590回目 世界の反対側では
我聞達が『方舟』と戦いを繰り広げている海とは、惑星を挟んで反対側の空。
夜の星々が一切の陸地の無い海に映り込む、正に星の海とも言える場所に、大小様々な陸地が無数に浮かんでいた。
世界の存亡を賭けた戦いの、正に裏側にいる戦う力を持たない人々は、不安に苛まれる…………事なく。我聞のスキルにより設置され、我聞のスキルにより『方舟』との、幻獣や狂った神獣との戦いを映し出すテレビの前で歓声を上げて応援をしていた。
彼らとて、この戦いがどういう物かは理解している。何せテレビ越しとは言え、『神々』にその説明をされているのだから。
画面の向こうに映る、威厳と迫力をもった、正しく『神々しい』としか表現出来ない神々を目にして、その言葉を疑った者はいなかった。
だが、それはそれとして。
村から村、街から街への移動すら、溢れるモンスターのせいで命の危険があるこの世界において。
陸続きの他国へ行く事など、一般庶民の個人では考えられない、精々が隣町に行くのが限度のこの世界において。
テレビから音楽と共に放映される我聞達と狂った神獣との戦いは、この上ない娯楽となった。
頭では解っている。これは世界の存亡を賭けた戦いだと。決して負けられない命がけの戦いで、遊びでは無いのだと。
だが、我聞達の繰り出す攻撃が狂った神獣に当たり、神獣の禍々しい攻撃を我聞達が躱す度に、それを観ている人々は熱狂し、歓声を送った。
「おいおい! 今のカエルの攻撃はかなり際どくなかったべか!? 火を纏ったベロが、あんなスピードで繰り出されると、そのうち避けられなくなっぞ!!」
「いやいや。その為のティアナ様のサポートだべ。燃えるベロが繰り出されるや、氷の矢を放って牽制していたべ。あの燃えるカエルには、ティアナ様の氷の矢はよく効くべ」
「おっ画面が切り替わったぞ! 今度はアレス様のとこだ!」
「かーーっ! やっぱアレス様は絵になるなぁ。あの純白の鎧も、よくお似合いだぁ」
我聞達と狂った神獣との戦いを見守る彼らに不安は無い。むしろこの時を楽しんですらいる。その証拠に…………。
「おう、兄貴! 俺らも混ぜてくれや!」
テレビの前を陣取る男の弟が、わざわざ一緒に見ようと訪ねて来たりするのだ。
「おっ!? 何だお前ら一家総出で!? こんな時に山越えて来ただか!? …………いや、にしたってこんな夜にか?」
こんな時に、山を挟んだ隣村の弟家族が揃って出向いて来た事に驚いた兄は、しかしふと首を傾げた。
弟一家の暮らす隣村は、山を二つ越えた先にある。普段ならそれは、徒歩で一日以上掛かる距離だ。それもまだ幼い子供を二人も連れていては、二日ではすまない道程になる。
ただでさえ山はモンスターがいて危険なのに、わざわざ山を越えて来るとは。隣の村に何か事が起きたのかと、出迎えた男は不安になった。
だがそれを見た弟は、笑って顔の前で手を振った。
「安心しろ兄貴。俺等ぁ山は越えてねぇ」
「はぁ? んだらどうやって?」
「飛空艇だぁ。今この島の周りを飛んでいる小型飛空艇ってのに、乗せて貰っただよ。いやぁ速えぞ! 山を迂回するってんだから! あの小型飛空艇があれば、もう大荷物抱えて山を超える必要はねぇぞ! この空飛ぶ島の外側をグルリと回ってよ、荷物ごとアッと言う間にこっちさ来られるべ!」
「お、おお、そうか。…………そういやぁ、もう俺達は空の上にいるんだったな。その割には目に見えて変化がねぇから、忘れてた」
「ハッハッハッ! まぁ、そんな事ぁどうでもいいで、皆でテレビ見るべ。この戦いを皆で応援しようや」
「お、おう! ほんじゃこっち来て座れや!」
「「「「うおおぉぉーーーーっ!!!!」」」」
☆4『大型テレビ』の前にいた村人達が、突然大きな歓声を上げたので、兄弟は何事かとテレビを見た。
するとテレビの中では、炎を纏ったカエルが大きな氷柱に身体を飲まれて固定され、藻掻いていた。
どうやら、薄く水の張った地面にカエルが着地した瞬間にティアナが氷の矢を放ち、その効果で発生した氷柱にカエルガ飲まれてこうなったらしいと、兄弟はテレビを見ながら話す村人の会話で知った。
そして、氷柱から抜けだそうと藻掻くカエルの後ろからは、大きな戦斧を持った我聞が高く飛び上がっていた。
空から影が差した事で我聞に気付いたカエルだが、その時にはもう、我聞の振りかぶる大きな戦斧が、キラキラとした氷を纏いながら更に巨大化していた。
それを見上げた瞬間、カエルが生を諦めたのを、テレビを見ていた全員が理解した。
そして、眼を閉じて頭を下げたカエルは、我聞の振るった☆4『氷河砕きのハルバード』で真っ二つにされて凍りつき、やがて全身に走った亀裂によって砕け散った。
◇
我聞とティアナが、狂った神獣『ヒダルマガエル』を打ち砕いた事により絶叫する人々を見て、神界から我聞達の世界を見ていた神の一柱が、呆れた様にため息をついた。
神々としては、星の反対側に逃がした人々は、それはそれで不安要素だったのだ。
瘴気とは、負より生まれるモノだ。それは闇とか死とかだけではなく、人々の持つ負の感情からも瘴気は生まれ、さらに周囲からも瘴気を集める。
神々の懸念は、その負の感情によって不測の事態が起きる事だった。だが蓋を開けてみると、人々は我聞が設置させ、我聞が放送させているテレビから流れる映像に夢中になり、歓声を上げて我聞達の戦いを応援している。そこに負の感情などは、一切見えなかった。
まさか我聞がここまで読んでテレビを設置させた訳ではないだろうが。それでも、予期せずに生み出された良い流れに、様子を見ていた神の一柱は、この戦いの勝利を予見した。
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