595回目 幻獣ファルコンとの顛末
「被害が出た? …………は? あの幻獣ファルコンと戦っていたエルフ達がやられたのか!?」
『正確には相討ちに近い形でしょうか。戦い自体は有利に進んでいたのですが、最後に状況をひっくり返されました。あの幻獣があんな手を使って来るとは、予想外でした』
仮眠から起きて食事をした後にレティアに呼び出され、報告を受けたのだが、その中にエルフ達の話があった。
不幸中の幸いか、全員が生きていたので治療は間に合ったらしいが、一歩間違えれば死人が出てもおかしくない状況だったらしい。
「何が起きたんだ?」
『では、要点だけを説明致します』
幻獣ファルコンとエルフ達の戦いは、密林フィールドを上手く使ったエルフ達が優位に進めていた。
幻獣も、エルフ達を得意なフィールドから引きずり出そうと、魔法を用いて色々とやったそうだが、魔法を得意とするのはエルフ達も同じなので、風を起こせば同じ風で相殺し、密林に火をつければ即座に水魔法で消し止めと、幻獣ファルコンは打った手を直ぐに潰されながら、その身体に矢を受けていったそうだ。
ここまで聞くと負ける要素がない。それはここで戦いを見守っていたレティアもそう考えていたようで、既に次の戦いの準備を進めていたそうだ。
それが起きたのは、幻獣ファルコンの討伐まであと数撃と差し迫った時だった。
幻獣ファルコンは自らが得意とする空から急降下して密林に入った。
自らの優位を捨て、敵の懐に入るような暴挙。実際、降りて来た幻獣ファルコンには、四方からトドメを刺そうと言う矢が飛んで来た。
だが、幻獣ファルコンは何も考え無しにエルフ達の懐に飛び込んだ訳では無かった。四方からの矢が突き刺さる直前に、自身の全魔力を使い切って凶悪な風刃の竜巻を巻き起こしたのだ!
幻獣ファルコンを中心に荒れ狂う風刃の竜巻は、全方向の木を斬り倒し、薙ぎ倒しながら広がっていった。当然、幻獣ファルコンのトドメを狙って近づいていたエルフ達を巻き込みながら。
『荒れ狂う暴風と暴れる木々に巻き込まれたエルフ達は、即死こそ免れましたが重傷を負いました。ですが幻獣ファルコンもまた、魔力切れで飛ぶ事はおろか動く事も出来ずに、切り開かれた荒地の中心でその身を休ませ始めました。回復を待って、エルフ達にトドメを刺すつもりだったのでしょう。もしここで、幻獣ファルコンにあと一体でも眷属を出す余裕があったなら、エルフ達は殺されていたと思います。本当に危なければ、その前にエルフ達を回収しますが』
本来ならば、エルフ達は重傷を負った時点で、レティアによって回収されていても不思議では無かった。
事実レティアもそれを考え、実行しようとしたそうだ。それをしなかったのは、エルフ達がまだ諦めて無かったからである。
エルフ達のリーダーを務めていた者は、両脚を倒れた大木に挟まれて身動きが出来ない状態になっていた。
それでもその身を起こしたエルフは、魔法を使って幻獣ファルコンの場所を探りあてた。
幻獣ファルコンも、その気配には気づいたのだろうが、放置した。何故ならば、エルフは既に身動きが取れず、その場所から幻獣ファルコンを弓で狙うのは、倒木が邪魔で不可能に思えたからだ。
だが、その認識は甘かった。エルフは弓を出すと、両脚の痛みに耐えながら身体を捻り、斜めに倒れている木に身体を預ける様にして、一本の矢を空に放った。
全身全霊の一射に、精根尽き果てたエルフは気を失い、空高く上がった矢は放物線を描いて、ジッと身体を休める幻獣ファルコンの背中に突き刺さった!
『ギュピィッ!!??』
それがトドメとなって幻獣ファルコンは滅びたが、エルフ達も全員が重傷を負って気絶しており、エルフ達はすみやかに回収されて治療室へと運ばれたのだった。
「…………マジで? そんな劇的な終わり方したのか。それで、エルフ達は大丈夫なんだよな?」
『問題ありません。ポーションもエリクサーも揃っていますし、死んでなければ身体はすぐに治ります。ですがら今回はそちらよりも心のケアの方が重要ですね。あの幻獣ファルコンが起こした大災害は、全員が死んでもおかしくない状況でしたから。事実、彼らは完治したもののまだ目覚めておりません』
「心か。確かにそれは重要だな。よし、彼らは一旦シフトから外してくれ、本人達が目覚めて『大丈夫だ』と言ったとしても、しばらくは休養させる」
『かしこまりました』
まだ『方舟』との戦いが始まって二日。なのにもうアラムの『ジュエルドラゴン部隊』と言うカードを切らされ、エルフの一部隊が戦線を離脱した。
この他にも今回戦った者達には、程度の多少はあるが負傷した者も出ている。救いは、まだ負けた戦いが無い事だ。
だが、これまで出て来たのは『方舟』が保有する戦力のほんの一部。まだまだ先は長いのだ。
それに、常に『方舟』から垂れ流しになっている瘴気の問題もある。先は長いが、悠長にはしていられない。
「次はまた俺達も出る。采配は任せたぞ、レティア!」
『はい。お任せを』
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