48回目 G級冒険者の依頼書
「ではまず基本的な事からいきましょうか。あ、その前に自己紹介ですね。私はミミナといいます」
「あ、どうも。ガモン=センバです」
「はい。よろしくお願いしますね。では、さっそく説明に移らせていただきます。まず基本事項として冒険者ギルドは一つの国に属する機関ではなく、多くの国が加盟する国連によって管理運営される機関です。この意味としましては、冒険者ギルドは国からの要望や依頼は率先して請け負うものの、他国との諍いやそれに伴う調査依頼などは受けない、もしくは依頼の途中でその疑いが出た場合には依頼そのものを破棄できる、という意味になります。要は冒険者ギルドは戦争には関わらない、という事です」
ほう。つまり傭兵的な扱われ方はしないって事か。それはいいね。まあ、建前ではあると思うし、抜け道もいっぱいあるんだろうけど。
「では次にギルドからの依頼を受ける為のランクについてです。冒険者ギルドの依頼は多岐に渡りそのほとんどにはモンスターが関わるため命の危険が大きいです。その為、全ての依頼には適正ランクを付けており、実力に見合わないと判断される依頼は基本的に受ける事ができません。目安としては現在のランクの一つ上と覚えておいて下さい。もちろん最終的な判断はこちらでします」
「はい」
「ギルドのランクはA~Gの七段階で、ガモンさんはGランクからとなります。ランクアップの条件は冒険者ギルドへの貢献度や、実力のある高ランク冒険者やギルドマスターなどからの推薦です。基本的には依頼をこなしていって下さい。余程の事がなければEランクまではすぐに上がる筈です」
「えっと、取り敢えずランクを上げるにはどのくらいの依頼をこなせばいいんですかね?」
「Gランクの依頼に関してのみ、我々の方から幾つかの依頼を提示し、その中から受けて貰います。その内の五つを達成する事でFランクに昇格し、Fランクからは受けた依頼の達成状況によって変わりますので一概には言えませんね」
「…………なるほど」
ミミナさんの説明に俺が頷くと、ミミナさんは机の引き出しを開けて四枚の紙を取り出して並べた。それらには簡単なイラストと、それについての説明が書かれている。
これはあれか、依頼書ってやつか。
「取り敢えず、いまギルドの方から出せる依頼は四種類です。ギルドカードの準備をしますので、こちらをご覧になりながらお待ち下さい」
「あ、はい」
ミミナが席を立ち、俺はテーブルに並べられた依頼書を一枚ずつ見ていった。
えっと、まず一枚目が『買取り素材の選別・薬草』か。
『買取り素材として持ち込まれた薬草を選別し、規定の束に纏めていくお仕事です。難しくはありませんが根気がいる作業になります。※万が一、毒草が紛れたり不正があった場合は処罰の対象となります』
二枚目は『買取り素材の洗浄作業』と。
『買取り素材として持ち込まれたモンスター素材の洗浄をしていくお仕事です。強烈な臭いや内臓系への耐性をつけたい方にオススメです。希望者には解体の手解きも行っております』
で、三枚目が『ギルド職員のお手伝い』ね。
『ギルド職員の指示に従って、荷物の運搬や書類の整理をするお仕事になります。ギルド職員の仕事に興味がある方、将来的にギルド職員を目指している方にオススメです』
ってこれ、ただの雑用係じゃねーか。バイトの募集かよ。…………いや、似たようなもんか。
最後の四枚目は『ギルド図書室・蔵書の写本(職員イチオシ!)』と。…………いや、職員イチオシってなんだよ。
『ギルド図書室においてある蔵書の写本作業です。必要事項の記入の際に文字をしっかり書けている方、字がキレイな方にのみ提示しております。写本依頼を受けている間はギルドに寝泊まりして貰い、朝昼晩の食事も出ますので、宿泊場所や食事の心配がいりません。※一度につき蔵書三冊がノルマです』
これは一見すると条件が良いように見えるが、よく考えるとギルドに軟禁されてないか? 蔵書三冊がノルマで依頼を受けてる間はギルドで寝泊まりって、三冊の写本が終わるまで逃がさないぞって事じゃないの?
って言うか、これ全部ギルド職員の仕事じゃないのか? Gランクは、ギルドのアルバイトって位置づけなのだろうか。
「お待たせしました。…………そちらの依頼が気になりますか? 依頼書にも書いてありますが、オススメですよ」
「…………質問なんですけど、これって依頼の最中に外に出たりとかは…………?」
「図書室の蔵書は貴重な本も多いので、基本的に外には出られません。お仕事は写本ですから、外に出る必要もありませんからね」
俺の質問に、淀みなく答えてニッコリと微笑むミミナ。その笑顔の奥に、黒い何かが見える気がするのは気のせいだろうか。
「…………いやあの、気分転換に散歩とか」
「三冊の写本が終われば出られるのですから、終わってから散歩するのが良いと思いますよ?」
これ絶対に軟禁されるヤツだ!? ダメじゃん!
「怪しいと思われるかも知れませんが、オススメなのは本当ですよ? そもそもこの依頼は、誰にでも出しているような物ではありません。先ほど書いてもらった名前などの文字を見て、それなりに字がキレイな方にだけ出している依頼なのです」
「そ、それは悪い気しませんね」
「それに写本する本は選べませんが、ギルドの図書室は、本来Eランク冒険者からしか入室を許可していないのです。Gランクで貴重な本に触れられる機会はそうそうありませんよ? 運が良ければ、生活魔法をこの依頼で覚える可能性もあります」
「おぉ…………!」
なるほど。オススメと言うだけの事はあるようだ。まあでも、今すぐ受ける事もない。
俺は写本の依頼を薦めてくるミミナにやんわりと断りを入れて用意されたギルドカードを受け取ると、受付のカウンターを離れた。
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