551回目 『バトルコンサート』
実況の声が『バトルコンサート』の始まりを宣言し、会場の真ん中にある舞台上に明らかに魔法障壁を利用して作られたであろう半透明の球体が現れた。
魔法障壁で出来たその球体は三重構造になっており、その全てに数字の描かれた『的』が動き回っている。動いている『的』を目で追ってみると、一番外側の障壁には10~20の数字が書かれた的があり、真ん中の障壁には30~50、そして一番奥の障壁は100点の的と、そのさらに真ん中に小さく300と書いてある的があった。
こんなのを見れば、アイドル達が競う競技の内容は誰でも解るだろう。『的当て』だ。
「今回の競技は『的当て』のようですね」
「ケイリオン殿も、知らなかったんですか?」
「ええ。競技内容は直前まで秘密にされていますからね。アイドル達だけは数日前に知らされて準備しているみたいですが」
そうこう話している間に試合が始まったようで、会場中に音楽と両陣営のファンクラブが合わせる『『ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!』』 と言う合いの手が響き渡った。
どちらの陣営のファンクラブも息を合わせて、飛んだり跳ねたりしている。…………って言うか、同じ曲なの? 同じアイドルグループって訳でも無さそうなのに…………?
などと思い俺が首を傾げると、俺達の案内をしてくれているケイリオンが説明をしてくれた。
今、この場にいるアイドル達は、もちろん個別に自分の歌を持っている。だがこの『的当て』のバトルコンサートでは両者共に同じ曲を使うのがルールなのだそうだ。
このバトルコンサートが始まる数日前に、アイドル達は運営が選んだ『LP盤』から、それぞれ三枚を選ぶ。ちなみにLP盤とはレコードのデカイヤツであり、本来裏表に一曲ずつしか記録できないレコードと違って、裏表五曲ずつ、計十曲を記録できるものだそうだ。…………レコードが裏表と両方使えるのも、一曲ずつしか記録出来ないのも初めて知ったが、まぁそれは今は置いておこう。
それぞれが選んだ計六枚のLP盤、そこからランダムに一枚が選ばれ、今回のバトルコンサートのお題として使われる訳だ。
つまり両陣営ともに持ち歌が使えるとは限らない。しかし決まった十曲から、それぞれが三曲ずつ選んで使えるのだ。
そしてこの選んだ曲を『的当て』でどう使うのかと言うと…………。まぁ、それは見るのが一番早いだろう。ちょうど今から、先攻権をかけたデモプレイが行われるらしいからな。
『さぁーーっ! まずは先攻権をかけたバトルが始まります! 曲は皆様お馴染みの『マイ・ヒーロー』! アムラー陛下が作られた曲です!』
何だか聞き覚えのある曲をアップテンポにしたような曲が始まり、両陣営のアイドルが同じ歌を歌い出す。
すると、アイドルと演奏者から光の粒子が舞い上がり、アイドル達が立つ舞台の前へと集まっていく。それらは段々と形を成し、やがてはバレーボールくらいの光の玉になった。
ちょうどそこで歌詞部分が終わると、それまで両手を後ろに組んで顔を下げていたファンクラブの面々が一斉に顔を上げて踊り始めた。いわゆる『オタ芸』と言うヤツだ。
勇者アムラーが日本に居た頃には、まだ『オタ芸』は無かったと思うのだが、文化と言うのは世界が違っても同じ道を歩むのだろうか? 体ごとペンライトやタオルを振り回す彼らが見せているのは、間違いなくオタ芸である。
反対側を見れば、ダンス自体は違うがそちらも立派なオタ芸だった。
『『ハイッ! ハイッ! ウゥーー…………! ハイッ!!』』
ファンクラブの面々のダンスが最高潮に達した時、それまでファンクラブのダンスの動きに同調するかの様な動きを見せていた光の玉が、ファンクラブが取るキメポーズと共に中央にある的に向けて飛んでいった。
「飛んでいった!!」
「あっ! 当たった! 20点!!」
VIP席のから身を乗り出して見ているアラムとアリアが歓声を上げた。
二人はこの国に来てからと言うもの、文化の違いに驚いたり、王族がいっぱい出て来たり、アイドルのコンサートに圧倒されたりと、アラムとアリアには刺激が強すぎたらしく、まるで人見知りを発揮した子供のようにオドオドとして父母であるアルグレゴとアレマーにくっついていた。
だが、ようやく楽しめる様になってきたみたいで、子供らしくハシャギはじめた。
ここに来た目的の一つがアラムの心のケアだったから、二人の様子は俺も結構気にしていたんだよ。ちょっとホッとした。
「おっと、西側は20点取ったけど東側は外したみたいだな」
「いえ、あれは外したと言うよりパワー不足ですね。一枚目を貫いての二枚目の30点を狙ったものの、貫けなかった。そう見えました。攻撃力はアイドルの歌の高まりやダンスのキレに依存しますからね、少し足りなかったのでしょう」
ケイリオンの分析に、俺達は『なるほど』と頷いた。
バトルコンサートか。これ面白いかも知れないな。
面白い。応援したい。など思われましたら、下の☆☆☆☆☆から評価をお願い致します。
モチベーションが上がれば、続ける力になります! よろしくお願いします。




