535回目 覚悟を決めた男
訓練を重ね、武道大会を観戦し、また訓練をする。
武道大会の商品として☆5『料理神『ルカタルト』のリストランテ』を提供したのが良かったのか、はたまたガチャアイテムを二位から五位までの景品にしたのが良かったのか、やはり目の前にニンジンがぶら下がると皆のやる気が違う。
あれから参加者はどんどん増え、アレス達に出される申請書も増えた。
さらに一度大会で優勝した者は、その後の同じ大会には出れないルールになったり、ルカタルトのリストランテは持ち回りで各大会の優勝商品になる事になったので、リストランテが無い大会の優勝商品が車やバイクになったりと、武道大会は少しだけ形を変えながらも、日常に浸透していった。
他にこの数ヶ月で起きた事と言えば、アレスとフラウスが正式に結婚した事だろうか。アレスは俺とティアナよりも先に、新婚生活を満喫していた。
そして今日も、『レナスティア』の街の一角では、ある武道大会が開かれていた。
そのお題は『格闘技』であり、今週のリストランテの該当大会。通称『ルカタルト杯』である。
「あれ? 見に来たのかい、ガモン。もう飽きて武道大会を見には来ないかと思ってたよ」
椅子に座ったままで俺の方を見たのは、冒険者パーティー『メガリス』のリーダー、メリアだ。今回のこの大会は、メリアも見に来るだろうなと予想していたので、俺に驚きは無かった。
「飽きたから見てなかった訳じゃないよ。同時に色々やってるし、一つだけ見に行くのもフェアじゃないかと思ってたんだよ」
「じゃあ今回はなんで見に来たんだい? バルタまで連れて」
「そりゃ、メリア達がここに居るのと同じ理由かな」
「あっしもそうですね。ちょいと気になりやして」
「ははっ、そうかい。あんた達も、義兄さんの試合を見に来たんだね。解ってるとは思うけど、予選は軽く突破したよ」
武道大会が行われる闘技場の一つ、その観覧席にあるVIPルームには、メリアの他にもパーティーメンバーである二人がいた。ちなみに俺の同行者はバルタだけである。
俺達はメリア達が座る列の横に並んで座り、これから本選が行われる舞台を見下ろした。
舞台上に並ぶ本選の出場者達。その中に、つい先日やっと俺のフレンドになった男も並んでいた。
大きな体躯に、モジャモジャの髭を蓄えた悪人面の男だ。パッと見は完全に山賊か何かの頭領であり、その丸太のようなモリモリの筋肉を備えた腕や脚を見て、表情を真っ青にしている出場者もいる。
まぁ、アレと試合するの? っていう彼らの心の声が聞こえてくる表情だ。
誰も思わないだろう。そこに立つ山賊の頭領が、小国とは言え一国の王様だとは。
そう、そこに居たのは山賊の国『ラグラフ王国』の国王にしてメリアの義理の兄でもある、ラグラフだった。俺は暇を見てはラグラフを訪ねて酒に付き合って貰ったりしていたのだが、つい先日、とうとうラグラフが俺のフレンドになる事を了承したのだ。
「世界が変わろうってのに、力あるもんが引き籠ってちゃいけねぇやな。いいぜ。この命、『方舟』とやらをぶっ壊すのに使ってやるぜ!」
そう言って、ラグラフは俺達の仲間に入ったのである。まぁ、本人の希望もあって大っぴらには発表しないけどな。
「本当に出場していたな。メリア達は予選から見ていたんだよな? どうだった?」
「そりゃ圧勝だったよ。義兄さんの経歴はガモンだって知っているだろ? そんじょそこらにいる程度の実力者じゃ、相手にもならないね」
この『武道大会・格闘術』の予選で、ラグラフは文字通り無双していたらしい。腕を振っては人が飛び、脚を振っては人が飛び、頭を振っても人が飛んだらしい。最後は両腕を水平に伸ばし、独楽のように体を回転させて触れる相手をふっ飛ばしていたそうだ。どこのモヒカンプロレスラーだよ。完全に格ゲーのキャラクターじゃないか。
だが、しょうがないかも知れない。ラグラフと言えば、かつては周辺の国を震撼させた伝説の暗部のトップである。
路頭に迷う民を助け国を興した後も、その有名過ぎる悪名と、多少乱暴な言動でどこの国とも国交を結べなかった程だ。
そんな経緯を持つ男が、弱い筈がない。そりゃこんな大会であれば無双もするだろう。
そして本選でも、ラグラフ無双は続く事になった。
「さあ来い! 遠慮はいらんぞ! 貴様の全力をワシに見せてみい!!」
「くっ! うおおぉぉっ!!」
ラグラフの挑発を受けて、対戦相手は雄叫びと共に駆け出した。そして待ち受けるラグラフの前でグンッとスピードを上げると、跳び上がり、身体を回転させて勢いの増した回し蹴りをラグラフの首に叩き込んだ!
それはかなり重い一撃だった筈だが、それを喰らってもラグラフは微動だにせず、完全にそれを受け止めていた。そして相手の身体を無造作に掴むと、乱暴に振り回して投げ捨てた。
これは正にラグラフだけの技である。適当に相手を掴んで、振り回したあげく投げ捨てるなど、普通には出来る筈がない。
しかも、ラグラフの攻撃はまだ終わっていないのだ。
「死ぬなよ? しっかりと受け止めてみよ!!」
そう言ってラグラフは、その大きな肩を前に出した構えを取り、フラフラと立ち上がった対戦相手に向かって走るとそのまま相手をふっ飛ばした! その一撃は、相手の意識を完全に刈り取るのに十分なものだった。
そしてその様は、この大会に出ていた出場者達の心をへし折るにも十分過ぎる光景であり、多くの途中棄権者を出して、『武道大会・格闘術』は閉幕したのだった。
言うまでも無いかも知れないが、優勝者はもちろん、ラグラフである。
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