489回目 邪眼族の本気
多くの魔王が吹き出して消えていき、大魔王ティラノに大きな亀裂が幾つも走った。
前の二回と違ったのは、その亀裂から黒い炎が吹き出した事だ。『黒炎』、そう表現するしかないそれは大魔王ティラノの胴体部分から吹き出しており、それにともなってティラノの頭や脚と尻尾が落ちた。
「随分、今までと様子が違うな…………」
「旦那、あの落ちた物も変化してやすぜ」
大魔王ティラノの胴体部分は『黒炎』に包まれて宙に浮いた状態で停止し、その他の部分がボコボコと変質していく。
やがてティラノの頭は長い金髪をもつ女性の上半身をもった、全体的に金色の羽毛を持つ『ハーピー』になった。
だが、本来ならば美しい筈の姿なのだが、その体には赤黒い稲妻のような紋様があり、その両目が深い闇の様に真っ暗なので、不気味さしかない。
そして、両脚と尻尾は、それぞれ『カマキリ』と『テントウムシ』と『チョウ』という虫を模した姿へと変化したのだが、その胸から上は人間の女性を模しており、やはり赤黒い稲妻のような紋様と、真っ暗な両目があって恐怖を際立たせていた。
「四体!? いや、奈落がいると思われるあの本体部分も入れると、五体か。随分と増えたな」
アレ全部と戦うのはキツイな。実はもう丸一日以上戦っているから、俺達の体力も結構ヤバイんだけどな。
既に全員が、『ポーション』やら『仙酒』などを摂取しながら戦っているのだ。不幸中の幸いというか、アドレナリンが出まくっているのか眠気は感じていないが、精神的にもけっこうキツくなって来ている。
『フフフフフフフフフ』
『ホホホホホホホホホ』
『ブハハハハハハハハ』
『キャハハハハハハハ』
四体の敵が同時に笑い始め、その体から瘴気が溢れ出して来た! それと同時に魔力も高まって羽を広げ、四体の敵に、明らかな臨戦態勢が整った。
「来るか!!」
『下がっとれ! ガモン!!』
魔力と瘴気を撒き散らしながら飛んで来る四体の敵を、俺達の背後から飛び出した『大蛇八首』が受け止めた!!
ハーピーには筆頭である『ケト』と一番若い『レフ』。カマキリには『ザイ』と『バウ』の兄弟。テントウムシには弓使いの『へー』と大剣使いの『ダス』。チョウにはスピード重視の『ギル』と戦斧使いの『ベト』が相対した!
『酷い顔をしとるぞ貴様ら! 時間を稼いでやるから少し休め!』
「はぁっ!? いやいや、そういう訳に行かないだろ!!」
『いいから休め! ワシには解る、あの体の中にいる奴は、ワシらには倒せんだろう? だが、お前さんにはアイツを倒す算段がある! 違うか!?』
…………それは、確かにケトの言う通りだ。『魔王・ヒト』と同化し、その弱点である『郷愁の禍津像・ヒト』をスキルの中に隠している奈落は、普通に戦ったのでは倒せない。それを倒すには、更に上回る何かが必要なのだ。
『ガモン殿達には、万全の態勢を整えて貰います!』
『コイツらは俺達だけで倒すから、しっかり休め!!』
『なに、本気でやればこんなのに負ける俺達ではない!』
他の『大蛇八首』も、ケトと同じ意見のようだ。万全の態勢か…………。
『言っとくがガモンよ! これからワシらは本気を出すが、一度本気になると、解除した後には動けなくなるからな! そこから先は、お前さんらだけのたたかいだぞ!!』
「…………わかった! それなら、しばらくは休ませて貰うぞ!!」
『よし決まった!! いくぞお前ら!! ワシらの本気で、敵を丸呑みにしてやれ!!』
『『ハッ!!』』
『開け!!』
『『邪眼!!』』
蛇頭の姿に戻った『大蛇八首』の頭部に『第三の眼』が開いた! これは呪いの瞳であり、『邪眼族』の名前の由来でもある『邪眼』だ。
それは全ての『呪い』を含んだ瞳であり、対象となった者には様々なデバフを与える恐ろしき瞳だ。『邪眼族』を知る人間には『石化の呪い』が一番有名だが、それだけなんて言う生易しいモノでは決して無い。
現に今、『邪眼族』と相対する者達は、邪眼族の『邪眼』に射ぬかれて、その動きは明らかに精彩を欠いていた。
四体の敵に対して邪眼族は八人。さらにそこに『邪眼』の力も加えての戦いであり、現状はかなり優勢。
さらに奈落が潜んでいると思われる胴体部分には動きが無く、黒い炎が絡み付きまるで繭のようになっている。
確かにこれは、態勢を整える絶好のチャンスであった。
『早く行け! 心配せんでも、出番になったら呼んでやる!!』
「解った! そいつらは任せたぞ!! 来い! 『ヒポグリフ』!!」
この場での戦いを『大蛇八首』に任せた俺達は、空で待機をしていた飛空艇『ヒポグリフ』を呼び、その中で休息を取る事にした。
もし奈落が目覚めたなら、『大蛇八首』がまだ戦っていたとしても、俺達も行かねばならない。ここは最後の戦いに備えて、万全の態勢となれるように、しっかりと休まなければ。
俺達に休息の機会を与えてくれた、『大蛇八首』の為にもな。
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