578回目 樹木の神『ジュダイン』
その日、俺はパーティーメンバーとドゥルクを連れて、飛空艇『アベルカイン』で西の大陸に来ていた。
そして飛空艇には空で待つ様に指示を出し、俺達は地上へと降りた。
西の大陸から人が居なくなって数ヶ月。当初はここに残るといった者達もいたのだが、大陸に満ちた瘴気によってモンスターが増えて凶暴化もした為に、既に全員がこの大陸を出て東の大陸か、もしくは『レナスティア』へと移動している。
「…………ドローンでの偵察で知ってはいたけど、モンスターが随分と多いな」
「邪魔をしてくるかも知れませんから、ある程度狩りましょう。手分けをすればすぐに終わる筈です」
俺達はアレスの言葉に賛成し、周囲のモンスターを狩って回った。
瘴気が満ちて、人どころかマトモな動物すらも姿を消したこの大陸は、東の大陸に比べてモンスターがかなり強化されている。この西のモンスターと東のモンスターが戦ったなら、西のゴブリンに対して東のゴブリンジェネラルが負けるだろう。要は、十倍近くは強くなっているのだ。
だが、それはあくまでもモンスター達の話だ。ガチャ装備に身を包み、ガチャ食材でバフを掛けている俺達が負ける道理が無い。
襲って来るファングコングと言う、鋭い牙が無数に生えた巨大な口を持つゴリラの噛みつき攻撃を躱して斬り捨てながら、俺は自分自身が随分と強くなった事をしみじみと感じた。
まぁ、ステータスとスキルの数では俺が一番だ。ただし、模擬戦をすると仲間内でかなり下の方だったりする。特にアレスやシエラには負け越している。パーティーメンバー以外だと、ドゥルクとバルタには勝てた事が一度も無い。
ただステータスが高いだけでは強いとは言えない訳だ。それでも、魔王相手ならタイマンで勝てるくらいの自信はある。
『そろそろ良いのではないか? もはや儂らに向かって来るモンスターもおるまいて』
ドゥルクが周囲を探りモンスターがいない事を確認したので、俺達は倒したモンスターの後始末をして、本題に取り掛かる事にした。
俺は仲間達が見守る中で、☆5『◇神聖樹『ジュダイン』の森』をスキル倉庫から取り出した。
「ねぇガモン。これってどう見ても苗木なのに、なんで『森』って名前なの?」
「おっと。とうとうカーネリアにも聞かれたな。それは俺も含めて、これを見た全員が思った事だ。そしてそれを聞いた皆に答えたのと同じ事を言うぞ。…………俺にも解らない」
本当に、なんで『森』って名前なのか。今の所有力なのは、これを植えるとすぐに森に育つから。なのだが、まぁ植えてみれば解るだろう。
☆5『◇神聖樹『ジュダイン』の森』は、どんな場所だろうと、植えてしまえばそれで良いらしい。たとえそれが岩の上であっても、海の中であっても、溶岩に放り込むのであっても、根を張る形にさえなるのなら何でもアリだ。今回は、普通に土に植えるけどな。
俺は地面に軽く穴を掘って、苗木を植えてみた。
きっとこれですぐに、この苗木は森にまで成長するのだろう。…………などと考えていた俺達は、心の底から甘かった。
それは、苗木を植えた俺が立ち上がった瞬間に起きた。
ドンッ!! という衝撃と共に地面全体にヒビが入り、そこから溢れ出す光と神聖な波動の中で、俺達の体が浮き上がったのだ!
「うおおおおっ!!??」
「こ、これ何が起きてるの!?」
「身動きが取れない!?」
『わ、儂の幽体まで動かんじゃと!?』
まるで無重力空間に放り出された様な形になった俺達は、身動きが取れないままで、地面の下から生えてきた、青々とした葉を生い茂らせた樹木に押し上げられ、更に上空へと運ばれた!
「「うわあぁぁーーーーっ!!??」」
『なんじゃとぉぉーーーーっ!?』
身動きが取れないまま翻弄される中で、俺は西の大陸の全土が森で埋めつくされるのを見た。そしてその中でも、中心部の俺達がいる場所には、無数の樹木が絡み合い融合して一つになった、あまりにも巨大な大木が突き出しており、俺達はその傍らで宙に押し上げられていた。
たった一つの苗木から始まった森の成長はしばらく続き、それが徐々に収まって来ると、俺達の下に太い枝がグルグルと渦巻いて広い足場になり、俺達の体はようやく無重力から解放されて、その足場に降り立った。
「な、何だったんだ…………?」
俺達はあまりにも予想を越えた事態に暴れる心臓を落ち着かせながら、顔を見合わせた。
よし、取り敢えず全員いるな。と確認した所で、シエラが信じられない物を見たような驚愕の表情で、俺の後ろの上空を見ている事に気がついた。
俺の後ろには、あまりにもデカ過ぎる巨木があるのは解っている。だがシエラと、それに続いてソレを見た仲間達が、一様に驚愕の表情を浮かべるので、俺も後ろを振り返って皆の見る視線の先を見た。
「……………………嘘だろ…………」
巨木過ぎる巨木。それが☆5『◇神聖樹『ジュダイン』の森』である事は解っていたのだが、直径だけで1キロを優に越えそうなその巨木の真ん中に、樹木の質感で出来た巨大な顔があった。
『……………………ウゥム…………』
そしてその両目が開かれると、樹木のウロの様な空洞の中に緑色の光が宿り、その二つはまるで眼球の様に動いて俺達をジロリと見て来たのだ。
……………………俺は、いや多分俺だけじゃなく全員が、驚き過ぎて心臓が止まるかと思った筈だ。
面白い。応援したい。など思われましたら、下の☆☆☆☆☆から評価をお願い致します。
モチベーションが上がれば、続ける力になります! よろしくお願いします。




