600回目 勝負をかける時
実際に『方舟』に乗っていた事のある女神『ヴァティー』との会話の中で気になる話があったと、俺がガチャをひたすら回していた時に、アルジャーノンが話してくれた事がある。
それは、『方舟』との戦いの前。俺の『ガチャ・マイスター』がほとんどの力を失うと解り、ガチャを爆回ししていた時の話だ。
いつもならティアナや他の仲間達が、休憩がてら遊びに来るのだが、その日は珍しくアルジャーノンが来た。
なんでもヴァティーが楽しみに取って置いたケーキをうっかり食べてしまい、ヴァティーの機嫌が悪くて気まずいとか、そんな理由で来た時だった筈だ。
まぁそこに、俺から珍しいケーキを貰ってヴァティーの機嫌を直そうと言う魂胆もあったのだが、それは別に良い。ちなみに、ガチャから出てきた有名店のお取り寄せと思われるケーキを渡したので、ヴァティーの機嫌は一瞬で直ったと後に聞いている。
…………話が逸れたから戻す。
アルジャーノンがその時に口にした気になる話とは、ヴァティーが『方舟』にいた時の話だった。
まず『方舟』の持つ機能を説明する。『方舟』は、滅びかけた世界の立て直しの為に神々が創り出した『神の乗る船』だ。そこには当然様々な機能が盛り込まれており、それが『神獣』と言う存在を生み出している。
つまり本来ならば、神獣とは次元を越えたエネルギーを使って、ただの動物から神獣へと『方舟』の機能を使って調整されるものであるらしい。
だが知っての通り、ヴァティーは例外だった。
元々が『女神』であるヴァティーは、その神力を大幅に落としたものの、神である事には違いない。当然『方舟』の中でも自身を神獣に調整する必要などなく、自由に方舟の中を歩いていた。
その時のヴァティーは、ただの興味本位だった。『方舟』の構造を知ろうなどと言う気は微塵も無く、ただウロウロと暇潰しをしていただけである。
だが、そんな暇潰しも何度となく繰り返せば見えて来る物がある。ヴァティーは最近になって、その時に見ていた『方舟』の内部構造を思い出していたのだ。
それは正に値千金の情報だった。
俺は直ぐに、アルジャーノンと共にドゥルクやレティアをヴァティーの部屋へと向かわせて、ヴァティーから得られる限りの情報を得た。
◇
「…………と言う訳で、ヴァティーから得た情報から、『方舟』の内部構造を視覚化したのがこれだ。レティア、頼む」
『はい。皆様、ご覧下さい』
レティアの前に3Dフォログラムで映しだされる『方舟』の映像。それはさらに次の瞬間、その一部がスケルトン表示になり、内部が透けて見えた。
ただし全てではない。あくまでも女神ヴァティーが歩いた事のある場所だけだ。ヴァティーも暇つぶしに歩きはしたが、さして興味も無かった為、記憶にあるのは一部分だけだった。
興味の無いヴァティーが、僅かでも覚えていた部分。それはつまり、それ程までに印象に残った場所と言う事だ。
「記憶に遺っていたのはこれだけなのね。ガモン、貴方にはこれで何かが解るの?」
「俺じゃないよティアナ。俺もこれを見て解るのは少しだけだ。それも予測の域を出ない。でも、これを見ればある程度の内部構造は割り出せるさ。…………飛空艇をイチから造り出せる職人達ならな」
「あっ! ドワーフ達ね!」
「その通りだ。と言うか、俺達がこれを見ているように、工房でもドワーフやエルフ達がこれを見ている筈だ。そうだよな? レティア」
『はい。マスターの指示された通りに、現在、工房の方でもこの映像を映し出しております。更に言えば、既にドワーフ達は予想される『方舟』の構造を書き出しています』
流石はドワーフだ。飛空艇造りで得た技術や知識は伊達ではない。
もちろん、こことは異なる次元からやって来た『方舟』なので、ドワーフ達も全てを詳らかにするのは不可能だ。
だがそれでも、『方舟』にとって重要な機関がある場所を割り出す事は出来た。俺達が狙うのは、『方舟』のエネルギーを作り出す機関だ。『方舟』の機能を、永続的に使えなくするのだ。
なぜ、これを今になってやるのか。こんな事は予めやっておくべき事ではないのか、そう思うだろう。
それは、俺がこの方法を使いたく無かったからである。あまりにリスクが高すぎる。
考えてもみて欲しい。例えば車、例えば戦闘機、そして巨大な戦艦。そのエネルギー、つまりは燃料が詰まったタンクは、最大の弱点と言える。
そこさえ破壊すれば、車はもちろん、空を高速で飛ぶ戦闘機も落とせるし、どんなに巨大な戦艦でも海に沈める事ができる。
ただし、それにつきものなのは大爆発だ。それはエネルギーが尽きかけている『方舟』でも変わらないだろう。どれ程の爆発になるかは知らないが、こちらからの攻撃も含めて、確実に船体に大穴が空く。
と、するならば、そこからは幻獣や狂った神獣が溢れ出す事だろう。序盤の戦いでそれをやれば、あっという間に世界中に幻獣や狂った神獣が広がってしまう。
だがもしかしたら、その急所を貫く一撃で『方舟』を幻獣や神獣もろとも滅ぼす事が出来るかも知れない。
俺が避けたかったのは、この見通しの甘い幻想である。俺自身、この弱点を知ってしまったらやりたくなるかも知れない。だから今まで避けていた。
だが、そろそろ良いだろう。『方舟』が、先の大軍を出して来たと言う事実、そして出てきた戦力が真っ先に向かったのが『神罰の鎖』が伸びている浮島だったと言う事が、俺には『方舟』の焦りにも見えた。
勝負をかける一手を打つのは、今この時だ。
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