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54回目 先祖の思い

「うん、取り敢えずガモンとゲンゴウ殿の顔見せが終わった所で、ちょっと座って話そうか。ゲンゴウには追加の頼みと、大きな儲け話もあるよ」


「ホッホッホッ、頼みと儲け話ですか。それは楽しみであり、少し怖いですな。ではソファーに座って少々お待ちを、いま茶の準備をさせますでな。おーーい!」



 ゲンゴウに促されてソファーに座って待つと、しばらくして二人のメイドさんが入って来て俺達の前に紅茶と、数枚のクッキーが乗った小皿を並べていった。


 取り敢えず紅茶を一口飲んでみる。…………おお、うまい。紅茶の味がわかる程オシャレな人生は送ってないけど、これはきっと高いヤツに違いない。


 そしてクッキーも食べてみたが、こっちも中々だ。紅茶に合わせてるのか甘さ控えめなクッキーだな。少しパサついている気もするが、日本の物とは違うって事だろう。



「さて、一息つきました所で聞かせて貰えますかな? 追加の頼み事とは何ですかな?」


「ああ、それは簡単だ。ガモンと一緒にこの娘も預かってくれ。シエラという聖エタルシス教会所属の治癒師だ」


「なんと治癒師の方ですか。しかし、聖エタルシス教会に所属しているのであれば、ワシが預かる必要は無いのでは? この街にも聖エタルシスの教会はありますし、そちらであれば問題なく生活を送れましょう」


「そうはいかないんだ。この娘は聖エタルシス教会がガモンの身を護るために送ってきた治癒師だからね。ゲンゴウ殿なら、この意味が解るんじゃないかな?」


「…………!!」



 そこでゲンゴウは持っていた紅茶のカップを音を立ててテーブルに置き、俺の事をマジマジと見てきた。



「…………むぅ、その黒髪に黒目。魔法属性の影響を受けて闇色に染まっている訳では無いのですな? その名前を聞いた時にもしやと思いましたが…………」


「ああ、ガモンは魔法の適性は出てないよ」


「…………適性?」


「ガモン様…………」



 ティムとゲンゴウ。二人の会話に知らない言葉が出てきて首を傾げる俺に、隣に座っているシエラが小声で教えてくれた。



「ガモン様の世界では黒髪黒目は普通のようですが、この世界では珍しいのです。濃い色が髪や目に現れるのは、その人物が持つ魔法の素養に関わっているのですわ」


「へぇ、じゃあシエラのその髪は?」


「はい。私のこの髪色は『治癒魔法』の素養が高い事を示しているのです。私は生まれた時には淡い茶色の髪色だったのですが、成長するにつれて治癒色に染まっていったので、教会に預けられたのです」


「そうなの?」


 それはなんか、酷い話なんじゃないか? 髪の色が変わったからって、両親から引き離されて教会に行くなんて…………。シエラも苦労しているんだな。


 などと、この時は思ったのだが。


 後で聞いた話によると、俗に『治癒色』と呼ばれる髪色になった子供は人攫いに狙われやすくなるそうな。そこでその子供の親も、我が子の人生を護るために教会に預け、その子供は聖エタルシス教会所属の治癒師として成長していくらしい。


 つまりシエラが教会に預けられたのは、両親がシエラを愛していたからこその決断だったのだ。ちなみに、シエラと両親の関係性も悪くはないようだ。弟たちはシエラと暮らした記憶が薄いので、いまいちギクシャクしているらしいが。


 と、それはともかく話を戻す。



「ガモン殿」


「あ、はい」


「ガモン殿はもしや『ニホン』と言う国から、…………いや、世界から来ているのではないですか?」



 ゲンゴウの口から出たその質問に答えても良いものか迷った俺が、ティムに眼を向けると、ティムは俺を見て無言で頷いた。



「はい、その通りです。俺は日本から、唐突にこの世界に呼ばれて来ました」


「おお、やはり! 知っているかも知れませんが、ワシもその『ニホン』の血を受け継いでおるのです! わかりました。我が先祖の同郷の方となればワシがお世話をするのは当然です。何せ我が家の家訓にも『もし日本人が後の世に現れた場合は、出来るだけ助けるように』と先祖の言葉が残っておりますでな!」



 おおっ! マジか! 子孫にまで家訓として遺しといてくれるなんて凄くいい人だったんだな。ゲンさんだっけ、ありがとうございます。



「ワシの祖先も勇者などと持てはやされはしましたが、やはり故郷とはかけ離れた知らない世界。苦労が多かったと伝え聞いております」


「ああ、それは解ります」


「『ニホン』というのは魔法こそ無いが平和で、生活の基礎力がとても高かったと、それをこちらの世界で再現できないのがもどかしいと、いつも嘆いておったそうです」


「それはそうでしょうね。俺だって同じ生活をしていましたけど、使っていた物がどういう原理で動いているのかとか、どうやって作られているのかとか、知らない事だらけですからね。こういう便利な物があったと説明はできても、じゃあどうやったらそれを作れるのかは説明できませんから」


「そうなのです! 祖先もその点に苦慮しておりましてね。この商会はそれらの思いが募って結晶化した物なのですよ。せめて祖先の目指した物の、実物を見ることでも出来たら違ったのでしょうがね…………」



 そうさなぁ、実物があるかどうかでだいぶ違うよなぁ。


 ……………………いや、あるじゃん実物。俺のスキルなら、それを用意できるじゃん。

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