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575回目 我聞の手紙

 《拝啓、父さん母さん。お元気ですか? 我聞です。俺は今、日本からは遠く離れた異国の地にいるので、この手紙はそもそも届くとは思っていません。ですが、自分の中のケジメとして、そして出来る事なら報せておきたいと言う本音も込めて、報告しておきます。


 結婚しました。相手はティアナと言う元は貴族の、今は王族のお嬢様です。そう、平たく言えばお姫様です。まさか自分がお姫様と結婚する事になるとは、日本にいた頃には考えた事もありませんでした。


 俺が今いるのは日本とは違う世界、つまりは異世界です。ラノベみたいな事が本当に起きました。ラノベを見る度に、なんで世界観が中世の文明レベルなのかと思ってましたが、あれはモンスターのせいです。ほぼ無限に現れるモンスターのせいで生活圏を広げられず、人の移動も制限されるので発展に繋がらないのです。


 ですが、俺が神様から貰ったスキルで、これからは移動できる場所は増えるでしょうし、新たな技術も多く世に出ますので、劇的に発展するかも知れません。まぁその前に、陸地が空を飛び、魚が鳥と一緒に空に暮らす世界に変えるんですけどね(笑)。


 こちらの世界は大変な事ばかりで、状況はどんどん予想のつかない方向に進んで行くので、生きていくのも大変ではあるのですが、俺は仲間にも恵まれて楽しく暮らしています。


 親の立場としては不安しかないでしょうが、俺は大丈夫ですので、父さんと母さんもお体を大切にしてください。孫の顔を見せる事は出来ないでしょうが、日本とは違う世界に俺とその家族がいる事を、少しでも感じてくれれば嬉しいです。


 まだ書きたい事は多いのですが、キリがないのでこの辺で締めます。不肖の息子より最大限の感謝を込めて。────千羽 我聞》



 ◇



「…………と、これでいいか」



 両親に宛てた手紙を書き上げて椅子から立ち上がった俺は、ソファーまで移動すると勢いよく寝転んで、天井に向けて大きく息を吐き出した。


 手紙にも書いたが、これは俺の自己満足であって本当の意味で両親に宛てた物ではない。自分の中でケリをつける為の儀式みたいな物だ。



「…………結婚した。結婚したんだよな、ティアナと。俺に家族が出来たのか」



 口に出して呟いて、少しニヤけてしまったので手で口許を揉んで素に戻す。結婚式は一昨日の事なので、実感は既に持ってはいるのだが、やはりどこかフワフワした部分はあるのだ。いわゆるこれが、地に足がついてない、って事なのだろう。


 だからこそ俺は、ティアナにも話して少し一人になる時間を貰った。俺はこの世界で生きてこの世界に骨を埋める。その覚悟はあったが、両親に対する申し訳なさもあったので、それにケリをつける為に時間を貰ったのだ。


 正直、俺がこんな手紙を書いたところで何も変わらない。別に俺の両親がこれを読む訳でもないし。


 いや運命神ダイスは、この手紙の一通くらいなら何とか届けてあげてもいい、と言ってくれたのだが、余計に両親を混乱させるだけな気がしたので遠慮した。こちらと向こうでは、時間の流れすら違うだろうし、向こうがどうなっているかなんて、知りようもないからな。


 場合によっては、俺が居なくなった事に対して、既に心にケリをつけた両親をもう一度惑わす事にもなりそうだし。



「で、これはこうして…………っと」



 俺はスキル倉庫から、ちょうど手紙が入りそうな小箱を出した。これは☆4クラッシュレアのガチャアイテムで、☆4『◇寄せ木細工の秘密箱』と言う小箱だ。


 寄せ木細工とは、神奈川県箱根の伝統工芸品で、簡単には開かないように仕掛けをされた箱である。


 俺も動画で見た事くらいしかないが、そのほとんどは、箱の一部を少しずらして今度は別の所をずらして…………と、そんな事を繰り返して箱が開く様にすると言う、細工が見事な箱だった。


 だがこれは、クラッシュレアである。ただでさえ☆4のアイテムって事もあって、手順が多い寄せ木細工になっているのに、クラッシュレアと化した事でもう別物になっている。


 この寄せ木細工にも、細かい模様の中にずらせる部分はある。だが、それが実は全てダミー。ではどうするかと言うと、両手で箱の決められた部分に指を当てて掴み、魔力を流すのだ。


 それもただ闇雲に流せば良いのではなく、模様に刻まれた複数の文字の中から、正しい文字に正しい順番で魔力を流す必要があるのだ。


 魔力が流れた文字は青く光り、正しい文字が全て光ると浮かび上がって合言葉となる。


 すると今度は☆4『◇寄せ木細工の秘密箱』が浮かびあがり、表面にある細工が全てバラバラに弾け飛んで別の形へと組上がる、そして最後に細工がなくなった箱すらもバラけて四角く組み上がり、その中にマジックバッグの様な亜空間が開かれるのだ。


 もはやどこが『箱』なのか。だがこれならば確かに、知っている者でないと開けられないし、秘密はどこまでも護られるだろう。…………完全にやり過ぎだけど。


 ちなみにこの秘密箱を開くのは初めてでは無かったりする。手に入れたのは半年ほど前だが、俺は外に出せないような、それこそ俺に何かあった時には墓の下まで持っていく様な物なんかを、この中に入れてあるのだ。


 この手紙はあの世まで持って行って、もし向こうで両親に会う事でもあったら、渡すとしよう。まぁ遥か先の話だし、その時はもっと色々と話す事になるだろうな。

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