596回目 再びの魔王
鎖を緩める度に出現する『狂った神獣』は多岐に渡り、更に狂っているからこそ、その姿は『魔王』だった時からは大きくかけ離れたりしている。
事実、今回の『方舟』からの敵が『狂った神獣』ばかりだったのでチームを分けた俺の前に現れたのは、俺が直接戦った事のある『キツネ』だった。
もっとも、俺が以前戦ったのは『魔王』のキツネだけどな。
『クゥクゥクゥ!』
「随分と姿が変わったじゃないか、『キツネ』」
「え? あれが『キツネ』なの? ガモンから聞いていたのと随分違うわね」
「ああ、そこは俺も驚いているよ」
俺とティアナの前に現れたのは『キツネ』。これは恐らく、俺が魔王『キツネ』と戦った事がある事を知ったレティアの采配だろう。
ちなみに、アレス・シエラ・カーネリアの組には『シーホース』と言う下半身が魚の馬がいる筈だ。
まぁ向こうは心配ない。あの三人なら、例え相手が『幻獣』でも倒せるだろう。今はコッチが問題だ。
姿が変わった『キツネ』は、一言で言うならば獣人だ。キツネの頭に体毛で覆われたキツネ獣人である。
「ねぇガモン。あの『キツネ』、ずっとガモンを見てるよ?」
「そうだな。…………あれは俺が憎くて仕方ないって顔だ! 来るぞ!!」
『クカカカカッ!!』
キツネは自分の体毛を摘み取ると、それを長い棒状に変え、俺に向かって走り出した!
その顔は禍々しく歪み、俺に対する強い憎悪が読み取れた。前の戦いでの事をまさか覚えているのか? 何にしても、アイツの狙いは俺だけのようだ。
『クカァーーーーッ!!』
「フンッ!!」
キツネが全力で振り下ろした攻撃を、俺は剣で受け止めた。
キツネの攻撃は、決して軽いものでは無い。実際、キツネの攻撃を受け止めた際には、周囲に僅かな衝撃波が放たれた程だ。
だが、あの時の俺と同じだと思われても困る。
『…………クカッ!?』
「お前も強くなったんだろうが、俺はそれ以上に強くなっているんだ。…………ステータス面だけだから自慢にもならないけどなぁっ!!」
『ギャゴーーン!?』
俺はキツネの攻撃を力技で押し返し、腕が上がってガラ空きになった腹部に回し蹴りを叩き込んだ!!
ステータス値によるゴリ押しも、ここまで圧倒的になればもう必殺技だ。このたった一撃で、キツネは大量の黒い血を吐き出し、明らかな致命傷を負った。
今の一撃で、キツネはどうやっても俺に勝てないと悟ったのだろう。だが、俺に対しての憎悪は捨てられず、何とか一矢を報いようとした。
禍々しく歪めたその顔をティアナに向けたキツネの心情は、恐らくはそんな所だったのだろう。
キツネの誤算は、『狂った神獣』と化したキツネを屠る力を、ティアナも十分に備えていた事だ。
キツネが顔を向けた時には、いや、キツネが俺と打ち合った時には、既にティアナの準備は終わっており、キツネが全力でティアナに襲い掛かったこの瞬間にも、ティアナの弓は一切ブレる事なく、キツネの眉間を撃ち抜いた!
『ギュガ…………ッ!?』
眉間に突き刺さった氷の矢を中心に、花開く様に氷に覆われていったキツネは、凍りついたままティアナの横を掠めて砕け散った。
◇
戦いを終えて『レナスティア』に転移で戻ると、まだ誰もいなかったが、その後すぐにアレス達が姿を現した。
「先に戻っていましたか、ガモン殿」
「ああ。そっちも早く終わったんだな。そっちは『シーホース』とか言うヤツだったんだろ?」
「ええ。海の中なら厄介な相手だったのでしょうが、陸上では…………と言った感じでした」
と、そんな事を話している間にも、控え室にはドワーフの部隊やどこぞの国の騎士団が戦いを終えて戻って来ていた。
レティアによると、今回『方舟』との戦いに集まった戦力は、これでほぼ全てが『狂った神獣』との戦いを経験したそうだ。
嬉しい誤算だが、俺が考えていたよりも皆は強く、相手が『狂った神獣』であればあまり被害を出さずに戦えている。
現に今戻って来たドワーフや騎士団も、負傷したのは数名であり、ポーションでその傷を癒していた。
こうなって来ると、少しペースを早めた方が良い気もするが、例えばしばらく『狂った神獣』を倒し続けたとして、多少なりとも疲弊した所で『幻獣』が数体まとめて出現した場合、簡単に押し切られそうな気もする。
敵側の、あの『方舟』に乗っている戦力の把握が十分に出来ていないのが、やはり辛い所だな。
…………などと、そんな事を考えたからだろうか。
『マスター、次の戦闘に移りますか?』
「ああ、頼む」
次の戦いをと緩められた『方舟』の戒めから、『幻獣』が三体も飛び出して来た!
『ウギャギャギャギャッ!』
『ブオォーーーーム!』
『ギチギチギチッ!』
その三体は、巨大な猿に、巨大な鯨、そして巨大なムカデの姿をしていた。
『マスター! まだ居ます!!』
「クソッ!? やられた!!」
そして更に、その『幻獣』達の口や体毛の中から、数体の『狂った神獣』までもが現れたのだ。
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