543回目 もう疲れた極龍
北の極龍『ディルアーク』。
純白の毛に覆われた、四つ足に大きな翼を持つ大龍である。背中にのみ緑色の鬣のようなものがあり、それは尻尾の先にまで続いている。
その黄金の眼光鋭いその頭部には、両脇に翡翠のような角があり額の中央にも大きな紫色の宝石を持つ。
全体を見て芸術品のように美しく、カイザー・ジュエルドラゴンをして萎縮させる程の美しさと荘厳さは、まさに見惚れる程だと言える。
…………ティアナ達にも見せてやりたいが、失礼になるだろうか。この北の極龍は、確実に『龍神』だろうしな。
そんな事を考えていたのが伝わってしまったのか、北の極龍『ディルアーク』は、自らの事を話し始めた。
『人間の世界において、どう伝わっているのかはよく知らぬが、我らは遥か遠き日に神界にて生まれ『龍神』様に命じられて、この世界にやって来た』
「やっぱり、神界から…………」
この世界において『双極龍』とは、地上で誕生した『幻獣』と言われている。実際、遥か昔にここを訪れた『勇者』の鑑定では『幻獣』と表記された。
それは間違いではない。だが、正確でもなかった。かの龍達の正体は、『龍神が送り込んだ龍神の眷族の魂が、この世界で肉体を得て幻獣となったもの』である。
つまりは、魂だけの存在となって次元を降りて来た神なのだ。魂だけにならなければ次元を越えられなかったとも言う。
なので彼らを正確に表すならば、『幻獣神』と言った感じになるだろう。そんな存在は『双極龍』しかいない訳だが。
『本来なら我らは、とうに役目を終えて神界へ帰っている筈だった。我らの役目は、『方舟』が降りて来る前にこの世界を浄化する事であったから、『方舟』がこの世界に定着さえすれば役目が終わり、肉体をこの世界に残して神界に帰る筈だったのだ。それが何故崩れたのかは、説明するまでも無いだろう』
それは間違いなく、二隻目の『方舟』が現れたからだ。そのせいで世界は安定どころか混乱し、『双極龍』も帰る訳にいかなくなったのだろう。
地上で生まれたとされる『幻獣』がなんで世界を安定させるために瘴気の浄化を行っているのか不思議だったが、その謎は解けた。
『何の因果か、新たな『方舟』が現れて世界は混乱した。この世界の安定を命じられた我らは役目を終える事が出来ず、既にどれだけの時が流れたのかも解らぬ。少なくとも、我が見上げた空にあった星々の数が変わる程には、時間が経っている』
…………星が増減って、万年単位だよな? いやでもそうか。一隻目の『方舟』が来るよりも前から、この世界に来て世界を安定させようと頑張っているのだから。
『正直に言ってな、我らはもう疲れたのだ。一刻も早くこの役目を終えて神界に帰りたい。だが、この世界に愛着もあるのでな、この世界が滅びるのは見たくないのだ』
ふぅ、とディルアークはため息をついた。それは、龍神でも疲れてため息をついたりするんだなと、少し親近感を覚える光景だった。
『遠い世界から来た人間『ガモン』よ。運命神様から、貴様ならこの世界を救い、我らを長い役目から解き放ってくれると聞いておるが、事実か?』
「それが『出来る』と、自信を持つにはまだ少し足りませんが、俺はやるつもりでいます。その為に、ここに協力を求めに来ました」
『…………ウム。その隣の子供、アラムとやらは『竜騎士』であろう。今のこの世界に、我らの意思を解せる者はそのアラムのみだ。その子を見つけてこの場に来られるだけの実力を、お主は既に示しておるな』
「…………?」
『なんだ、気づいていなかったのか。そこのアラムが居なければ、ここに至る雲の道は見ることも出来ぬし、我と言葉を交わす事も出来ぬのだぞ? 今のお主は、そこのアラムとパーティーを組み、感覚を共有しておるから我の言葉を聞くことが出来ておるのだ』
「…………マジでか」
…………って事は何か? アラムが居なかったら、そもそもここには辿り着けてないし、会話もできていないのか。
この場に来るのは、そう難しくないのかと思っていたが、違うのだな。
確かに『竜騎士』と言う生きた鍵が必要ならば、この場に辿り着ける者はそうは居ないだろう。ここを訪れた勇者が極端に居ないのを不思議に思っていたが。なるほど、そう言うカラクリか。
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