573回目 人生で一番緊張した日
第4回一二三小説大賞にて、コミカライズ賞を受賞しました!
この作品が漫画になるそうです。これもこの作品を読んで、応援してくれた皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
凄く嬉しい中で、「え? ホントに?」と言う気持ちもあります。漫画になるんですって!
もう終わりに向かっている作品ですが、完結までしっかり書いて行きたいと思っておりますので、応援よろしくお願い致します。
それと、カクヨムの方で私が書いた『変身ライダー・ソロモン!』をリメイクして連載しておりますので、よろしければそちらもお願い致します。
……………………ヤバイ。吐き気を通り越して心臓が口から出そうな位に緊張している。
俺は今、新郎の控え室でレプラコーンとエルフが協力して作ってくれた豪奢な服を着て、ドワーフが作ってくれた儀礼用の豪華な装飾付きのナイフと金糸や銀糸をこれでもかと使った重いマントを羽織って、全身が映る大きな姿見の前に立っていた。
「立派な姿ですよガモン殿。どこぞの王太子だと言われても納得してしまいそうな程に立派です」
「ええ。これならお嬢も惚れ直すこと間違いないでしょうぜ!」
『そうじゃのう。あとはその真っ白になっとる顔さえ血色が良くなれば完璧じゃな。…………なんでそんなに緊張しとるんじゃ、婚約式では平気な顔をしとったじゃろうが』
姿見の前に立つ着飾った俺を見て、アレスとバルタは掛け値なしに誉めてくれるが、幽霊状態でフワフワと漂っているドゥルクは、彼らしく皮肉を言って来た。
うん。確かに俺は今、俺史の中に類を見ない程に緊張している。受験だって会社の面接だってここまでは緊張していなかった。緊張し過ぎると、マジで指先って細かく震えるんだな。これどうやって止めるの?
「婚約式はあくまで『婚約』だったから、何とか緊張せずにいられたんだよ。でも今日は結婚式の本番だろ? 昨日の夜ベッドの上で『ああ、明日には俺にも家族が出来るんだなぁ。もう独り身じゃないのか…………』とか考えたらもう無理で。その時点から緊張が始まってそれがずっと続いてるんだよ!」
ずっと緊張しっぱなしだった俺は、ハッキリ言って寝ていない。本気で一睡も出来なかったのは生まれて初めての経験だ。
今は化粧で誤魔化せているが、化粧をする前は目の下がクマでえらい事になっていた。
今だ続く緊張で、寝てないにも関わらず眠くはならないのだけは救いか。こんな大切な日に寝落ちとか、そんな無様な真似だけは避けたい所だ。
『じゃから独身最後の夜はハメを外せと忠告したじゃろ。何人か男の友人だけを集めて浴びるほど酒を飲めと』
「次の日が結婚式当日なのにそう言う訳にもいかないと思ったんだよ!!」
こんな事なら飲んどきゃ良かったと本気で思う。いや、流石に浴びるほどは飲まないけども、少なくとも眠る事は出来たと思うし。
「いいじゃねぇですか緊張してたって。あっしにはまだ経験がねぇですが、結婚ってのは大事でやすからね。緊張くらいは当たり前でやすよ。ですが、あのお嬢と結婚できるんですから、せめて背筋は伸ばしたままでいてくだせぇ!」
「そうですよ。俺だって結婚式は緊張して、人に気付かれないように手汗を何度も拭いましたよ。でも、それを踏まえて結婚式は良い思い出になりますし、妻との距離も近くなります。頑張って乗り越えてください、ガモン殿!」
バルタとアレスに両肩を叩かれて、俺はグッと背筋を伸ばした。緊張は晴れないが、気持ちは強くなった気がする。
俺はティアナの隣に立つ男として相応しくあろうと、奥歯を噛み締め…………。
『これこれ、そんなしかめ面はいかん。お主がそんなでは、ティアナも困ってしまうぞ?』
と、ドゥルクに言われ、奥歯を噛み締めたままでぎこちない笑顔を浮かべた。
「「『…………ブハッ!!』」」
「「「『あははははっ……………………!!』」」」
大きな姿見に映った、我ながら酷いと思える笑顔を見てアレス達が吹き出し、自分の事を笑われているのに、つられて俺自身も大笑いしてしまった。
そしてそのおかげで、俺の緊張は少しだけ解けたのだった。
◇
俺達の結婚式が行われる、もはや大聖堂と言える程に大きな教会には、多くの人が詰め掛けていた。
それは教会の中だけでは無く、この後の合同結婚式の事もあって、教会の周囲にも多くの人が集まっている。
しかもこの結婚式の映像は、この様子を撮影する『レティア』から『フレンド・チャット』の機能を通じて、世界中にある☆3『薄型テレビ』へと配信されている。
つまり、この世界において今一番注目を集めているのが、この結婚式なのである。
世界中の人が見ているとなると、いよいよ緊張感がヤバイが、この場には世界中の王侯貴族も集まっている。情けない姿は見せられない。
俺は教会内の通路をアレス達と共に歩き、大聖堂へ続く扉の前で別れた。アレス達は一足先に大聖堂の中へと入り、俺は扉の前で浅い深呼吸を繰り返しながら、扉が開かれるのを待った。
そして、大聖堂への扉がゆっくりと開くと、俺は数歩中へと進んで、参列者達へ向けて一礼をし、ゆっくりと祭壇へと向かった。
各国のお偉方の間を進み、新婦側の列席者であるティアナの親族の前を通る。
日本からこの世界に来た俺には、当然だが俺の家族は居ない。だが俺の側の参列者には、俺の仲間達が全員揃って座っていた。それが何とも、俺には心強かった。
祭壇の前に立ち顔を上げると、そこには創造神『ジーウス』を始めとした神々の姿があった。ここにあるのは全て石像…………なのだが、いまその石像の中で、薄く揺蕩う幻影の姿が重なっているものが幾つかあった。
どうやら、何人かの神々までもが注目しているらしいと、緊張が高まって心臓が痛くなったが、俺はそれをグッと堪えて、大聖堂の入口を振り返った。
…………大聖堂の中にいる全員が、固唾を飲んで見守る中で、ゆっくりと開いた扉の向こうには、父であるレクターにエスコートされたティアナが、この場の全員が息を飲む程の美しさで、立っていた。
面白い。応援したい。など思われましたら、下の☆☆☆☆☆から評価をお願い致します。
モチベーションが上がれば、続ける力になります! よろしくお願いします。
 




