481回目 逃げ回る戦い
ティアナ達が『郷愁の禍津像』の入手と破壊に動き出す中、『大魔王・奈落』と我聞達との戦いも続いていた。
有効な攻撃が通らない我聞達の基本戦略は『時間かせぎ』、つまりは相手を牽制しつつ『逃げる』事である。『魔王・ナラク』を核として『特別な眷族』の集合体で造られた身体を持ち、更に『魔王』の集合体を鎧とした『大魔王・ナラク』を倒すには、まずその鎧を剥がし、肉体を削らなくてはいけない。
最後に『魔王・ナラク』という問題は残るが、それを倒す腹案が我聞の頭の中には既にある為、今はただ、仲間達が世界に散った『郷愁の禍津像』を破壊してくれる事を期待するのみである。
◇
「チマチマとキズを増やしてはいるが、指一本斬り飛ばせないのはストレスが溜まるな!!」
「そりゃ仕方ねぇですぜ! 魔王の鎧ってのは厄介ですんでね! まぁダメージが回復してないのだけが救いでさぁ!」
「まぁ確かに治ってはいないか! キズを塞いでいるだけだもんな!」
巨大な『大魔王』が繰り出す、大質量の攻撃からなんとか逃げ回りながら、俺とバルタは互いに敵の気を引きつつも攻撃も加えていた。
特に何も相談はしていないのだが、この大魔王戦での俺達の役割は自然と決まっていた。
俺とバルタが逃げ回りながらの攻撃役、アレスとカーネリアは奈落を追いながら隙を見て魔法や装備スキルでの遠距離攻撃、そしてシエラは身を隠しながら仲間達に治癒魔法を飛ばしている。
今の所はいい調子だ。だが俺は焦りを感じていた。
俺はいい、俺は大丈夫だ。何せ☆4『◇ランニングシューズ』が優秀過ぎる。クラッシュレアになって☆5相当のブッ壊れ性能になったランニングシューズがこんなに優秀だとは思っていなかった。クラッシュレアで出て来た時にガッカリしてすいませんでした! ランニングシューズ先輩、マジリスペクトっす!!
これがもう、全然疲れないどころか、走るごとに調子が良くなっていくのだ。体力が回復しているまである。これならもう、逃げ回るだけなら百年でも行けそうだ。いや、そこまで行ったら『◇ランニングシューズ』のスキルによって上がりきったステータスで敵をワンパン出来そうだ。そのくらいに調子が良い。
だが、それはあくまでも俺の話だ。アレス達はそんな訳にいかない。
それに問題はまだある。ついさっきだが、俺達は持っていた『仙酒』の小瓶を一本飲んだ。それは、『大魔王・ナラク』の全身から吹き出した『瘴気』に対抗するためだ。
主な敵が魔王である俺達は、瘴気に晒された時の為に全員が小瓶に入れた『仙酒』を持っている。これを飲んだ事で仲間達の体力も回復はしているだろうが、『仙酒』の効果も永遠ではなく、あまりにも濃度の高い瘴気に晒され続けたなら、その効果が切れるのも早くなる。
…………マズいよなぁ。このままだと本気でマズい。だが、仲間を休ませようにも奈落に隙が無いのだ。離れているアレスとカーネリアや、隠れているシエラの気配も常に探っている節がある。長く立ち止まり休ませるのはかなり危険だと思うのだ。
本当にティアナ達に託すしかない。チャットは届けたし、ティアナ達ならどうにかしてくれると信じるしかない。…………まぁ、確実にやってくれるとは思っているけどな。
『…………ゥグッ!? オォオオォォ…………!!』
「なんだ!? …………はっ!? 旦那! アレを見てくだせぇ!!」
「黒い…………煙? …………来たか!!」
ティアナ達の事を信じていた。俺の仲間達は、離れていても、自分達のやるべき事をしっかりとやってくれている!
俺達を追いながら攻撃をしてくる『大魔王・ナラク』が、その動きを急に止めて、身体を大きく揺らしながら両手で頭を抱え、苦しんでいた。
その巨大な身体から立ち上るのは幾本の黒い煙。それはきっと、いや間違いなく! ティアナ達が『郷愁の禍津像』を破壊する事で、『大魔王・ナラク』を構成する魔王の影を引き剥がしたのだ!!
『グオオォォ……………』
そしてその瞬間! 『大魔王・ナラク』の左腕の鎧に亀裂が入って弾けた! 腕が断裂する程ではなかったが、今ならば攻撃が通ると確実に解る隙が生まれたのだ!!
「アレス!! 私に合わせなさい!!」
「わかった!!」
強大な魔力を纏ったカーネリアと、青白い稲妻を身に纏わせたアレスが姿を見せて、攻撃を放つ!
カーネリアから飛ばされた雷の槍が『大魔王・ナラク』の左腕に突き刺さり、バチバチと激しく放電すると、鎧の翼を広げて飛翔したアレスが、青白い雷の剣を奈落の左腕めがけて振り上げた。
すると雷同士で共鳴でもしたのか、カーネリアの雷の槍が引っ張られるようにアレスの剣と融合し、『大魔王・ナラク』の腕を刺し貫いたままで激しく放電した!
「駆けろ雷の龍! 『雷轟龍・一閃』!!」
激しく暴れ狂う雷は、龍の姿にも見える激しさだった。やがてそれは周囲の地面にも落雷を放ちながら、ついには『大魔王・ナラク』の左腕を斬り飛ばした!!
「よし! 俺達も行くぞ! バルタ!!」
「承知でさぁ!!」
今がチャンスと大魔王に向かって行きかけて、俺は目の端に捉えた別の光景が気になって、足を止めた。
…………動いたのだ、地面に落ちた左腕が。
斬り飛ばされたナラクの左腕が、確かに動いたのを確認して、俺は剣を『大魔王の左腕』へと向けた。
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