581回目 エルダー・ハイエルフ
『……………………こ、これは…………、正に私が追い求めた『神なる大樹』。…………世界樹を超える程の、圧倒的な力を秘めた樹木…………! あぁ……、まさか本当に存在したなんて…………!』
エルフの郷から連れて来たエルダー・ハイエルフの『ミルスン』は、毛布で身体を包んで車椅子に乗せた状態で運ばれて来たにも関わらず、イマメルバーンがミルスンの手を取って神聖樹に触れさせた瞬間に目覚めた。
カッサカサで真っ白な髪を持つエルフの老婆が、カッと眼を見開くその姿には、俺達全員の体がビクッ!? と震えてしまった。普通に怖かったのである。
神聖樹に震える両手を伸ばす老婆は、カサカサの唇を動かして何かを言っていたが、最初はききとれなかった。
すぐにティアナとシエラが、水分が足りてないからである事に気がついて水を飲ませたのだが、老婆は水を飲みながらも、決して神聖樹から眼を離さず、その両手を神聖樹に伸ばし続けた。
そして、水分を十分に取れたからか、やっと俺たちにも聞き取れる言葉を発したのが、冒頭のセリフである。…………まぁ、やっぱり神聖樹しか見てない訳だ。
『私の追い求めた大樹よ…………。そなたは何故存在するのか。私の想像の中にしか存在しえない『神なる大樹』が、なぜ現実にあるのだろう…………』
「その問いには、俺達が答えられますよ。ミルスンさん」
水を飲ませたティアナとシエラですらガン無視をしたミルスンだが、疑問を持った今なら俺の声も通るだろう。そう考えての声かけだったのだが…………。
『存在しない筈の樹が存在する。いえ、存在している以上、この樹は存在する物だった…………。でも私の考えていた通りの樹ならば存在するには…………』
「…………あ、あの? もしもーーし」
『この樹の存在定義は…………、いやそもそもこの世界の魔力において…………』
「……………………」
うわ駄目だ。マジかよ全然聞いてねぇ。ミルスンは俺達がどう声を掛けたとしても、口元に食い物を持っていったとしても、神聖樹から一切眼を逸らさなかった。
…………口元に持っていった食い物は食うのに、それでも俺達に対して一切反応しないミルスンを、俺はある意味で尊敬したよ。
「しかしどうするコレ? 専門家の話も聞きたいのに、全然こっち見ないもの。会話どころか存在を認識されてないもの」
「申し訳ない! ガモン殿、どうかここは私に任せては貰えないだろうか? 私が根気強く話しかけ、なんとか情報を引き出してみせますので…………!」
ミルスンの余りの態度に、イマメルバーンが俺達に向けて頭を下げた。
確かに、エルダー・ハイエルフのミルスンから情報を引き出すなら、ハイエルフであるイマメルバーンの方が適任だろう。
エルフの里でも周囲を全く見ていないエルフは何人か見かけたが、アレをどうやって現実に引き戻すのか、その方法は俺達には解らない。なら、イマメルバーンに任せてしまった方が良いと思う。それに俺達も、ずっとここでミルスンの相手をしてはいられない。
そんな訳で、ミルスンの事はイマメルバーンに丸投げした。…………のだが、それから五日、十日と何の音沙汰も無く過ぎて行く日々に、俺達はやることはやりながらも不安を隠せなかった。もしかしたら、世界樹に埋まっていた様な事が、神聖樹でも起きているかも知れないと思っていたからだ。
そして、何の音沙汰も無くついに二十日。これはヤバイと様子を見に行こうとした所で、ついにイマメルバーンが報告書と共に帰って来た。
「良かった。もう少しで迎えに行くところだったよ」
「お待たせして申し訳ない。話を聞き出すのにも苦労したのだけど、その内容もよく飛ぶ物だから、纏めるのに時間が掛かってしまいまして…………」
「それで、ミルスン殿は?」
「眠りにつきましたよ。神聖樹に縋り付く様に抱きついて。あれはまたしばらくは起きないでしょうから、後で回収しておきますよ」
そう言って肩を竦めるイマメルバーンの手には、何とも分厚い報告書が握られていた。
「随分と大変だった様で」
「ええ。ですが見返りは、しっかりとありました」
ニヤリと笑うイマメルバーンに、自信を見た俺は、レティアに命じて人を集めさせた。集めるのは主にクラン『G・マイスター』のメンバーだ。
神聖樹は、『方舟』との戦いだけでなく、これからの世界においても重要になる。何せ神々が規則の穴を突いてまで用意しようとしたアイテムだからな。
その情報は、広く周知しておいた方が良いと考えたのだ。
そしてそれは、間違っていなかった。
「神聖樹には、瘴気を吸収する機能と、瘴気を聖属性のエネルギーに変換する機能、そして瘴気を含む攻撃を弾く結界を張る機能を有しています。この他にも超回復や自己再生も行えるのですが、『方舟』との戦いにおいて重要なのは先の三つです」
瘴気の吸収・変換・反射。この三つの機能は、コレだけであれば他のガチャアイテムでも再現出来る。神聖樹に比べて規模は小さいが、出来てしまうのだ。
神聖樹の凄い所は、この機能が『木片になっても有効』だと言う点と、これらの機能を『加工する事で高め、それらを組み合わせて使える』と言う点である。
例えば、神聖樹から三枚の板を切り出し、『瘴気を吸収する事に特化した板』と、『瘴気を聖属性の魔力に変換する事に特化した板』、それに『瘴気を含んだ魔法を反射する事に特化した板』の三枚を作り、それを貼り合わせて組み付けると、『瘴気を吸収して聖属性に変換し、その聖属性の魔力を使って結界を維持する機能を持つ板』が出来上がるのだと言う。
そんなに上手くいくのか? と思うだろ? 俺も思った。なので取り敢えず、本当にそんな事が可能性なのか実験してみる事になった。
そしてその実験の結果、俺達は『方舟』との決戦における拠点造りの為に、多くの神聖樹を切り出す事になったのだった。
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