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538回目 飛空艇がもたらす影響

 東の大陸の南西にある国『ウエスランド』。肥沃な大地とレアメタルの鉱山を併せ持つ、東の大陸でも屈指の豊かな国である。


 しかもこの国は、西は断崖絶壁の海に面し、東は鋭い岩山が並び、北は大瀑布があり、南の海には強悪な海獣達の棲みかがある、自然に護られ過ぎた国でもあった。


 この豊かな国を狙う勢力は多数あれど、決して攻め落とす事は出来ないと言う事で、有名な国であった。…………空飛ぶ船が現れるまでは。



「へ、陛下!! 船が! 空飛ぶ船が現れました!!」



 国王である『ニードゥ』は、最初にその一報を聞いた時には、兵士達の見間違いだと思った。空飛ぶ船など、聞いたことも無かったからだ。


 山を隔ててすぐ近くにあった帝国が滅んで以来、『ウエスランド』は特に平和で、危機感が薄かったのも確かだが、それでも巨大な鳥かドラゴンかは解らないが、船と見間違えるとは叱責する必要があるなと、そんな事を考えていた。


 だが兵士の言葉は事実であり、実際にそれを見た時、ニードゥは呆然とした。


 どんなに自然の要塞に囲まれていても、遥か上空を飛んで来る船には為す術もない。しかもその船は、『ウエスランド』の周囲を様子を見るかのように周回している際に、南の海から上空まで飛び出した巨大な海獣を、その船から発射された光の線で両断してしまったのだ。


 これには国の上層部も言葉を失い、『ウエスランド』はここまでかと、国の存続を諦める程の境地に至ってしまった。


 ニードゥ達にとって幸運だったのは、その船に侵略の意思が無かった事と、『ウエスランド』に滞在した経験もある大魔導師ドゥルク=マインドが使者として来た事だろうか。


 ともあれ侵略の危機は去り、ニードゥ達は空飛ぶ船どころか空飛ぶ島まで持つと言う、勇者ガモンに協力を約束し、事なきを得た。


 …………だが、それから約一年が経ってガモンは大陸を空に上げるとか突拍子もない事を言い出し、さらに全ての国に飛空艇を配り始めた。これで、この国がもつ防衛上の優位性は無くなったものと見て間違いない。


 ガモンがいる間はそれでも良い。世界最強の勢力はガモンであり、この世界の瀬戸際だと言われる時期に戦争を起こすなど、勇者ガモンに滅ぼされる結果にしかならないからだ。


 だが、全てが終わった時に、平常の世界に戻った時に『ウエスランド』は無事でいられるだろうか? ニードゥの胸の内には、言い様のない不安が常に渦巻いている。



 ◇



 東の大陸の最東端にある小国『ベキスネティア』。東の大陸では最も小さな国家であり、その人口も少ない。


 更に言えば、最も東に位置しているのに海に面していない稀有な国である。


 正確に言うならば海はある。広大な海が()()()()()()。広大な海は見えるが、そこに辿り着くまでが遠い。平らな大地がそのまま遥か高みにまでせり上がったかの様な山頂にある『ベキスネティア』は、果てない海を眺めながら、その海から最も縁遠い国であった。


 この国がこれ程に不可思議な国になったのは、簡単に言えば戦争に負けたからだ。もう二百年以上昔の話なので、『ベキスネティア』に当時を生きた者は既にいないが、戦争相手の隣国は『魔族』の血を色濃く受け継いだ『半魔族』なので、当時を生きた者がそのまま生きているのだ。


 戦争後、『ベキスネティア』は常に鎖国を強制されていた。ベキスネティアの周囲の国は隣国と同じ『半魔族』か、古くから隣国との協力関係にある国ばかりなので、ベキスネティアを助けようと言う国も無かったのだ。


 強制的な鎖国と、隣国による一方的な施しはまるで家畜の扱いであり、ベキスネティアに暮らす人々は常に暗い顔をしていた。


 しかしこれは自業自得でもある。当時の事を覚えている『半魔族』が多い中では、こちらがいくら世代が交代したのだと言っても聞いては貰えない。だから忘れろと言っても無理な話である。


 だが、希望が現れた。それが空飛ぶ船である。


 これは自分達はもとより、隣国よりも遥かに力を持つ者により与えられる船だ。これを使えなくする事はベキスネティアに恨みを持つ隣国にも出来はしない。


 長く世界から隔絶されてきたベキスネティアにとっては、世界と繋がるための正に希望の船。これによって強制的に続けられてきたベキスネティアの鎖国は解ける事となり、ベキスネティアの人々は、勇者ガモンという名前を、まるで唐突にあらわれた『救いの神』かのように信仰するまでになっていた。


 強制鎖国国家『ベキスネティア』。かの国の人々にとって配られる飛空艇は、希望そのものであった。

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