554回目 アムステ王国の拠点
アムステ王国にやって来て早三日。仲間達は今日もケイリオンに連れられてアイドルのコンサートを見に行った。
本当なら俺も行きたかった。この世界のアイドルコンサートは、日本の物と違ってバラエティーに富んでいて面白い。やはり魔法があるってのが強いよな。
昨日見た男性アイドルのバトルコンサートなんて、アイドルのバフを掛けての模擬戦だったし。日本のバラエティー番組でたまに見た柔らかくて長い棒を使った叩き合いではあったのだが、迫力は凄かった。特に女性ファンに紛れているオネェファンの気合いは凄まじかった。
しかし、今日は諸事情で俺は別行動である。アレスだけは俺に付いて来てくれたけどな。
そんな訳で、俺はアレスを共としてケイリオンの弟でアムステ王国の第四王子『ハバッシュ』に案内され、アムステ王国の街にある物件の見学に来ていた。今は王族専用の豪華な馬車に揺られ、三件目の物件へと向かっている所である。
何とか今日中には、このアムステ王国での拠点を確保なくてはいけない。
それと言うのも、仲間達がアムステ王国での体験をチャットで拡散したものだから、『ズルい! 早く『拠点ポータル』を設置して自分達も行けるようにして欲しい!』と言うような要望が『フレンド』から大量に来た為である。
まぁ確かに、拠点を作って『拠点ポータル』を設置すれば、どこの拠点からでもここに来る事が出来るようになる。それは素晴らしい。…………入り浸る奴も出て来そうだが。
「入り浸る奴もそうだけど、俺の名前を使って無理やりコンサート会場に入ろうとする奴も出て来そうだよな」
「そこはルールをしっかり定めましょう。でも、余程でない限りそんな者は出ないかと思いますよ? たった一回のコンサートで賭けるには、『フレンド』というのは希少過ぎますからね」
確かに、『フレンド』と言うのは失うには惜しい特典がてんこ盛りだ。だがそれでも、バカな真似をする奴は出て来るんだよ。悲しい事にな。
だからこそ、罰則は厳しい方が注意喚起になって良い。ルールとして定めるのは『常識があればやらないだろ』って程度の事で、罰則は『一発退場』。つまりフレンドの解除である。さすがにこれでもやる奴は、擁護出来ないしするつもりもない。
「次の物件に着きましたよ。僕としては、ここが一番オススメですね」
馬車が止まり降りてみると、そこにはこれまで巡った中では一番小さい屋敷が建っていた。
小さいとは言っても、当然普通の家と比べたら何倍もあるし広い庭もついている。普通に考えるなら十分な物件である。
ただ、俺もフレンドが増えて大所帯にはなったからな。そのせいで手狭になって、拠点を設定し直した街も幾つかあるんだよ。
そういう意味で見れば、この屋敷はギリギリ合格だ。現状と、これからもフレンドが増える未来を思えば、この物件を選ぶのはちょっと考えるくらいにギリギリで合格だ。…………俺も贅沢になったもんだな。
だが、そんな事がどうでも良くなる程の利点がこの屋敷にはあった。それは、程よく三ヶ所のコンサート会場に囲まれていると言う立地の良さである。
コンサート会場の周辺は、言わずもがな激戦区である。ファンは推しが活動拠点にしているコンサート会場の付近にファンクラブの本拠地を置きたいし、何なら住みたいと考える。
そうでなくても、この国ではアイドルコンサートが一番の娯楽なので、人はコンサート会場に足しげく通う。
そうなればコンサート会場の周辺は店を出すにも一等地であり、コンサート会場周辺に店を持つ商会は一流の商会として他国でも大きな顔が出来る程なのだ。
ちなみに、ゲンゴウの『タカーゲ商会』も小さいながらも一ヶ所抑えていたりする。まぁチャットでやり取りした時は、小さ過ぎて一流とまでは言えないと、珍しくゲンゴウがグチっていたが。
そんな訳で、その一等地三ヶ所に繋がるこの立地は、国が所有する屋敷の中でもかなり上位の物件なのである。俺と友誼を結びたいアムステ王国の本気度が解る。
「良いなここ! 俺はここが良いと思うけど、アレスはどう思う?」
「はい、俺も良いと思います。近いコンサート会場が三つもありますから、皆も喜びますよ」
「決まりだな! ここにします!!」
こうしてアムステ王国での拠点が決まった。
この拠点に設置する『拠点ポータル』は二つだ。そして、アムステ王国と繋がったからってフレンドが殺到しないように、拠点ポータルの設定を少しいじる。全ての拠点からではなく、天空城にある拠点からのみ移動が出来るようにした。
こうしておけば、いきなり世界中のフレンドが集まり過ぎる事もない。そしてレティアに、この国に来るにあたっての注意事項を伝えて貰うのだ。
フッ、完璧だな。
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