが終わると共に破壊され、光の粒子となって消えてしまった。
今回の戦いに際して、俺はパーティーメンバーだけでなく、共に戦う全ての戦友達に大量の装備を渡してある。だから、ティアナ達も無くなった盾の代わりだけでなく、多くの装備やアイテムをマジックバッグに持ってはいる。
だがそれでも、元はガチャから出て来たアイテムと、☆5『技巧神の大工房』で作られた装備だ。数には限りもある。この調子で壊されていったなら、無くなるのなんてアッと言う間だろう。
不幸中の幸いなのは、ウシュムガルの体力と魔力が未だに溜まっていない事か。
つまり、俺達はウシュムガルに回復の隙を与えずにダメージを与えなければいけないのだ。
「ガモン様! 『七星の盾』を使います!!」
俺達の中で一番最初に動いたのは、一番後方におり、尚且つ☆5『七星の盾』によってウシュムガルのブレスを完全に受け切っていたシエラだった。
シエラは俺に声をかけながら前に走り出ると、『七星の盾』の七つの宝玉の一つを解放する。
☆5『七星の盾』は、その宝玉の一つにつき一つ、敵の攻撃を封印し、『宝玉解放』で撃ち出す事が出来る。
そして今回、シエラが解放した宝玉から出て来たのは漆黒のドラゴンブレス。つまりはたった今、ウシュムガルから放たれたドラゴンブレスを『宝玉封印』し、お返しとばかりに『宝玉解放』したのだ!
『なんだと!?』
これにはウシュムガルも意表を突かれたらしく、片側の翼で身体を覆う様にしてブレスを受けた。
自らが放ったブレスによって翼を焼かれるウシュムガル。これでウシュムガルは、軽々しくブレスを撃つ事が出来なくなるだろう。渾身のブレスを放ったとしても、☆5『七星の盾』ならばそれを封印し、解放出来るのだ。
俺がウシュムガルの立場なら、ブレスを撃つのを躊躇するだろう。ただし、☆5『七星の盾』にも弱点はある。封印する攻撃が強力である程、盾自体に負担が掛かるのだ。今も『七星の盾』に入っている亀裂はわずかに広がり、ブレスが終わると同時に、それを封じていた宝玉の一つがヒビ割れた。
『グゥゥ…………! 神龍たる我の翼を…………!』
怒りに燃え、憎しみの篭った眼で俺達を睨みつけるウシュムガル。…………だがその時、フッとウシュムガルの眼から憎しみの光が消えた。そして、ウシュムガルは唐突にその巨大な身体を地面に投げ出して倒れたのだ。
余りにも突然な事だったが、俺達に混乱は無い。
いや、驚きはしているが、それは『まさか本当に通じるとは』と言う驚きだ。
ウシュムガルの左後方を見れば、この自体を引き起こしたティアナが、残心を残して弓を構えていた。
「神龍にも効くとか、マジでチートアイテムだなコレ」
そう口にしながら、俺はスキル倉庫からこの事態の元となった装備を取り出した。
☆3装備『ひのきの棒+4』。ウシュムガルはこの『ひのきの棒』が持つスキルを乗せた攻撃を受けて、『気絶』しているのだ。
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