50回目 ずっといる…………怖っ
ティムが戻って来たので、俺は残っていた果実水を飲み干して手早く会計を済ませた。
そしてティムを急かして一緒にギルドの外へ出ると、少し離れた所に立っているバルタを見つけ、その場へと急いだ。
「バルタ! ずっと外にいたのか? 中に入って来れば良かったのに」
「ああいや、ちょいと事情がありやしてね、ここのギルドにはどうも入りづらいんでさぁ。そんな事より、ギルドへの登録は済みやしたか?」
「ああ! それはバッチリだ!」
「僕の方も終わったよ」
「そうですかい。ああ、折角なんでここからは歩きやしょう。馬車は先に屋敷へ入れて来やしたんで、歩くしかねぇんですが」
「ああ良いね。ガモンも、ちゃんと街を見たいだろうしね」
「そうだな、色々と案内してくれよ」
「ええ、この街はあっしらの庭みたいなもんなんで、案内は任してくだせぇ」
俺達は連れ立ってタミナルの街を歩き出した。冒険者ギルド付近は商業区だけあって様々な店や施設が建ち並んでいる。
カフェや食堂はもちろん、床屋や服屋に食料品店などもあり賑わっている。
だが、それより何より俺が気になる店が並んでいる場所があった。
そこにあったのは剣と魔法の世界の定番。武器や防具の並ぶ武防具店に、ポーションなんかを売っていると思われる道具屋。さらには魔法的な道具を売っていると言う魔道具屋! それらはもうワクワクしかしない店たちだ。
「な、なぁティム! バルタ! 入ってみようぜ! まずは武器と防具の店だ!!」
「…………いや旦那、そこは旦那にゃ一番必要ない店じゃねぇですか。どんな武器が並んでいても、ひのきの棒にすら勝てやせんぜ」
「そうだな。ガモンのガチャから出てくる防具は重さを感じないし動きも邪魔しないけど、普通の防具なんて重くて動きづらいもんだぞ? 鍛えていないガモンじゃ、動けなくなるだけだって」
「いや違うんだよ、俺は中を見たいだけなんだ! ロマンを感じたいだけなんだよ!!」
そう、俺の望みは並んでいる剣や盾を見るという、それだけなのだ。普通の剣がクソ重たくて振りづらい事なんて、ティムから借りた剣を持たせてもらって知っているのだ。よくティムはあんな細い腕であれを振れるものだ。
「…………ハァ。冷やかしなんて店の迷惑にしかならないからダメに決まっているだろう。そういう事なら、これから行く『タカーゲ商会』にも並んでいるから、そこで見るといい。ポーションとか魔道具もあるから、十分だろ?」
「…………おお、そんなデカイ店なのかよ…………」
「タカーゲ商会はこの国じゃ一・二を争う商会ですぜ。あそこには、まさに何でもありまさぁ」
バルタのその言葉に、俺は取り敢えず納得しておく事にした。…………あくまで取り敢えず、だ。あれらのお店にはいずれ必ず行くとして、今日のところは諦めておこう。
そうして俺達は街の散策に戻った。商店街のような店が立ち並ぶ一画を過ぎると、噴水が中央にある広場に出た。
その噴水は長い胴体を持つ龍が、まるで水に沈められまいともがく様な姿を表しており、その龍の周囲から噴き出した水は、まるで龍を拘束するように龍の胴体を跨いで着水していた。
「おおーーっ! これ凄いな。龍を模した噴水か? カッコイイな」
「ここはタミナルの街の名所のひとつだからな。あ、ちなみに噴水のやつは龍じゃなくて蛇だ。古い伝説を模してるって話だったな」
「蛇なのか。小さいけど翼もあるのに」
「まあ、伝説を知らないと龍に見えるかな。周りにいる人達もほとんどが外から来た人達だろうから、誤解している人も多いかもね」
「旦那、噴水もいいですが出店もいいですぜ。周りに出店は色々とありやすが、ここはその店同士が客を取り合っているんでレベルが高いんでさぁ。買い食いするならここがオススメですぜ」
「おおっ、じゃあ何か食おうか」
広場をグルリと囲うように点在する屋台。そこには果実水や肉串の他に、豚玉焼きとか肉麺などと言う変わった物も売っていた。
取り敢えず幾つか食ってみたが、豚玉焼きってのは見た目タコ焼きの豚バージョンで、肉麺ってのは肉そぼろの入ったラーメンモドキだった。
豚玉焼きや肉麺はそれなりに旨かったが、日本人としてはコレジャナイ感が強い。なんでもこれらは、その昔に召喚された勇者達が広めた物らしい。
…………あぁ、なんか解るわーー。日本の料理が恋しくなったものの、材料と知識不足で似た物までしか作れなかったのだろう。まぁ確かに、一からラーメン作れって言われたら無理だもんな。材料さえあれば、カレーぐらいは何とかなりそうな気もしないでもないけど。…………いや、どうだろ? 冷静に考えると、カレールーって何で出来てるんだあれ。小麦粉とスパイスぐらいは想像つくけど。
ま、まぁ俺の場合、ガチャからカレールーも出て来そうだし、その時に材料を見ればいいよな! うん!
「さて、いい感じに腹もふくれた所で…………聞いてもいいですかい?」
「ん? 何をだ?」
「…………いや、アレですよ、アレ。ギルドを出てから、ずっとついて来てやすぜ? ってか、お二人とも気づいてやしたよね?」
バルタが指差す先を見ると、少し離れた屋台の側で豚玉焼きを食いながら俺達を見ている少女がいた。
それは紛れもなく、冒険者ギルドで俺に絡んで来たあの少女である。名も知らぬ少女は、俺達が冒険者ギルドを出てここまで歩いて来る間も常に一定の距離を保って着いて来ていたのだ。…………いや、普通に怖いんだけど。
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