52回目 タカーゲ商会
色々と悩んだ挙げ句、結果として俺は教会から来た少女、シエラの同行を受け入れた。
本音を言えば、勇者とか世界の危機とかに関わりたくはないが、俺はきっと関わらざるを得ない、という事に気づいたからだ。
そう、あれだ。『ストーリークエスト』。
俺が勇者で、世界の危機を救うために召喚されたと言うのなら、あの『ストーリークエスト』はモロにその為の指針であるはずだ。なら、俺は確実に巻き込まれる。どうせ確実に巻き込まれるなら、今から教会とも友好な関係性を築いておくべきだと判断したのだ。
少なくとも、ここでシエラを追い返すという選択肢は無い。俺の身の安全の為にも、できるだけ上手くやっていこうと決めたのだ。
◇
「聖エタルシス教会、治癒魔法師のシエラです。よろしくお願い致します勇者様」
「ガモン=センバです。こちらこそよろしくお願いします。…………でも取り敢えず、『勇者』って呼ぶのは無しでお願いします」
「わかりました。ガモン様」
「あの、様づけも…………」
「固いなぁガモン。これから同じパーティーとして冒険者するんだから、もっとフレンドリーにいきなよ」
「まあまあ。旦那ならすぐに打ち解けまさぁ。取り敢えずタカーゲ商会を目指しましょうぜ」
レストランを出た俺達は、カラーズカ侯爵家と強い繋がりがあると言うタカーゲ商会を目指した。
タカーゲ商会はジョルダン王国有数の豪商であり、ここいら一帯を治める領主である『ターミナルス辺境伯』から見れば、正妻の実家でもある。
元々タカーゲ商会はジョルダン王国でも指折りの豪商なのだが、隣国のテルゲン王国のカラーズカ侯爵家と懇意である事、そして自分の娘を辺境伯の嫁に出した事で力を増し、タミナルの街での影響力は部分的に見れば領主よりも強い。
ゆえにタカーゲ商会の店舗は街の中央、この街においては領主の住む城に次いで目立つ場所にあるのだ。
「…………で、これが噂のタカーゲ商会か。…………いやデケェわ! もうこれデパートじゃん!!」
「うん、そのデパートってのが何かは解らないけど、いつ見ても存在感はあるよね。僕もこれを最初に見た時は開いた口が塞がらなかったよ」
タミナルの街、その中央に位置するタカーゲ商会の店舗はまごうことなきデパートだった。
いやとにかくデカイ。横幅の広い円柱形で、その存在感はまるで闘技場であり、見た感じ六階建てで二階以降にはガラスの窓が、一階部分の外観には大きなガラスのショーウィンドウまであった。
そして円柱の建物の外側にはスロープが設けられており、そこからは馬車が上へと登っていた。立体駐車場か? マジで? いや、これだけデカイ店舗だと、貴族用にああいうのは必要なのか? とにかくタカーゲ商会は、俺の予想の斜め上をいく程の豪商だった。
「まさか異世界でこんな建物を見るとは思わなかったな。立体駐車場なんて造るくらいなら、建物自体を低く造るだろ普通」
「それなんですがね。なんでもタカーゲ商会の会頭の血筋には異界の勇者の血が混じってるって話ですぜ。この建屋も、異界の勇者が考案した物で『百貨店』という代物だという話ですぜ」
「タカーゲ…………? ああっ! 勇者『ゲン=タカギ』様ですね! 二百年前に現れた勇者様の一人ですね」
「へぇ、じゃあ本当にデパートなのな。なるほど、日本人が考えたんなら納得だわ。何でも売ってるか、そりゃそうだな、それが総合デパートってもんだもの」
俺と同じ日本人か。ゲン=タカギって事は『高木源』とかだろうか。…………あれ? 今、二百年前とか言ったか? それだと時系列的に合ってない気がするが。だってこれ、どう考えても現代日本の知識がある奴が造っているもんな?
…………いや、今更か。そもそも『異世界転移』なんてもんが起きてる時点で、俺の常識からはかけ離れている訳だしな、何でもありだろ。
「うおぉ…………すっげ…………」
仲間たちと共に回転扉の入口を抜けて中に入ると、そこは広大で、しかし奥の方まで明るい空間だった。
この世界には、雷の魔法はあれど電気は無い。発電所も送電設備も造れないし、そもそも電気を生み出すエネルギー源を確保できないからだ。
大体に置いて、火力だの風力だの電力だのが一本化されたのが魔力である。魔力は方向性を変えるだけで何でも生み出せる万能のエネルギーだ。わざわざ発電所を造って送電設備を整え、各家庭に電力を振り分けて光を生み出すよりも、『ライト』の魔法を覚えた方が早い。
そしてそれを魔法が使えない者でも使えるようにしたのが『ライト』の魔法式を組み込んだ『魔道具』だ。これがあれば『ライト』の魔法が使えなくても、魔力を流すだけで同じ効果を得られる。魔法が使えなくても、魔力自体は誰でも持っている力だからだ。
そしてここは、その『ライト』の魔道具の特別版を天井に設置してあるらしく、天井からは常に淡い光が降り注いでいる。地球の『LED電球』と違うのは、一枚板のように天井全体が光っている点だろう。内部構造とか魔法式とかはサッパリ解らないが、ただただ凄いインパクトがあった。
そして、この商会の一階は食料品や生活用品を売っている場所であるらしく、その立ち並ぶ商品と多くの人による活気ある光景は、俺にとっては凄く見覚えのある、もはや懐かしい日本でよく見た光景に思えた。
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