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555回目 進路を南へ

 ちょっと寄り道のつもりだったアムステ王国だが、俺達は七日間も滞在してしまった。


 まぁその間には、天空城を経由しての『拠点ポータル』で移動してきたフレンドを、アムステ王国の王族に紹介したり、逆にアムステ王国の王族を天空城に連れて行ったりと、色々とやってはいる。


 特に、かつて勇者アムラーとパーティーを組んでいたドゥルクをアムステ王国に連れて行った時には、それはもう大歓迎をされた。


 ドゥルクも幽霊になってからはもちろん、生前も何十年と顔を出していなかったらしく、既にドゥルクと顔見知りの者は誰もいない有り様だった。


 それでも、ドゥルクに宛てた手紙が何通か残っており、ドゥルクはその手紙読んでから、何ヵ所かの墓参りをして、数名の遺族に会いに行ったりしていたな。墓参りや遺族との話を終えたドゥルクは少し寂しそうで、その夜に俺は久しぶりにドゥルクの晩酌に付き合ったよ。


 で、様々な用事を済ませ観光にも満足した俺達は、本来の目的に戻るために飛空艇『アベルカイン』に乗り込み、南の空へと飛び立った。



「しかし面白い国だったな」



 船長の椅子に深く腰掛けながらそう言うと、俺の隣に立っていたティアナが同意してきた。



「そうね。アイドルのコンサートはもちろんだけど、あの国は街並みも良いのよね。凄く独特で、だけど機能的な街の造り方をしているのよ」


「ああ、あれは随分と日本の街並みに近かったよ。おかげで日本の事を、かなり鮮明に思い出してしまった」


「…………へぇ。あれが日本の街並みなのね…………」


「ああ、思わず懐かしい気持ちになったよ」



 スピーカー越しにアイドルの歌が流れるアーケード街を歩き、アイドルのグッズが売っている店を覗くなんて、まるで本当に日本に帰って来たのかと錯覚を覚えた。


 別にもう、日本に帰りたいって訳でも無いんだけどな。俺はもう、この世界で生きていくと決めているし。


 ふと横にいるティアナを見れば、ティアナも俺の眼をジッと見つめ返して、少し微笑んで俺の手に自分の手を重ねて来た。


 自惚れなのかも知れないが、俺は『この世界で生きる』という自分の気持ちが、確かにティアナに通じたと確信した。



『マスター! 南に雲の壁が見えて来ました!!』


「解った! アラムにも伝えろ! もう少し近づいたら、俺達はジュエルドラゴンで発つ!」


『了解しました!』


「…………ティアナ、行ってくる」


「はい。お気をつけて」



 ◇



 肌を刺すような寒さの中で、俺とアラムは甲板へと出た。


 南の海上は雪が降っており、厚い雪雲のせいで若干暗くなっている。



「さ、寒い…………!」


「アラム、さっき渡したゴーグルとマスクを着けてフードを被れ。随分とマシになるぞ!」


「あ、うん!」



 俺はアラムがしっかりと着込んだのを見届けてから、俺を乗せられるまでに大きくなったジュエルドラゴンのグラックに跨がった。アラムもまた、カイザー・ジュエルドラゴンのカイザーに乗り、俺達は雪が舞う空へと飛び立った。


 目指す南には、北と同じ様に渦巻く雲の壁がある。その雲の壁の奥に居るのは、南の極龍『アルタティッカ』だ。



 雲の壁の付近まで行くと、俺は先頭をアラムに譲った。北と同じであるならば、南の極龍は『竜騎士』であるアラムを受け入れてくれる筈だからな。


 そして、それは正しかった。アラムを乗せたカイザーが雲の壁に近づくと、壁の一部が開いていき、雲のトンネルが出来上がった。南の極龍『アルタティッカ』が、俺達を招き入れてくれたのだ。


 俺はアラムの隣に行くと顔を見合わせて頷き、トンネルに侵入した。


 真っ白な雲のトンネルは長く続いており、俺達はひたすらにその中を進んでいく。


 その内、一つ変化が起きた。



「…………どういう事だ? 暑くなって来たぞ?」



 雲の壁に入る前、外では確かに雪が降っており、気温は肌を刺すかの様に低く、冷たかった。


 そうでなくともここは南極。寒さが厳しくなる事はあっても、まさか暑くなる事などない。そんな風に考えていた。…………北の極龍の所で花畑を見ておきながら、俺は南極が暑いと言う可能性を、端から捨てていた。


 そうこうしている間にも気温はどんどんと上がっていき、俺もアラムも、ジュエルドラゴンに乗ったままで上着を脱ぎ、マスクを外した。


 だがそれでもなお気温は上がって行き、雲のトンネルを抜けた所で、俺達は暑さの正体を知る事になった。



「うおおおおっ! 何だこりゃ…………!?」



 ボコボコと、音を立てているのは、海を侵食した星の血液、マグマである。それが海の水の代わりだと言わんばかりに南極の海を赤く染めており、その中心部からせり上がる一本の岩山の頂上、一本の柱に支えられたテーブルのような岩の大地に、巨大な龍が、威圧感を放ちながら座り、こちらを睨んでいた。

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