477回目 ☆4『◇ランニングシューズ』
正しく『大魔王』と呼ぶに相応しい、巨大な悪魔の姿になった奈落を見て、一瞬で理解出来た事がある。
それは、『俺達だけでは倒せない』と言う事だ。このまま俺達だけで戦ったなら、まず間違いなく殺される。
「全員散れーーーーっ!!!!」
俺の言葉に、その場にいた全員が奈落から距離を取る様に逃げ出す。そして奈落が殺意を持って追いかけたのは、当然俺だった。
そりゃ俺を殺しに来るだろう。俺を殺しさえすればガチャが使えなくなる。俺のスキル倉庫に入っている☆5アイテムも使えなくなるかも知れない。そうなれば詰みだ。
奈落の目的から考えても、確実に殺しておきたいのが俺であることは必然だ。
俺は逃げながらアレスにチャットを送った。送らなくても、アレスなら勝利条件に気づくとは思ったが念の為だ。
俺達が、巨大な大魔王となった奈落に勝つのは困難だ。ここにいる俺達だけなら、絶対に不可能だと言い切ってもいい。
何故なら、敵は魔王となった奈落を核とした、『魔王』と『特別な眷族』の集合体だからだ。眷属を組み合わせて造られていると見られるその身体にはダメージは通る。だがそれを覆っている黒い鎧は『魔王』の物であり、それを消すには『郷愁の禍津像』を破壊するしかない。
実際に今、俺を狙う奈落に向けてバルタが超スピードでの連撃を放ったのだが、それは片腕の鎧と本体を少し傷つけたものの、瞬時に再生されてしまった。
腕そのものに刻まれた斬撃のキズすら、闇が肉の代わりにキズを塞いでいる。
「チッ! こりゃあダメでやすね!!」
「バルタ! 俺達の目的は!」
「解ってやすぜ! ですが何もしねぇのもジリ貧でさぁ!!」
俺達が今すべき事は時間稼ぎだ。正直、奈落が俺を狙ってくれたのは助かった。俺ならば他の誰よりも、逃げる時間稼ぎに向いている。
何故なら俺の脚に装備されているのは、☆4『◇ランニングシューズ』だからだ。
☆4『◇ランニングシューズ』
・《永続スキル・自然治癒(大)》
・《永続スキル・体力+300》
・《全ステータスバフ(歩数条件)》
・《超健康体(条件アリ)》
☆4のクラッシュレアは☆5相当。つまりはブッ壊れ性能だ。しかもクラッシュレアだから、実質的に俺専用装備となる。
上二つについては説明するまでも無いだろうが、問題は下の二つだ。二つとも非常に強力なスキルなのだが条件がある。
まず、《全ステータスバフ(歩数条件)》の方は、その日に歩いた、もしくは走った距離が一キロになる度に全ステータスに+1される。…………そう、一キロ毎に全ステータスに+1だ。距離が伸びれば伸びる程にステータスはどんどん上がっていく、それも満遍なく。
だからこうして走って逃げていれば、俺はどんどんステータスが上がっていき、さらに逃げやすくなるのだ。
これの何がヤバイって、幸運にも+1されていくから、相手のミスや突風なんかで攻撃が逸れる事まであるのだ。
そして最後のスキル《超健康体(条件アリ)》だが、これはその名の通り超健康になる。状態異常に掛からないのはもちろん、ダメージを受けた時の自然治癒力も上がる。一番上のスキル《永続スキル・自然治癒(大)》での回復も、さらに回復量が上がる便利スキルだ。
ただし、その発動条件は少し面倒である。
その発動条件とは、前日から数えて一週間、毎日一万歩以上歩いている事である。サボらずに毎日一万歩以上歩いていれば、このスキルは永続スキルと同じである。何せ、靴を縫いでもリセットされないのだから。
一度、スキルが発動してから、翌日は別の靴で一万歩以上歩き、その翌日にまた『◇ランニングシューズ』に履き替えてみた事がある。凄いことに、これでもリセットされなかったのだ。
継続は力なり。毎日の積み重ねが何より大事だと、教えてくれるかのようなスキルである。意識するとその日に歩いた歩数が解るのもポイント高い。万歩計いらずだ。
更にこの『◇ランニングシューズ』には、スキル一覧には載っていない隠しスキルがある。いや、性能と言うべきか。それは、『走る事に特化している』と言う事だ。
そりゃ『◇ランニングシューズ』なんだから当たり前だろ、と思うかも知れないが、これはただのランニングシューズではなく、ガチャ装備の、しかも☆4の『◇ランニングシューズ』なのだ。
つまりどういう意味なのかと言うと…………!
『逃げるのが上手いなガモン!! だが、躱せない攻撃もあるだろう!!』
その言葉と共に突き出された拳から、鳥とトカゲの頭が首をもたげ、その口を大きく開いて大量の炎を吹き出した。
俺は迫って来る炎に対して立ち止まり、炎の形を見極めると炎に向けて駆け出し、『◇ランニングシューズ』に魔力を込めてシッカリと炎を踏みしめた。
『なんだと!?』
そして炎をかけ上がると、そのまま腕も駆け上がり、奈落の頬に回し蹴りを叩き込んだ! …………が、予想通りと言うか頭が少し傾いただけで大したダメージは与えられなかったようだ。
俺は落下の途中で奈落の背中を蹴り飛ばし、背後に回すと再び駆け出す。頭だけ振り返って俺を睨みつける奈落の眼には、確かな怒りが滾っていた。
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