544回目 ディルアークの花畑
『……………………なるほど、よく考えたものだ』
「恐縮です」
当然と言えば当然ながら、北の極龍『ディルアーク』に、この世界を救う方法の説明を求められたので、現時点で決まっている事を話して聞かせた。
『神々に協力を求めたと聞いていた故に、神々の力に頼りきった案が出てくるかと思っていたが、根本的な所はガチャアイテム頼みなのだな。そして神々は新たな世界の調整役か。…………ウム。存在する次元が異なる神々は、こちらの世界で力を使えない。使うとそれが原因となって世界を壊してしまいかねないからだ。神々を調整役としたのは良いアイデアだ。下の次元にある世界に直接手を出すのは危険極まるからな』
脆くて壊れそうな砂の塊を、壊さないように万力を使って持ち上げるのは難しい。これはそう言う話だと俺は理解している。
だからこの世界を救うには、同じ神に与えられた力でも『ガチャ・マイスター』によって得られた力を使う。だが、多数のガチャアイテムを使ったとしても制御は難しいし、歪さや綻びだって出てくる。今回のは、ただの人間である俺が無理矢理に世界をねじ曲げる所業だから当然だ。
だからこそ、神々に助力を願った。要は、最後の仕上げはプロにお任せって訳だ。
『よもや、真っ当に『方舟』と対峙する道を選ぶとはな。アレのデカさや厄介さが、解らない訳ではあるまいに』
「解っているから真っ向勝負しかないんですよ。次元を移動できる船が相手では、別空間に吹っ飛ばしても戻って来てしまう。それに、地上から破壊しようとしても無理があるでしょう?」
『多数の『幻獣』がおるから届かせるのも難しいであろうな。まして、届いたとしても空間を曲げられでもすれば、その攻撃がそのままコチラに帰って来る恐れもある。だから我らも、アレには手を出しておらんのだ。渾身のブレスを返されてはたまらんからな』
…………おっと、それは考えていなかった。そんな危険性もあったのか。
『戦うのは地上でなくてはならず、そうするとあの膨大な『瘴気』が問題となる。…………戦場を海面としたのは、膨大な『瘴気』を海に閉じ込める為であったな』
「はい。『瘴気』は空気よりも重く水に溶けるときいたので、『瘴気』を封じるには海が一番良いかと」
『ウム。理にかなっておる。『瘴気』が濃く溶け込んだ海は、後に得体の知れないモノを生み出す危険性もあるが、無論それについても考えはあるのであろう?』
「はい!」
『ならば良い。ともかく、宇宙にある『方舟』を排除し、この世界を安定させる事ができるのならば、我は協力を惜しまない。おそらくは南の極龍も同じ事を言うであろう。まぁそれは、実際に会って話をするべきであろうがな』
「南の極龍か。…………取り敢えず、名前を聞いておいても良いですか?」
『あやつの名前か? あやつの名は『アルタティッカ』だ。この我の作り上げた楽園の良さを理解出来ぬ愚か者だが、悪い奴ではないぞ』
そう言いながら、ディルアークは自らのいる花畑を愛おしそうに眺めた。
「ああ、やっぱりこれは自分で作ったんですね」
『ウム。永遠とも思える時間を、終わるあてもなく過ごしていると心も魂も軋んでな。破壊衝動に抗う為には趣味を持つと良いと、友が教えてくれたのだ』
「…………友達が?」
『ああ。今はもう塵すら残らず世界に還った友、『勇者ミカヅキ』がな。フッ、もはや我が記憶にも、薄く残るのみの、大切な思い出だ』
そうか。いくら龍神と言えど心は乱れるのか。この北の最果てとは思えない景色も空気も、全てはディルアークが己を慰める為に作った空間だったのだな。
「…………綺麗ですよね。俺は好きですよ。いつか仲間を連れて来たいくらいです」
『ならば連れて来るが良い。お主らならば、そう険しい道でもないのだろう? 我は別に、拒みはせぬ』
ダメ元で言ってみたら簡単に許可されたな。でも良かった。この景色は、ぜひ皆にも見せてあげたいからな。
『そうだ。ガモンよ、お主のスキルからは異世界の物が色々と出て来ると聞いている。お主の世界の花の種や苗があれば、分けて貰いたいのだが…………』
「はい。もちろん良いですよ」
『そうか! 出て来るがよい! 仕事だぞ!!』
ディルアークがそう声を掛けると、花畑の影や木のウロなどからモコモコとしたデカイ鼠のようなものが出てきた。何だっけ? …………そうだ、確かマーモットとか言う動物だ。
ディルアークに呼ばれたマーモット達は俺の前に来て並ぶと、二本足で立ち上がった。
何これ、メッチャ可愛いんだけど。
『こやつらは身を守る術を持ち合わせておらんでな、我が花の世話をする対価としてここに住まわせておるのだ』
なるほど。あの巨体でどう花の世話をしているのかと思えば、マーモット達がやっていた訳か。
その後、俺は『スキル倉庫』から出した花の種や苗を次々と出してマーモット達に渡していたのだが、そこで一つ面白い事に気がついた。
このマーモット達、食える実をつけない物は普通に受け取るのに、食える実をつける物だと、やけに嬉しそうに大切に受け取るのだ。
なので、そのままで食える野菜や果物も出してやると、嬉しそうに鳴き声を上げた後にディルアークを振り返って、『好きにするが良い』と許可を貰うと、野菜と果物に群がって食べ始めた。
マーモットってのは食べ物を両手で持って食べるので、その姿はやたら可愛い。その姿にはアラムもディルアークを前にしてる緊張を忘れたように、顔を綻ばせていたのだった。
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