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51回目 聖エタルシス教会から来た少女

「何あれ、どうすればいいの? 何でずっとついてくるの、あの娘?」


「状況から考えれば目的は旦那でしょうが、それを隠そうともしない辺りが訳わかんねぇですね。ずっとついて来て、しかも自分から視界に入ろうとしてやしたぜ?」


「…………怖いんだけど。俺、何かした?」


「…………いや、ガモンが何かした訳ではないよ。多分、一次接触に失敗して、どうしたらいいか訳わからなくなってるだけだから」


「もしかして、若様はあの娘に心当たりがあるんで?」


「まぁね。…………ふぅ、しょうがないか。ちょっと話して来るから待っててくれ」


「お、おい…………?」



 ティムはひとつ溜め息をつくと、少女に向かって歩いていき、少しだけ少女と何やら話しをすると、事もあろうに少女を連れて戻って来た。


 いやいやいや、なに連れて来てんの?



「ガモン、少し話がある。この娘が変な行動をしていたのは確かだけど、放っておく訳にもいかない理由があるから、聞いて欲しい」


「…………えぇ…………?」


「まあ、若様がそう言うんなら聞くのが一番ですぜ。この近くに個室のある店がありやすから、そこに行きやしょうか」


「そうだな。バルタ、案内を頼む」



 そうして、あれよあれよと話しは進み、俺達はバルタが案内してくれたレストランの一室で丸いテーブルを囲んで座っていた。


 俺の正面には薄い緑色の髪をもつ例の少女が、少し気まずげに座っていた。いや、俺もなんか気まずいんだけどね。



「取り敢えずは僕が紹介しようか。こちらはガモン=センバ、テルゲン王国が異世界から召喚した勇者だ」


「…………!!」



 ティムがした俺の紹介に目の前の少女は両目を見開いて驚いているが、もっとビックリしている者がここにいる。そう、俺である。



「いやちょぉっ!? それ言っちゃダメなやつ!?」


「いや良いんだよガモン。彼女に関してはこれを言わないと始まらないんだ。それに半信半疑だったみたいだけど、彼女はそれを知っていてココにいるんだよ」


「…………え? 知ってる?」


「あーー…………、そう言う事ですかい」



 今のティムの言葉で、バルタは何かに納得したらしい。俺はまだだけど。



「それで彼女は…………。あぁ、そう言えばまだ名前は聞いてなかったけど、聖エタルシス教会からの使者だよ。その目的は新たな勇者であるガモンの見極めと警護。そしてなぜ今、ガモンがこの世界に召喚されたのか、その理由を探ることだね」


「召喚された理由? …………それは、テルゲン王国の王様がクソだったからじゃないのか?」


「いやまぁそうなんだけど、それはテルゲン王国の事情で、本当ならガモンは『召喚されない』はずだったんだよ」


「…………?」


「あの、そこからは私が」



 ティムの言葉に俺が首を傾げていると、ティムに代わって例の少女が続きを話し始めた。



「改めまして、私はシエラといいます。聖エタルシス教会の治癒師として、勇者様のお力になる為に派遣されました。…………本当なら、この事は内密に勇者様とパーティーを組むという指令だったのですが、こうなった以上は正直に言います」


「えっと、ガモンです。な、なんかゴメンね?」



 彼女の予定としては、ごく自然に俺に近づき話をして仲良くなってパーティー入り。…………という感じだったのだろう。


 教会の思惑としても、それが上手くいくように容姿の整った彼女に白羽の矢をたてたのだろうけど、俺が警戒し過ぎたせいで台無しになった訳か。…………でもあれは警戒するだろ、普通。



「勇者様を異世界から召喚する『召喚の儀』は、本来なら聖エタルシス教会が秘匿し、厳重に管理する物でした。しかし、最後に勇者様が召喚されたのは二百年も前で、しかもそれ以後は勇者様が召喚される事が無くなった為に、教会の管理は段々と甘くなっていきました」


「召喚されなくなった?」


「はい。勇者様の召喚とは、世界に滅びの危機がある時だけ成功するという、特殊な物だったのです」


「世界に危機がなければ勇者は召喚されない。つまりガモンが召喚された時も、世界に目立った危機などなく、しかもテルゲン王国は戦争に利用するために勇者を召喚しようと目論んでいたから、ほぼ全員が『召喚の儀』は失敗すると思っていたんだよ」


「だから『召喚されない』はずだった、って事になるのか」


「はい。そして、そんな状態が長く続いた教会では「どうせ召喚されないのなら」と、『召喚の儀』を金銭で貸し出す者が現れたのです。そしてそれは枢機卿の一部が受け取る『裏金』として定着してしまい、今回はテルゲン王国へとママンガ枢機卿を伴って貸し出されました」


「うわぁ…………」



 …………どこの世界でも宗教が腐りやすいのは一緒と。まったく、それで実際に召喚されたんだから笑えないな。



「ちなみに、ガモンが勇者として召喚された事を教会に伝えたのは父さんだよ。僕もさっき、父さんからの手紙を読んで知ったんだけどね」


「カラーズカ侯爵が? いやだって、俺には教会には近づかない方がいい、って言ってたぞ?」


「うん。それはその通りだよ。迂闊に教会には近づかない方がいい。ただ、教会の内部も全てが腐りきっている訳じゃない。父さんは、信用できる人にだけ連絡を取ったんだよ。…………まぁ、あの手紙を見る限り、教会がこんなに早く動くとは予想外だっただろうけどね」


「事は勇者様の召喚ですからね。勇者様がこの世界に召喚されたという事実は、この世界に危機が迫っているという証明です。なので私が派遣されたのです。私の役目は勇者様の成すべき使命の内容を探る事と、勇者様の身を護る事です。どうか、私をお側に置いてくださいませんか?」


「…………ちょっと考えさせて…………」



 …………いやちょっと待ってよ。それって、俺が世界を救わないといけない話なんじゃないの? 何が起こるのか知らないけど、マジで? 下手したら魔王とか出て来るやつなの? えぇーー。俺がそれと戦うの? 聞いてないんだけど…………。

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― 新着の感想 ―
[一言] ガモンに共感するわ
[一言] 世界の危機を救う前に、自立した生活が送れるようにならないと。
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