567回目 頼れる男
神々からのメッセージが拡散され、人々の中に『方舟』という脅威と、『世界の改変』という信じ難い未来が徐々に浸透していく。
その事実はゆっくりと世界に浸透していき、人々にも大きな混乱は見られなかった。それは各国が民にしっかりと説明を行った事が大きい。
中でもやはり海沿いの街は、それなりに騒ぎは起きたのだ。だが、国が先手を打って手厚い保証を約束しており、海にまつわる神々も、海から空に変わるが、漁は出来ると断言した事が大きい。
不安は大きいが、国も手厚く保証してくれると言うし、神々も漁が出来ると言ってくれている──。なら、少しは様子を見ようか──。
と、こうなった様だ。
「レティア、今日はどの辺りだ?」
『はい、本日は大陸の北東部をゆっくりと周る予定になっております。本来は北西部の予定だったのですが、そちらを周ると天気への影響が大きいと判断しました』
「そうか。よろしくな」
☆5『◇天空城『レナスティア』』は、現在人々が住む地域の上空を、順番に飛んで回っている。
これは人々に空飛ぶ陸地である『レナスティア』の様子を見せるのが目的だ。いずれは世界の陸地の全てがこうなると、しかし安定しているから大丈夫だと、人々に認識させるのが狙いだ。
まあ、ゆっくりと飛んでいるし、『レナスティア』の上にいる俺達には何の影響もないので、『レナスティア』の上では今日も皆が忙しく働いている。
それはアイテムや装備の製作だったり、飛空艇の建造と技術の習得だったり、ダンジョンでの素材集めだったり、戦いの訓練だったりするのだが、その目的は全て、きたる『方舟』との最終決戦を見据えての物だ。
「そして俺は、今日もガチャを回す…………。なぁ『レティア』、俺もたまにはダンジョンでの素材集めとか訓練とかに参加した方がいいと思うんだ」
『いえ。現在のマスターがすべき事はガチャを回してアイテムを集める事だけです。それに、ガチャ装備のスキルによって、マスターのステータスは既に常人を遥かに越えておりますので、下手に訓練に参加しては死人が出ます。遠慮してください』
「……………………でも、ずっとガチャを回しているのは気が滅入る…………」
『あと千回まわしたら視察に行きましょう。ですので頑張ってください。☆5が多く出れば、それだけで『方舟』との戦いが有利になる可能性が高く、そうでなくとも、その後の世界の安定に繋がります。☆5、もしくは『クラッシュレア』をもっと出してください』
「……………………はい」
そんなに簡単に出たら苦労しないよね。万分の一、もしくは億分の一だぞ? いや頑張るけども。
俺がため息をつきながらもガチャを回そうと、スキルに金を投入している時、ふいに扉をノックする音が響いた。
誰か来たなと、返事と共に扉を開けに行こうとしたのだが、まだ俺の返事の途中にも関わらず扉が開かれ、山賊の国の王であるラグラフが勝手に部屋に入って来た。
「おーーう、邪魔するぞガモン」
「ラグラフ。お前な、ノックしたなら待っとけよ。せめて返事は聞いてから入って来い」
「あーー、そうか。そりゃ悪かったな、次は気をつける」
『ラグラフ殿、貴方はもしかして天空城の中を普通に歩いて来たのですか? 自由に転移できるのですから、声を掛けて貰えれば転移させましたよ?』
「必要ねぇよ。この城の中にある部屋は大体覚えたからな。ガモンが何処に居るかさえ解りゃあ、あとは自分の脚で探せるぜ」
…………は? この天空城にある無数の部屋を大体覚えたって言ったのか? …………マジかよ。
「んな事よりガモン。世界中から志願して来た奴らの選別が終わったぜ? ったく、面倒な事この上なかったぜ。報酬に酒を樽で幾つか寄越せよ? 部下にも振る舞ってやらねぇといけねぇからな」
「ああ、解った。用意しとくよ。…………で、どうだった?」
「ああ、やっぱり紛れ込んでいたぜ」
「…………マジかよ」
世界の現状が知らされ、世界を改変までしなければ戦えない『方舟』という大き過ぎる脅威を目の当たりにした結果、俺達の所には様々な伝手や手段を使って、多くの兵役志願者が集まっていた。
それは騎士や兵士はもちろん、武術家や傭兵、貴族の子弟にただの農民と、本当に様々な人材が詰め寄せて来たのだ。
当初俺達は、簡単な試験と面接をして受け入れるつもりでいた。相手が俺に悪意を持っていれば、☆4『導きの龍水晶』で解るので、選別は容易だと思っていた。
それに、こんな時に足を引っ張りかねないバカな事をする奴もいないだろう。俺はそう考えていた。
だが、これに待ったをかけたのがラグラフだ。
「バカってのはな、時勢とか道徳なんてもんを考えられねぇからバカなんだ。自分の得しか考えられねぇから、バカなんだよ。火事場泥棒なんてのは、その最たる例だろう? ここは俺に任せな。バカどもは残らず叩き出してやるからよ!」
そう言ってニヤリと笑ったラグラフの顔は自信に満ち溢れていたが、それ以上に獰猛だった。




