580回目 ハイエルフ発掘
『神聖樹という木を、一言で表すなら『貪欲な木』だね。あの樹は、どんな所にでも生えるし、瘴気ですらも自らのエネルギーとし、尚且つそれでも闇に染まらない。瘴気の只中で育っても神聖樹は聖なる波動を放ち続ける。闇に生きる者にとって、これほど厄介な存在も珍しい』
運命神『ダイス』は、神聖樹をそう評していた。付け加えるならば、そう言う性質が爆発した結果として、神聖樹は自我を得て神へと至ったのである。
ひとつの樹木の性質が世界を飲み込み、ひとつの樹木の性質が自らを神へと至らせた。
そんな樹木など他にある筈もなく、樹木の神『ジュダイン』の意識が宿っていた巨大過ぎる神聖樹は、長い時を生きて来たエルフをして、口をあんぐりと開けたまま、ただ真上を見上げると言う有り得ない表情を晒させた。
「…………これは、凄いですな。正しく神なる樹。それがこんな…………」
神聖樹の森の中に設置したコンテナハウス。その中に☆4『拠点ポータル』を設置した俺は、『レナスティア』から、エルフの代表者の一人であるイマメルバーンを連れて来た。
エルフとは世界樹と共にあり、森に生きる種族である。森の精霊族である彼らは、こと樹木の事について最も長けた種族である。
そのエルフの、それも一つの部族を取り纏める役職にある者が大口を開けて呆ける姿は、中々にインパクトがあった。
「わ、私ではこれをどう判断して良いのやら。うぅむ…………。ガモン殿、我らの郷から一人連れて来たい者がいるのだが…………」
「エルフの郷から? 確かあそこに残っているのって…………」
「ええ。すでに外界との接触も絶った方々です。ですがその中の一人であれば、この神聖樹についても詳しくは解るかも知れない」
イマメルバーンにそう勧めれて、俺達はそのエルフを連れて来る事にした。
…………が、だ。これが大変だった。
エルフの郷に今でも残っているのは、自分の意識を内に込めて、外部の情報を一切シャットアウトしているエルフ達だ。
ハイエルフともなると、その存在はまるで植物の様に希薄になるが、今回イマメルバーンが呼ぼうと言ったのは、ほぼ完全に世界樹と一体化してしまっているエルダー・ハイエルフの一人である。
当然、意思の疎通が出来ないからフレンドにもできず、俺達は飛空艇『アベルカイン』を使ってエルフの郷まで迎えに行った。
…………その迎えに行ったエルフの状態は、ちょっと意味不明なものではあったが。
「「……………………(ドン引き)」」
「ま、まぁ、こう言う……状態なんです」
エルフの郷にてイマメルバーンに案内された俺達は、巨大過ぎる岩にも見える世界樹の裏側に回って、別の植物の蔦に覆われた一角を切り拓いて、エルダー・ハイエルフを文字通り発掘した。
いや、本当に発掘だった。だって世界樹に埋まってるんだもの。本当に文字通り埋まっていて、僅かに左手の一部だけが見えている状態だったのだ。
それはもう、『え? これ死んでるよね?』って何回イマメルバーンに聞いたか分からない。その度にイマメルバーンは『死んでない』って言っていたが、完全に『樹葬』とか名前が付くような状態だった。
傷つけないように発掘して、さらに発掘して。ようやく出て来たのは、歳のいった女性のエルフだった。
見た目が若々しいエルフの中で、しかも普通のエルフよりも寿命が長いハイエルフの中で、歳をとって見えると言うのは異常と言っていい。いったいどれ程の長い時を生きてきたのか、それは想像もつかない程に途方もない時間である筈だ。
「…………あの。この人(?)、カッサカサなんだけど?」
「大丈夫。水分が異常に足りてないだけで、生きてます」
「…………いや、でも。呼吸してる感じもしないんだけど?」
「大丈夫。異常に呼吸が薄くて長いだけで、ちゃんと呼吸はしている筈です。生きてます」
「…………って言うか、こんな状況なのに目を覚まさないよね?」
「この状態になったハイエルフなんて、こんなものです。さ、運び出しましょう。この方も、神聖樹の所まで連れて行けば、目を覚ます筈です」
本当かよ。と思いながら、俺達は発掘したエルダー・ハイエルフを飛空艇に運び込んだ。
ちなみに、今回発掘されたエルダー・ハイエルフの名前は『ミルスン=アーリム=ケルルペン=ククロローム=メルメントミス=オルオートマ』だそうだ。いや長いわ!?
このハイエルフは樹木に関する事を研究し、『樹木魔法』を生み出した魔法の開祖の一人であり、エルフの中でも伝説級の長老の一人だそうだ。
まさか俺達が世界樹から発掘したのがそんなに偉い人だとは思わなかった。でも、一つ心配がある。
…………この人、本当に目を覚ますの?
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