561回目 『辻褄あわせ』
『世界を作り変える。素晴らしいじゃないか! 世界なんて、人の力で何とかなるもんじゃないのに、あのガモンって言う人間はそれを本気でやろうとしていて、しかも実現しそうだ!』
我聞には特別なスキルがある。『ガチャ・マイスター』と言う神器すらも手に入る特別なスキル。だが、それがある事を加味しても『方舟』と言うのは人の手には余る敵だ。
しかし我聞と仲間達は諦めず、方法を模索し、鍛え上げ、装備やアイテムを揃えて『方舟』との戦いに備えている。神界で見守る神々ですら、あの世界はどうする事も出来ないと、半ば匙を投げた状態だったにも関わらず、我聞達は『方舟』を破壊して、その後の事まで考えて準備をしている。
『凄いと思わないかい? 神々ですらあの世界の事は諦めていて、『方舟』が落ちてどうしようもなくなったら世界ごと処分しようとしていたんだ。それを人間が、手に入ったアイテムを十分に駆使して覆そうとしている。本来なら変えられない世界まで作り変えて。しかもその鍵となるのは、ボクが世界の破滅を願って紛れ込ませた『失敗作』の、本当ならデメリットしかないアイテムだった! ボクはあの人間との間に、運命すら感じたよ!!』
身体をバラバラにされ、更に壁に打ち付けられているにも関わらず、その言葉と動きは、まるでミュージカルの様な動きをダイスに幻視させた。
ただ一人の人間が、神から特別なスキルを与えられてはいるものの、その能力を駆使して神々の予測すらも覆し、世界の在り方を変質させる。
我聞のやろうとしている事は、力のある神であるがゆえに完全なる死を望めないロゥギィの、新たな希望となったのだ。この世界で死ねないのなら、死ねるように世界を変えれば良い、と。
『本当なら、このままボク自身がガモンのやる事に協力したいんだけどね?』
『ダメに決まっているだろう? 僕達のような神から見ても、人から見ても、君は信用出来ない。それは君自身も解ってる事の筈だ。何せ今回の事は、全て君が故意に引き起こした『方舟の事故』が始まりなのだから』
『まぁ、そうだよねぇ。解ってはいるさ、ちょっと言ってみたかっただけだよ』
『言ってみたかっただけ、か。』
『そうだよ。…………でも、受け入れて貰えなかったからと言って、ボクの決断はかわらない。ガモンが目指す『世界の変質』。その為の礎となれるなら、ボクは喜んで能力を差し出すよ。流石にこの死に方だと、ボクが復活する頃には既にガモンは生存してないだろうけど、事の顛末は教えてくれるだろう?』
『…………いいよ。その情報を、君から能力を借りる対価にしよう』
『ああ、楽しみにしておくよ…………。ボクはボクで、肉体の無い間に、ボクが死ねる世界の作り方でも夢想する事にしようかな…………』
その言葉が終わると同時に、ダイスはロゥギィの仮面を貫く杭に触れて強烈な神力を流した。無抵抗な状態で神力を喰らったロゥギィは、断末魔を上げるでもなく仮面の口を三日月のように歪めたまま、光の粒子となって弾け飛び、その身体もまた、追随するように光の粒子に変わっていく。
自らの望みの為に、世界を滅びに向かわせようと画策した神ロゥギィは、運命神ダイスの手によって一時的にその命を散らしたのだ。
ダイスは肉体が滅び、その魂を形成するために一ヶ所へと集まる、悪戯神ロゥギィだった光の粒子に手を入れ、そこから緑色に輝く小さな塊を取り出した。
それは神のスキル。我聞達の世界を変質させる為に必要な、最後のピース『辻褄あわせ』と言う名の力である。
『…………最も愚かな神ロゥギィ、君の『辻褄あわせ』の力、確かに借り受けた』
ダイス達が必要としたのは、この『辻褄あわせ』だ。我聞の言う様に世界を作り変えるには、どうしてもこの力が必要だった。
世界の変質には、必ず齟齬が出る。どうしても組み合わない部分を、少し形を弄って組み合わせるのに、この力は最適なのだ。
そして、これを持って人と神の準備が整った。
人類側は『勇者ガモン』の号令の元で、各国の王侯貴族や種族の代表者が☆5『◇天空城『レナスティア』』へと集まる。
そして神々は、我聞達のような下位次元の者達と対面しても相手に害を与えないようにと、この為に造られた身体を纏った。
会談の場所となるのは、☆5『料理神『ルカタルト』のリストランテ』。全ての準備が整い、人類と神々による『世界を作り変える』ための会談が始まった。
これは、悠久の時の流れにある世界においても前代未聞の事であり、恐らくはこれからの長い時間を考えても二度と無いであろう会談だ。
ゆえに『転世の会談』と名付けられたこの会談は、数百年の間は重要な世界の転換点として、数千年後は世界の『転世』が決まった神話として、長く語り継がれる事になるのである。
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