603回目 神龍『ウシュムガル』
「☆4『名も無き決戦場』機動…………!」
小舟から降りた俺は、スキル倉庫の中から☆4アイテムを出し、それを海の上に広げた。
結界に覆われた海の上に浮かぶのは、幻影の闘技場。どの世界にも存在しないそれは、隔絶された小さな世界だ。
☆4『名も無き決戦場』は、使えないアイテムだ。
少なくとも、俺と仲間達の見解はそれで一致している。決して使えない訳ではないが、リスクが高過ぎて使えない。それが☆4『名も無き決戦場』だ。
一度機動したならば絶対に使わなければならないと言う制約があり、中に入れるのは戦う二組、計十名に絞られる。そして一定時間の過ぎた後には、完全に外界とは隔絶される。
出る方法はただ一つ。敵を倒し勝利する事。勝者達だけが、外に出る事を許される。これは生死をハッキリと分ける『使い捨てアイテム』である。
☆4の使い捨てアイテム。なんとも贅沢な話だが、敗者は闘技場と共に時空の果てに消え去るので、間違いなく一度しか使えない。
その代わり、どれだけ中で暴れたとしても、決して外に影響を与える事はない。本当ならこんなアイテムを使う気など無かったのだが、『◇天空城『レナスティア』』の結界すらブチ抜いたこのドラゴンを閉じ込めるには、これしか思い付かなかった。
そして、『方舟』を囲む様に広がっていた仲間達を呼び寄せて、俺は『フレンド・チャット』から指示を飛ばした!
「いいぞ! やれっ!!」
俺の指示によって、『方舟』の周囲に浮かぶ小島の一つから『神罰の鎖』が伸びて『方舟』に空いた大穴に突き刺さった!
『ガアァッ!?』
疲れ果てている漆黒のドラゴンが一本の鎖に絡め取られ、『方舟』から引き落とされる。そして次の瞬間には、一本欠けはしたが『神罰の鎖』によって『方舟』は雁字搦めにされた。
漆黒のドラゴンが落とされる先にあるのは、もちろん『名も無き決戦場』だ。『神罰の鎖』によって絡め取られたドラゴンが『名も無き決戦場』に落とされる寸前に鎖は解かれたが、ドラゴンはそのまま決戦場へと消えていった。
大役を終えた『神罰の鎖』は他の四本を追って『方舟』へと巻き付き、俺もまた仲間達と共に『名も無き決戦場』に入ろうとした瞬間に、俺のスキルから声が響いた。
『聞こえるかい、ガモン』
「ダイスか? …………戦いの直前だぞ? 何かあったか?」
この大事な一戦の前に声を掛けて来たのは、運命神ダイスだ。相手が神となれば無視は出来ない。この大事な時なら尚更だ。
俺は踏み出そうとした身体を後ろに戻しつつ仲間達にも手で合図を送り、ダイスの呼び掛けに応えた。
『出鼻を挫いたのは謝るけど、どうしても伝えないといけない事がある』
「何だ? 時間が無いから要点だけ頼む」
『解った。まず、あのドラゴンの名は『ウシュムガル』。神に名を連ねる存在だよ。まだそこに至って間もないから君達なら倒せる可能性はあるが、その道が苦難である事は覚悟して欲しい』
「そんな事は言われるまでもない。それだけか?」
『もう一つ。これは朗報だよ。あの幻獣は、『方舟』の中に居た狂った神獣達を糧にして、『ウシュムガル』に至った。正確には、『レナスティア・キャノン』を脅威とみなした『方舟』がそうさせた。つまり、あれが『最後の砦』だよ。あれさえ倒せば、後は『方舟』を残すのみだ』
「…………なんで急にそんな情報が?」
『そりゃ、さっきの『レナスティア』との攻防で『方舟』の中がスカスカになったからさ。外からでも解る位に、魔力と瘴気が薄くなったんだよ』
…………なるほど。あれは『方舟』にとってもギリギリのせめぎ合いだったのか。ここまでの戦いは無駄じゃ無かった。交代制にして絶え間なく戦ったおかげで、あの『方舟』の中にいた幻獣や狂った神獣達はかなり数を減らしていたんだ。
そして、『レナスティア・キャノン』に対抗するべく『方舟』は最後の切り札を出した!
『流石はガモンだね。僕の用意した『ストーリー・クエスト』と言う筋書きを、自らのストーリーで超えて来ただけの事はあるよ。君が『レナスティア・キャノン』を使うと決めたタイミングは、正に最大限の効果を生んだ。さぁ、あとは神龍に至ったドラゴンを倒して、『方舟』を詰めるだけだ』
「そうか。なら、絶対に負けられないな!!」
その決意の言葉を放って、俺が『名も無き決戦場』へと飛び込むと、それを追ってティアナやアレス達も小舟から決戦場へと飛び込んだ。
そこは、闇のドームに包まれた、岩が点在する広大な決戦場。役者が揃った事で入口となった空間は閉じられ、ここから出るには相手を倒す以外に方法は無い。
俺はティアナ、アレス、シエラ、カーネリアの四人が揃っているのを確認して、同じ空間内にいる事で余計に強大に見える漆黒のドラゴンに眼を向けた。
『グウゥゥ…………、グラオオォォォォーーーーーーーーッ!!!!』
漆黒の神龍『ウシュムガル』が吠え叫び、その叫びに怖気づきそうになる心を奮い立たせて、俺達はその強大なドラゴンを前に武器を構えた。
俺の隣にはアレスが並び、一歩下がってティアナが弓を、カーネリアが杖を構える。そして最後尾にはシエラが控えている。
冒険者パーティー『G・マイスター』。俺は頼もしい仲間達の存在を感じながら、声を張り上げた!
「これが俺達の最終決戦だ!! 行くぞ皆!!」
「「「「おうっ!!!!」」」」
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