583回目 変わる世界
我聞の手から☆5『魔神のサイコロ』がこぼれ落ち、その形を崩して完全に消滅した瞬間、世界は止まり、一度完全に崩壊した。
正確に言うならば、その世界に置ける存在はそのままに、その形だけを失うと言う、形容し難い状況である。
その場には何も無くなったが、幻影だけが揺蕩っている状況が一番近いだろうか? 人が光や闇といった物すら存在しない、白も黒も無いような完全な無を想像出来ないように、この現象は次元が上の者達にしか観測出来ない状況なのだ。
その世界において、我聞は確かに存在する。ティアナもアレスもドゥルクもアルジャーノンも、『方舟』も、存在はそのまま残っている。
世界に存在するものは何も変わらないが、在り方が変わるのだ。
『さて、準備はよいか?』
『こちらは大丈夫だ』
『出来てるよーー』
『問題ない』
創造神の声かけに、多くの神々が答えた。皆、今回の一件に関心を持ち、協力を約束した神々である。その中には、『魔神のサイコロ』を製作した『魔神』すらも含まれている。
『では…………始めるぞ!!』
創造神の号令の下で、まず最初に動いたのは運命神であった。
彼は我聞に与えられたスキルの独自性を利用して、神々の中では唯一、『ガチャ・マイスター』を通して我聞と繫がっている。
その運命神は我聞の幻影に手を突っ込み、その魂から一本の光の糸を引き出した。
それは我聞のスキルの一端であり、☆5『魔神のサイコロ』と直に繋がる部分だ。そしてその光の糸が引っ張られた反対側では、我聞の魂から伸びる無数の糸が、世界やその『理』と細い糸を伸ばして繫がっていた。
『よし! 繋がった! 『魔神のサイコロ』も既に世界と繫がっているから、これで改革ができるよ!!』
『では世界を創り変えるとするか! クハハハハッ! 我は存在して長いが、これ程の新しい事がまだ起きるとはな! 悠久ぶりに楽しいな!!』
『楽しそうなのは結構だけど、一つたりとて零すなよ、魔神?』
『勝手な付け足しも御法度だぞ、魔神?』
『解っている。こういうのは、完成してこそ意味があるからな! 失敗に繋がる愚など犯さぬわ!!』
多くの神々が、我聞の魂を通じて世界にアクセスし、その世界の在り方を変えていく。
別次元の情報が複雑に絡み合う『方舟』は三柱の姉妹女神によって完全に隔離され、その『方舟』から降りて世界に定着した、女神『ヴァティー』を始めとする神獣達と『方舟』との繋がりを、この際に断ち切った。
これによって、『方舟』との繋がりに苦しんでいた神獣達は自由となり、その切れた繋がりの糸は、新たな世界との繋がりとして再構築され、新たな世界の安定にひと役買う事になる。
我聞の夢想した世界。我聞は簡単に陸地が空を飛ぶと口にしたが、その実現は当然ながら気が遠くなる程に困難を極める。
神々は作業を分担し、新たな世界の理を構築し、その情報を定着させる礎として☆5アイテムを解き、塗り込めていく。
複雑に絡み合う情報の無駄な結合を防ぎ、かつ安定させる事に☆5アイテムは消費されていく。
だが、☆5アイテムが持っていた強力無比な能力もまた、世界の一部となった。
故に、いずれ遠い未来においては、この☆5アイテム達の力は自然現象やこの世界に暮らす者達のスキルとして陽を浴びる事もあるだろうが、それはまた別の話。直近においては、世界を定着させる為の安定剤に過ぎない。
そして神々の手と、☆5『魔神のサイコロ』のスキルによって世界を構築する情報が書き換えられていく。
神々によって書き換えられた情報は穴が無いように知識の神が精査し、運命神がチェックする。この二神にはとんでもない責任とプレッシャーが伸し掛かるが、最終的に決断をする創造神もまた、精神をすり減らして何度も情報を見直していた。
一人の人間に与えた力により、多くの神々が献身的に働く事になり、世界が書き換えられていく。
たった一人の思想によって、これ程多くの神々が精神をすり減らして必死になっている現状は、無数に広がる多次元世界においても例がなく。これを引き起こした『千羽 我聞』の名前は永遠に神々の歴史に刻まれる事になるなと、運命神ダイスは必死に働きながらも、その感情を抑えられずに笑みを漏らした。
◇
床に転がる事なく消えていった、☆5『魔神のサイコロ』の残滓を見つめながら、俺は自分の中にあった多くの物が抜け落ちたのを感じていた。
試しに『ガチャ・マイスター』を起動するも、その画面は大部分が黒いモヤとなって消失しており、回せるガチャも『ノーマルガチャ』の一択になっていた。
使えなくなったスキルのチェックもしたい所だが、俺は取り敢えず『天空城』へと戻り、そこで待っていたティナと共に、『レナスティア』の端にまで行ってみた。
「……………………すげぇ」
語彙力が死ぬとはこの事か。『レナスティア』から見渡す世界には、空に浮かぶ多くの陸地が見えて、更にはその空を悠然と泳いで行く多くの魚と、それを当然として変わらずに飛ぶ鳥の姿があった。
一つの島からは、いったい何処から出ているのか大量の水が滝として流れ落ちており、その滝を潜り抜けた大きなクジラが、その身体に跳ねた水に反射した虹の中で身体をくねらせていた。
こんなのを見せられれば、嫌でも自覚する。世界は確かに改変された、と。
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