498回目 ただ、偶然の産物
『グオオォォ……………………ッ!!??』
炎の渦に巻かれながら、ヒトガミは自身の魂に刻まれた情景が浮かぶのを必死で振り払っていた。
それはヒトガミが『方舟』に乗った日。いや、乗せられた日と、そこに至る経緯の話。『ヒト』、本来その動物は『方舟』に乗る予定が無かった。『ヒト』と言う動物は厄介で、世界を発展させるのも確かなのだが、世界を破壊してしまうのも『ヒト』である事が多かったからだ。
だが、女神ヴァティーが乗り、事故によって別の世界に着いてしまった『方舟』が本来行く筈だった世界は、『ヒト』同士が争い、自然や動物を食い尽くして滅びに向かった経緯があった。
既にボロボロだった世界が、『創造神の死』の余波を受けて自己修復が不可能な所まで壊れてしまったのが、その世界だった。
結局のところ、『方舟』が事故で到着しなかった為に、その世界は滅んでしまった訳だが。
そんな経緯もあって、神々は一つの楔を打ち込む事にした。それは『ヒト』にだけ課せられた呪いと言い換えてもいい足枷だった。
人間の中の悪意や罪が重なった時にだけ発動する呪い。それは『天罰』と名付けられた。『ヒトガミ』は、その為に造られた『アイテム』だったのだ。
その原材料は『咎人』。一つ上の次元にある世界で、死刑に値する罪を犯した者達を集め、その身体と魂を『神の業火』の中で焼き合わせて、一本の『骨』にしたものが、ヒトガミの正体だ。
死刑になる程の『咎人』を集めて造られたのは、その者達の罪を『天罰』の基準とする為であり、形を『骨』としたのは、その呪いを世界の人々の根幹にある骨に刻み付ける為である。
だが結局、『方舟』は事故を起こして目的の世界には到達せず、ヒトガミの本体でもある『骨』は、見知らぬ世界に放り出された。
そして、ヒトガミも既に多くの人間が存在する世界では、ヒトの根幹に呪いとして食い込むのはもはや難しく、何者にもなれないヒトガミは、ただ時間だけを重ねた。
つまり、様々な『偶然』が重なった結果、何者にも成れずに放り出され、ただ時だけを重ねて亜神にまで至ってしまったのが、『ヒトガミ』と言う存在である。
故に、ヒトガミにとって何者でもないと証明する『骨』は、自身の弱点であると同時に、何者にも見られたくない恥辱である。自身を魔王と偽ったのもこの為である。
にも関わらず、ヒトガミを焼く炎の渦はヒトガミが造られた時の『神の業火』を彷彿とさせ、それがヒトガミ自身に影響を与えた為か、胸の穴に見える『骨』はそれを護るように包んでいた像部分を剥がれ落ちさせて、ついにはその全貌を晒してしまった。
真っ白な骨に掘られた赤い文字は『神聖文字』であり、それを読めるものなどこの場には居ない。その骨には、こう刻まれていた『咎人ゆえの罰』と。
決して見られたくない自分の『正体』を晒されたヒトガミは、その身を焼く憎しみを敵対する我聞達に向けた。
◇
『よくも…………!! よくも晒したな、貴様ら!! 絶対に許さん!!』
怒りの憎しみの眼を向けてくるヒトガミ。その憎しみの根幹があの『骨』である事は何となく察せるが、解るのはそれだけだ。
あの胸の穴にあったのは『魔王・ヒトガミ』の『郷愁の禍津像』だと思っていたが違ったのか。それとも俺達が気づかなかっただけで『郷愁の禍津像』の中身は全部『骨』が入っていたのか、それは解らない。
だが、怒りと憎しみに囚われたヒトガミの動きが力任せの物になったのは、チャンス以外の何者でも無かった。…………その姿はずいぶんと化物になったけどな。
『オオォォオオォォォッ!!!!』
頭部にはギョロギョロと周囲を見渡す眼を幾つも持ち、腕を身体中から何本も生やして鞭の様にしならせて当たる物を全て破壊する。
とんでもない化物だ。とても『ヒト』なんて物には見えない。
その破壊力は凄まじく、掠るだけでも身体を抉られ、致命傷にもなりかねないが、隙は無い訳ではない。
ヒトガミはその腕を怒りに任せてメチャクチャに振り回しているから、腕同士でぶつかり合い、ヘタをすれば千切れて飛んでいったりしているのだ。
『オオォォオオォォォッ!!!!』
「あまりの怒りに周りが見えなくなってるな。…………アレス、バルタ。俺が突っ込むから、道を作ってくれ」
「解りました!」
「倒せるんでやすね? なら、お任せしやすぜ!」
俺は武器を☆5『◇創造神の短剣』に持ち変えて、息を吐いた。
奈落、そしてヒトガミ。突然現れた強敵だったが、俺達は乗り越える。そして、その強敵すらも糧にして、先に進む!!
☆5『◇創造神の短剣』のスキル、《始まりの為の終わり》。それは、この短剣に指定して突き刺した物を何でも一つ『破壊』し、その破壊エネルギーを創造エネルギーにチャージするというスキルだ。
対象に選べる物は一つだけであり、一度選ぶと変更も出来ないが、その対象を突き刺せば例えそれが何であれ必ず破壊する事が出来る。
ただし再び使用するには『◇創造神の短剣』にチャージされた創造エネルギーを使いきる必要がある。その創造エネルギーを使うのにも制限はあるのだが…………。
まぁ要は、これで突き刺せば『神』すらも殺せると言う、とんでもない武器だ。あの触手のような腕をかい潜り、突き刺せたのならって話だけどな。
「行きやすぜ!!」
バルタの合図で、俺達は一斉に走り出した! 一直線にヒトガミの胸を狙う俺に無数の腕が襲って来るが、それはアレスとバルタが斬り飛ばしていく!!
ヒトガミの腕の再生は速く、更にヒトガミの幾つもある眼から体液の様な物も飛び出したが、それはシエラの防御魔法に阻まれ、更にカーネリアの飛ばした氷の槍がヒトガミの頭にヒットした!!
ヒトガミの体に肉薄してからの数秒が長く引き延ばされ、新たに首や腹から槍のような物が飛び出るのも見えたが、それもアレスとバルタによって斬り飛ばされて…………!!
俺の突き出した『◇創造神のナイフ』は、ヒトガミの胸の穴に入り込んですんなりと『骨』に突き刺さった!!
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