522回目 ☆5を捧げる
「…………ここは神の世界? こんな光景、私達の知る世界じゃ絶対に見られない…………」
夢に浮かされた様にティアナが呟いた言葉は、心から出て来た言葉だろう。そしてそれは、俺達の心にあった言葉でもあった。
左手側の朝日眩しくて暖かい。正面の夕暮れはもの悲しい雰囲気を感じさせ、右手側の夜空に輝く月は、寒々しくも美しかった。
二つの太陽と一つの月。こんな光景は、想像した事も無かった。だがそれは、俺達の心を確かに満たしてくれていた。
「…………ガモン殿、月が変化しています」
「月が?」
アレスの言葉に雲海の上に浮かぶ月を見る。すると、それは確かにほんの少しづつ欠けているようだった。
月の事に気がついた仲間達と共にじっと見ていると、月はゆっくりと欠けていき、やがては新月となって見えなくなった。
すると別の変化に気がつく、月を見ていた俺達の背中が暖かくなっていったのだ。
振り返ると、雲海から僅かに見えていただけの太陽が空へと昇り、夜空だった空が鮮やかな青空へと変わった。そして正面に見えていた夕焼けの太陽は沈み、三色に別れていた雲海全体が真っ白な雲へと変わった。
これはきっと、まだまだ変化があるのだろう。
「…………なぁ皆、ちょっとここでお茶でも飲みながら、この神の世界を堪能しないか?」
「「賛成!!」」
『では、お茶は私が用意しましょう』
俺の言葉に皆が笑顔で応え、レティアが「スキル倉庫」からテーブルや椅子などを準備し始めた。
そしてテーブルにお菓子と紅茶が並び、俺達はいくつかのテーブルに別れて座り、神の世界の景色を存分に楽しんだ。
天まで昇った太陽が、徐々に正面の空へと落ちていく。朝日として出ていた部分と、夕日が見えていた部分が半円の線で繋がり、そこに向かって落ちていくのだと解った時、俺の口許は堪えきれずに笑っていた。
太陽が落ちていくと共に空が、雲海が赤く染まっていく。そして太陽が正面に夕日として沈む頃には、真っ白だった雲海が全て赤く染まり、やがて沈みかける夕日で止まると、左手側の雲海には朝日が昇り始める形で止まっていた。
空の変化はまだ続く。新月になっていた月が徐々に姿を現し始めたのだ。
月が満ちると共に空は暗くなり、雲海が月の光を浴びて灰色に染まる。そして月が半分程になると雲海一面が灰色になり、空には満天の星が広がった。
そして月が満月をかたどった時、世界は再び最初の、三分割の世界へと戻っていた。
「…………ふぅ、一日の空の流れを凝縮したような体験だったな。堪能した」
雲海はともかく、太陽や月の動きをこんなに楽しめるとは思わなかった。ここに『ビーチチェア』でも置けば、寝そべって日光浴も出来るし星空を眺める事も出来る。…………ガチャアイテムにあったな『ビーチチェア』。今度マジでやってみようかな。
「…………おっとそうだ、危うくここにいる目的を忘れる所だった」
俺はここに遊びに来た訳じゃなかった。『方舟』を捕縛する為に必要な☆5『神罰の鎖』の能力を受け継いだ『神威』を作りに来たのだ。
それはこの☆5『◇創造神の『神威』工房』で作れる筈なのだが…………何もないよな? いや、ただ一つ。俺達が立つ場の中央にゴウゴウと炎が燃える大きな盃がある。オリンピックの聖火台のようなそれが、この場にある唯一の物である。
唯一の物って事は、これがそうなんだろう。俺は取り敢えず、その燃え盛る炎に近づいて見た。
「…………熱くない? これ、炎じゃないのか? …………ん!?」
近づいても熱くない炎に首を傾げ、少し触れて見ようかと手を伸ばした時、不意に俺の目の前に半透明のパネルが現れた。
そのパネルには、こう書かれていた。
『ガチャアイテムを、一つ捧げてください』
「…………なるほど。やっぱりここか」
ゴウゴウと燃える炎に、ガチャアイテムを『捧げる』。『捧げる』とは『消費』である。つまり『神威』を求める者は、同じ物は二度と手に入らないであろう☆5アイテムを失う覚悟をせねばなるまい。
まぁ、その覚悟ならもうして来てはいるんだけどな。ここにはその為に来てるんだし。
「…………よし! やるぞ!!」
俺は『スキル倉庫』から、☆5『神罰の鎖』を取り出した。
これはかなり役に立つアイテムだったな。などとこれまでの事を思い返しながら、俺は☆5『神罰の鎖』を掲げて、炎の中へと放り込んだ。
すると、ゴウゴウと燃えていた炎が一際大きくなったかと思うと、そこから五つの炎が分離して、雲海との境目である床の切れ目の場所に浮かんだ。
等間隔に並んで浮かぶ五つの炎は、一瞬大きく燃え盛ったかと思うと徐々に萎んでいき、やがてパァンッと音を立てて破裂すると、五つの炎があったその場所に五つのスマートで美しい鎧兵器を残した。
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